沈黙の歌Song of Whisper in Silence
沈黙の歌Song of Whisper in Silence
HomeNovelBlogGalleryToolsProfileContact

4話 活路

小説一覧へ

「ええと、筆箱でしょ、ノートでしょ、水筒も入れたしスパムとフォークも……」

 朝、六時十七分。
 一階の教室には、相変わらず代わり映えの無い光が差し込んでいる。
 真昼のように明るい部屋の中、いつものようにファレンが出かける準備をしている傍らで、リルはロッカーに保管してあった斜めがけの鞄を引っ張りだし荷物を作っていた。

「ねえファレンさん、この格好のままで変じゃない? その、襲われたりしないかな……?」
「心配しなくてもいい。新人類の服装概念は俺達とは全然違うからな、何を着ていったって気にしないさ。……むしろそいつの方が俺は気になるんだが、やっぱり持っていくのか?」
「うん! いざというときに、自分の身くらいは自分で守らないとね!」

 いつもの制服に鞄を合わせた姿は、まるでそこだけ世界が巻き戻ったかのようだ。
 それだけに鞄の端からぴょこんと顔を出した……すっかり彼女の心の拠り所として地位を確立したおたまが、ファレンに覆しようのない現実を突きつけてくる。

(まあ、事情を話せば分かってくれるかな。武器じゃ無いのは一目瞭然だし)

 はしゃいでいるようでどうにも緊張が取れない様子のリルを横目に、ファレンはどうか「彼ら」がリルを排除しませんようにと、心の中でそっと祈るのだった。

 ――そう。
 今日、リルはファレンに連れられ、生まれて初めて新人類の街に足を踏み入れる。


 ◇◇◇


 仕事がしたいとリルが言い始めたのは、互いの魔法をまだ知らない頃だった。
 ファレンの説得により一度は諦めていたリルだったが、どうやら学校探索を終えたお陰で筋トレをしながらファレンの帰りを待つだけとなってしまった日常に、彼女はすっかり痺れを切らしてしまったらしい。

「ファレンさん、やっぱりあたしも街で仕事をする! ほら、もう体力だってファレンさんよりあるしちゃんとできるよ!」
「俺より体力があるのは認めるが、そう言う問題じゃ無いだろう! 俺はだな、折角地獄から逃れられたのに、自ら苦界に飛び込むなと言っているんだ!」
「だって!! こんなニートみたいな生活してたら……何もしないで美味しくスパムばっかり食べるだなんて、だめなの、こんなの……っ!」
「……!!」

 文字通り「働かざる者食うべからず」の世界で染みついた強迫観念は、旧人類の生み出した怠惰な贅沢概念すら死ぬほどの恐怖へと変えてしまって。
 この世の終わりと言わんばかりの顔で切々と訴えるリルに根負けしたファレンは、渋々「春を売る以外の仕事を探す」という条件で同伴の許可を出したのだ。

 それから二週間あまり。
 ファレンのスパルタ特訓により、新人類の言葉で簡単な会話くらいは出来るようになった。
 正直もう少し言葉を覚えてから街に出向いた方が良いとは思うのだが、リルは「これだけ喋れたら、後は気合いと身振り手振りとお絵かきで何とかなりますって!」といたく楽観的だ。
 あの根拠の無い自信は、一体どこから溢れてくるのか。やはり筋肉の力か……? と考えてしまうくらいには、最近のファレンはすっかり脳筋腹ペコ娘の思想に染められている。

 ちなみに、ファレンが最初に教えた新人類の言葉は「海藻」「ワカメ」そして「コンブ」であったのは、言うまでも無い。

「いいか、何度も言ったが海藻の話だけは絶対に口にするなよ? 話を振られても不用意に喋るな。ましていい出汁が出るとか、汁物には欠かせないとか、食べ物扱いは素振りすら出さないこと!」
「美味しいってのは絶対言わないけど……口に出すのもダメなの?」
「当然だ。俺の呼び方をワカメの姫にするかコンブの姫にするかだけで、深海の行政府まで巻き込んだ大乱闘を起こすんだぞ!? リルがどちらかの派閥に加担したら、また均衡が崩れて戦争に」
「な、なんだかあたしには理解しがたい世界だね……」

