沈黙の歌Song of Whisper in Silence
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2024-02-13 09:03:00

サンコイチ医療ネタ小話

今回はリクエストをいただいた、サンコイチ・Reconstruction内で出てきた医療器具や医療処置のお話です。
ちょっと専門的な話も混じりますが、何かの参考になればと。
注意点として、今回のリンクは医療関係者向けの物が多めです。その点はご了承下さい。


サンコイチ

3話(9話)

あかりちゃんが夜中に股間を慰めないように付けられたオムツ。
これは介護用のおむつカバーを使用しています。

竹虎 スタイナー®No.700

おむついじり等の行為を防ぐためのおむつカバーです。
ボタンの構造が特殊なため、本人には外しにくくなっています。
作中ではミトンを併用することで絶対に外せないようにしていました。
立ったままでもおむつ交換ができるタイプになっています。


4話

これからことある毎に出てくるピアスのゲージ。
このゲージサイズは病院で使われる針のゲージと同様です。

針のゲージ規格

一般的に採血や外来の手術で使われるのは22G。子供だと24Gが基本です。
全身麻酔の手術だと20G、可能であれば輸血もできる18Gを使用します。
16Gは救急など、急速に点滴や輸血を入れたい場合に使います。とはいえ一般診療では中々お目にかかりません。
そう言えば昔、献血ルームで見た記憶があるような無いような。

なおメジャーなどで実際のサイズを実感した上で読むと……いやぁ、正直書きながらその太さにビビりましたねぇww


7話

おしがま調教回で出てきたカテーテルや尿道ブジーは、この世界の方々にはもうおなじみだと思うので省くとしてw
プレイ後にあかりちゃんがかかった腎盂炎についてです。

元々女性は男性に比べて尿道が短く(男性は20センチ前後、女性は4センチ前後)、また構造上膣や肛門が近く、細菌が入り込みやすいです。
そのためちょっとした疲れや冷え、不衛生な状態により割と簡単に膀胱炎を起こしてしまいます。
病院に行くほどでも無い軽い膀胱炎なら、恐らく大多数の女性は経験があるはずです。

逆に男性の膀胱炎は比較的珍しく、また他の病気が原因となっている事が多いのが特徴です。
そう、それこそ尿道ブジーの取り扱いがまずくて細菌を膀胱に押し込んだり、ね!

本題の腎盂炎ですが、これは腎臓と尿管の間にある場所を指します。
おしっこは腎臓で作られ、この腎盂に集まって尿管へ、そして膀胱へと流れていくのですが、何らかの原因により細菌に感染することで腎盂炎を起こします。

同じ炎症であっても、実質臓器と呼ばれる器官で起こった炎症は非常に高い(40度近い)熱を出すのが特徴です。
腎盂もですが、例えば前立腺や扁桃腺もですね。

腎盂炎もまた女性の方が起こしやすい病気です。
先ほどの膀胱炎と理由は同じですね。ただ、単に細菌感染だけで腎盂炎まで悪化することはそれほど多くなく、よほど免疫力が低下していないとかかりません。
つまりあの時のあかりちゃんは、通常では考えられないほど疲れを溜めていたということです。

軽い腎盂炎なら自宅での療養で問題ありませんが、悪化すると生命に関わることもあるので入院治療になる場合もあります。
ホントにあの程度で終わって良かったよね!!そりゃ塚野さんの説教も真っ当だよ、まったく!


8話

盛り上がって貞操帯(仮)を付けたまま寝ちゃったあかりちゃんの傷の手当て。
これは一般的な傷の処置では無く湿潤療法を採用しています。

湿潤療法とは

こちらは日本における湿潤療法のパイオニア、夏井睦先生のサイトです。
作者が湿潤療法を知ったのは学生時代でしたのであれからもう25年近くが経っていますが、意外と医療の現場ではそこまで普及していないという話も聞きます。
当時の形成外科でも、湿潤療法を積極的に取り入れる先生ばかりでは無かった記憶がありますね。

一般の方ですと、キズパワーパッドが日本では有名でしょうか。
作者の住む国ですとデュオアクティブ(当地ではDuoDermと言いますが)がドラッグストアで売られているので、特に子供が小さい頃は怪我をすればこれで対処するのが基本でした。
作中で塚野さんが使用しているのもこの被覆材です。ハサミで切って好きな形で使えるのが便利なんですよね。

あくまでもキズパワーパッドは絆創膏では無く創傷被覆材なので、取り扱いにはちょっと注意が必要です。
作品の中でも触れていますが、貼る前に洗浄必須。特に異物がある場合は全力で除去。
傷の周りはよく泡立てたボディーソープで洗うと良いです。

消毒薬は使わないこと。
被覆材から体液が漏れ出るなら交換すること。
傷の周りが赤くなる、熱感を伴う、痛みが増す、そんなときは傷が感染を起こしている可能性があるため絶対に使ってはいけません。


15話

排泄管理のリベンジ回です。
6話で登場したのはただのバルーンカテーテルですが、今回は間欠的自己導尿用に作られたカテーテルを採用しています。
これは夜間や外出時などに一時的に膀胱に留置して使うタイプです。

バルーンカテーテル

作中ではちょっと蓋の部分を改造したことになっていますね。

このカテーテルの良いところは、消毒薬に付けた状態で30日間使用可能な点。
そしてキャップに疎水フィルターが採用されている点です。

このフィルターは空気は通過させるけど水は通過させない優れもの。
通常であればカテーテルから尿が流れてくるのを確認することで膀胱に入っているかが分かるのですが、このフィルターがあれば、キャップをしたままでも尿がキャップの部分まで流れてくるため簡単に見分けが付き、かつ周囲を汚さなくてすみます。

ちなみに一般的な膀胱留置カテーテルは、何の問題が無くてもそのまま使えるのは最大4週間です。
尿道に何かを入れるときはその辺を限度に考えた方が、衛生面を考えるといいんじゃないかなと思います。
……え、そもそも尿道は入れる所じゃない?やだなぁ、ここに来る人がそんなことを言うわけが無いじゃないですか!ww


17話

新生活で排便管理が始まった回ですね。
最初はいわゆる家庭用のコロンセラピーで使う高圧浣腸用のバッグを使おうかと思っていたのですが、調べていたら面白い物を見つけたので「こっちの方が安全にできる」と踏んで急遽差し替えました。

ぺリスティーンプラスシステム
使用法動画

見ての通り、排便管理用の医療器具です。脊髄損傷などが原因で便秘や排便障害を起こしている人が使う器具ですね。
特に重度の排便障害で用いられています。
水を注入時に漏れないようにするバルーンが付いていたり、下行結腸までを安全に洗えることから、大学生の彼らでも十分使えると判断しました。
……え、水の量がおかしい?それはまぁほら、フィクションだからww
ちなみにおしがまや洗腸など、一人で試せそうな手技は一通り実験した上で創作に活かしています。あんまり突飛もないものは書きたくないしね!


Reconstruction

スピンオフの方は千花が医師なのもあって、かなり医療ネタをぶち込んでいます。
千花が行う手術は全て実際に形成外科で行われている物ばかりです。
また出てくる医師や医局なども、実際に作者が経験したり見聞きしたネタを随所に仕込んであります。
……そう「違う店に来たみたい」と思わせるようなピンクの手術下着も実際に使われていたんですよね!!www

1話

のっけから何書いてんじゃ!の解剖実習です。
作者の体験が存分に活かされたところですねぇw

実際の解剖実習も作中と同じ感じで行われています。
学校によってはご遺体の詳しい年齢や死亡原因なども教えてくれるそうです。

あの鼻と喉が痛くなる臭いも、ホルマリンでガサガサになった髪の毛の手触りも、そして初めてご遺体とはいえ人体にメスを入れたときの感触も、全て覚えています。
同期は解剖実習で2名退学しました。一人はまさかの自分の実習パートナーでして、彼女が来なくなった分作業が二倍に増えてひぃひぃ言いながら実習をこなしていたっけなぁ……

解剖実習は一つの関門であり、進路変更をするいいきっかけにもなります。
作中で拓海が語っていたとおり、ここで脱落するなら無理して続けても最悪心を病んでしまうので、すっぱり諦めるのは悪くない選択肢なんですよね。


2話

手術用手袋の種類とサイズ

手術用の手袋は1組ずつ個包装で滅菌されていて、術衣に着替えた後好みの手袋を付けるのが通例です。
一口に手術用手袋と言っても、その種類は多岐にわたります。

手術用手袋の一例

ざっくりとですが、ラテックス製のものとそうで無いもの、内側にパウダーが付いているものと付いていないものに分かれます。
この辺は仕事をしていく中で好みのタイプを見つける感じですね。

手袋のサイズ

手袋は0.5刻みに、大体5.5から8.5くらいまであります。
女性は6か6半(6.5)、男性は7から8を付ける事が多いです。
千花は7なので、手は大きめですね。

実際に手袋を出して貰うときは「5半のパウダーフリー下さい」みたいな感じで使います。
ちなみに作者は5半。手はちっちゃいのです(´・ω・`)

手術時のデザインについて

手術シーンで出てきたデザイン。
形成外科では傷跡を目立たなくするために、最初の皮切(ひせつ)と呼ばれるメスを入れる段階から非常に気を遣います。
皮弁と呼ばれる物を作成し欠損した部分を適切に覆うためにも最初のデザインは非常に重要で、これをさせて貰えると言うだけでも新人は喜ぶものなのです。

デザインの一例

こんな感じで、皮膚に直接切開線を書きます。
これはマーカーかな。この辺は所属していた医局によって異なっていて、作者の場合はピオクタニンブルーという紫色のインクを滅菌した楊枝に付けて使用していました。
余談ですがこのピオクタニン、昨今では口にした際の発がん性が指摘されているようですが、形成外科領域では使用に適した代替品がないのが現状のようです。