 言葉を教えるに先立ち、東の集落の顛末はリルに洗いざらい話してある。
 リル曰く、以前から集落では積極的に海藻を食料として使っていたらしく、殲滅されるのは時間の問題だったようだ。直前に追放されたリルは、ある意味豪運だったのかも知れない。

「何で新人類は教えてくれないのかなぁ。ちゃんとダメだって言ってくれたら、取らなくなるかもしれないのに」
「いや、あれは教えているつもりなんだ……言葉も通じないから、実力行使で」
「そっかぁ、新人類って割と脳筋で大雑把なんだね」
「……リルに言われるだなんて、よっぽどだな」
「ひどい」

 むくれたリルを宥め、二人は荷物を背負い教室を後にする。
 残された部屋では、真水を入れたビーカーに生けられた一輪のガーベラが、二人の無事を祈るように佇んでいた。


 ◇◇◇


 初めてファレン達がこの世界に花を蘇らせたのは、今から一月ほど前のこと。
 以来ビーカーを一輪挿しにした花が枯れる度に、彼らはどちらからともなく図書室から持ち出した図鑑を捲り、二人で選んだ花の種を作り育てて教室に飾るのが日課となった。

 食べられもしない花のために、わずかとは言え貴重な真水を使うことに、もったいなさを感じないわけでは無い。
 けれど、あの日ピンクのスイートピーが二人に残した衝撃はあまりにも大きくて……たとえ飲み水を減らしてでもこの部屋にかつての鮮やかさをもたらしたいと思うのは、おかしな事でもなかろう。

「…………綺麗だな」
「うん。…………不思議だね、見てると心が……なんだか、ぶわってなるの」
「リルの表現は毎回雑だな。だが、まぁ……気持ちは分かる」

 たった一輪の花が呼び覚ます過去は、二度と手の届かない煌めく洪水のようで。
 新しい花を育てた日は、いつも夜遅くまでただぼんやりと花を見つめて過ごす。

(花も、木も……そうだな、滅びて当たり前なのかもしれない。けど)

 そんな静かなひとときにファレンの脳裏を掠めるのは、いつだったかリトクワが語ってくれた、この星の真実だ。
 自分達の祖先が持ち込んだのか、それとも本来の環境を捻じ曲げて作られた世界に適応するように進化したのかは、今となっては確かめようが無い。
 だがどちらにしても、旧人類の世界に由来する植物が、終末を生き延びられないのは至極当然だと思う。

(それでも、俺は――)

 花を眺めるたびに、ファレンの胸には切なる切なる想いが湧き上がる。
 例えこの星を我が物とした旧人類がヴィランであれど、ただ大地に根付いていた花に罪は無い。
 出来ることならば、この言葉に出来ない美しさの欠片だけでも、世界に遺したいと――

「ファレンさん……あたしたち、最期の日までさ、お花を育てようよ」
「…………そうだな」
「だからさ、死ねないよ? ……勝手に死んじゃダメだよ、ファレンさんも」
「……ま、善処するさ」

 どうやら、二人とも考えることは同じだったようだ。
 独り言のように投げかけられたリルの言葉は、無気力に生きる自分には少しだけ重たくて。
 ファレンは時計に目をやると「流石にそろそろ寝るぞ」と話を終わらせ、踵を返すのだった。

 ――死ねない理由が出来たのは果たしていいことなのかと、胸の中に増えたざわめきを振り払いつつ。


 ◇◇◇


 そうして部屋の中に終末前の華やかさを置き続ける一方で、ファレン達は互いの魔法の可能性を探るため、あれから試行錯誤を繰り返してきた。
 種を作り、育てる――なり損ないと蔑まれてきた自分達が、この世界に於いては今や奇跡とも言える力を手に入れたのだ。
 もしかしたら現状を打開する使い方があるかもしれない、それどころか終末を迎えた世界で主人公の座を射止められるのではないか……

 何せこれは、絶望の中に突如降ってきた希望なのだ。多大なる期待と願望を寄せるのも、無理からぬ話であろう。
 幸いにも彼らの行動を諫めるものはどこにも存在せず、ファレンが街に出ている間はリルが図書室で次の「実験対象」を見繕い、仕事が終われば何かしらを作るという生活を送ること、約一ヶ月。