3話

手術シーン

手術シーンで使った術式は、全て作者が執刀もしくは助手で入ったものばかりです。
特に3話で採用したのは、形成外科領域でもかなり大がかりな手術の一つになります。
第一助手で入ったのですが、朝9時から始まって手術が終わったのが22時半だったかな……

Le Fort(ルフォー)型骨延長術

ルフォーの骨切り術自体は美容外科でもそれなりに行われています。主に顎周りの形を変えるときに使う術式ですね。
作中では作者が経験したルフォーⅣ+Ⅰ型を採用しています。

電気メス

作中でさらっと登場する電気メス。
皮膚以外の組織を切ったり出血を止めたりするのに使われます。

電気メスの製品情報

形成外科ではこの電気メスで直接止血することはありません。
術野は小さく止血点も小さいため、先が尖ったピンセットで止血点をつまんで電気メスをピンセットに当てて止血します。
助手がいる手術では、電気メスを当てるのは助手の仕事です。
外来手術で一人で手術をしているときなんかは、外回りの看護師さんが術野に触れないように電気メスを当ててくれたりします。

ちなみに電気メスを使う際には、アースとして対極版を太股に貼る必要があります。


5話

現役の医師が考えるお医者さんごっこ、がテーマです。
リアルで知るものが多いからこそ、そして万が一の時に何とでも処置ができるという自信があるからこそできるプレイですねぇ……w

点滴の手技

作中で千花がわざとやってる「血管を探して針を刺した状態でグリグリ動かす」やつ、あれは本当に手技に慣れていない研修医がよくやらかすやつです。
流石に若い男性でこれをやることはまずありませんが(肥満などで血管が分かりにくい人は置いといて)、高齢者で血管が細くなっている、さらに固くなっているお陰で針を刺そうとしたら血管がつるりと逃げてしまうような患者さんの場合は割とよくやらかします。
針を刺す前にしっかり確認して、狙いを定めて一気にぶっさりさせるようになるには経験が必要です。

ラリンジアルマスク

声門上エアウェイの種類(動画)
ラリンジアルマスクの挿入

ラリンジアルマスクの挿入手技については、作中で出てきた方法は作者自身が指導医から教わった方法です。
この方法で入れると、実に気持ちいいんですよね。挿入する側がwwつるん!って音がしそうな程綺麗にいい位置へ収まるんですよ。

ちなみに実際の医療の現場で意識がある状態で入れることはまずありません、がもしかしたら救急の現場ではあるかもしれない。
麻酔から覚めたときに嘔吐く患者さんが圧倒的多数でしたので、恐らく意識がある状態かつ嘔吐反射も抑えてない状態での挿入はかなり苦しいと思われます。
……そりゃ、千花さんも奴隷に試してみたくなるよね?ww

バイトブロック

これはバイトブロック。その名の通り、挿管やラリンジアルマスクなどを使用した際にチューブを噛んでしまわないように噛ませるものです。
大抵は挿入したチューブと一緒にテープでどちらかの口角に固定します。


針脱毛(電気脱毛)

作中では麻酔無しでやっちゃった針脱毛。しかもVIO。めちゃくちゃ痛かったはずです。
本来は麻酔のテープなどを貼った後に行います。

針脱毛の施術風景(動画)

毛穴に針を差し込んで通電し、毛根を破壊すると毛がするっと抜けるんですよね。
気持ちいいほどあっけなく抜けるんですよ、これ。
今主流の光脱毛(IPL)じゃこうはいきません。


6話

ここの手術シーンは分層植皮です。
熱傷(火傷)など、広範囲の植皮が必要となる場合に行われる手法ですね。
特に今回はメッシュでの植皮ですから、相当な広範囲の植皮術を行っていることがうかがえます。

メッシュ植皮というのは、健康な部位から採取した皮膚をメッシュ状に加工して使う方法です。
これにより、採取できる場所が少なくても広範囲を覆うことができます。
メッシュの穴は時間が経つにつれ上皮化(皮膚ができてくる)しますが、あみあみの痕が残ってしまいます。

なお、この採皮の事を知っていると痛くて読めなくなる可能性があるようです。
……これね、あまりに気持ち良く皮膚が取れるものだから、若手の医師はこぞってやりたがる手技だったんですよ。
もう自分の感覚がすっかり麻痺していることがよーくわかりましたww

パジェットダーマトーム

これが皮膚を採取する道具。
この半円状のドラム部分に両面テープを貼り付け、皮膚にぐっと押しつけます。
そうして軽く引っ張ってテンションのかかった所に刃を動かして採取していくんですね。
ちゃんと事前に採取する皮膚の厚さは調整可能です。

メッシュダーマトーム

こちらは採取した皮膚をメッシュ状に加工する器械。
綺麗にシワが無いように伸ばしてから加工しないといけないので、意外と難しいです。

植皮術の例

こっちは実際にメッシュ植皮を行った例が出ています(下の例です)
こんな感じで痕が残るため、あくまでも見た目なんて気にしていられないような時に取られる術式です。


まとめ

ということで、ざっくり作品内で出てきた医療処置と器具についての解説と小話でした。
抜けがあるかも知れないです、もしリクエストがあれば書き足します。

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