 その結果は、案の定というかなんというか。

「ううぅ、ファレンさん……あたし、こんな虚しいかぼちゃを食べたの初めてですぅ……」
「……ここまで来ると、かぼちゃと呼んで良いかも怪しいな……グリーンピースの親戚?」
「だめです、そんなこと言ったらもっと虚しくなっちゃうぅ!」

 ――お湯に浮かんだ大豆大のかぼちゃ一粒を涙目で啜る、腹の虫だけは元気いっぱいのリルの姿が全てであろう。

 花が咲くのだし、葉野菜ならそれなりの量が作れるのでは? と試したほうれん草は、遠い昔に育てた朝顔の双葉より可愛らしい物体と化した。
 ならば根っこはどうだと選んだにんじんは、魔力の制御を覚えた今でもリルの小指大より大きく育つことは無い。つまり、食料用途として二人の魔法は全く役に立たないことが確定したのである。

 とは言え、悪い話ばかりでも無い。
 リルが提唱した謎理論「筋肉による魔力制御」を筋トレという形で試みた結果、作れる植物の種類は……大きさはともかく、徐々に増えつつある。
 飴玉のような桃が実ったときの感動は、特にひとしおだった。
 菓子なるものが存在しない世界に降臨した果物は、たった一欠片でもまるで天上の甘露のように感じたものである。

 とは言え、やはり結実までに時間のかかる植物はリルの体力を奪ってしまう。
 腹ぺこになった彼女がスパム一缶で復活するレベルで魔法を使いこなすには、まだまだ時間がかかりそうだし、その頃には……リルが新人類並みに筋骨逞しくなっていそうだ。

「はぁ、これで上手く行ったら、お楽しみの日が増えると思ったのにぃ……」
「まあそんなことだろうとは思ったけどな、種自体が小さかったし」

 がっくりと肩を落としたリルが啜る極小かぼちゃの浮いた湯もまた、試行錯誤の成れの果てである。
 初めてかぼちゃを作った日、スープを作るファレンの傍らで米粒大の種をティッシュに並べていたリルは、どうやら魔法で作った植物の再生産を企んでいたらしい。
「ピンポン玉かぼちゃだって、大量生産出来れば役に立つかも!」と息巻く彼女が育てた種は、果たせるかな更なるサイズダウンしたかぼちゃ(?)と変わらぬ空腹により、リルの期待を見事裏切ったのである。

「何でだろう……お花なら小さくならないのに……はぁ、この小ささじゃ甘さも良く分からないよぉ」
「その代わり、花はどれだけ魔力を注ぎ込んでも種をつけないけどな」
「お花に魔法をかけても変わらなかったものねぇ」
「そうだったな。うん……もしかしたら、そもそもの前提が間違えているのかもしれない」
「前提?」

 片付けをしながら考えを巡らせていたファレンは、一つの仮説をリルに語る。
 曰く、リルの魔法は植物を「育てる」ものでは無いかも知れないと。

「むしろ、植物が種からもっとも輝く瞬間に姿を変える魔法に見えるんだよな」
「最も、輝く……」
「そう。野菜や果物は、人間が食べられる様に作られているだろ? だから美味しく食べられる形に。花は愛でるものだから、咲いた瞬間になるのかなって」
「……んー、よく分からないけど、これ以上実を大きくするのは無理ってことだよね」
「それは魔法の性質以前の問題だな。俺らがなり損ないのへっぽこである以上、どうしようも無いということだろうよ」
「むぅ、あたしは諦めないもん! いつかこんなでっかいかぼちゃを育てて見せるから!」

 両手で大きな輪を作り主張するリルを、ファレンは「まあ期待しないで待ってるさ」と軽くあしらい、放送室のある二階へと上っていく。

(……ファレンさん……また……)

 踵を返した瞬間、ふっと遠くを見つめ郷愁に駆られる様をリルに見られていた事には、ついぞ気が付かなかった。


 ◇◇◇


「にしてもそれ、外さないのか?」
「えへ、かんざしみたいで可愛いでしょ? あ、でもファレンさんの方が似合うかもなぁ。付けちゃう?」
「それ、輪ゴムで止めてるだろ? 後で痛い思いをしそうだし、俺は遠慮する」

 新人類の街へと向かうリルの右耳の上には、薄桃色の花が息づいている。
 たった一輪だけ花をつけた桜の枝は、昨夜リルが盛大にやらかした結果の産物だ。

『ねえファレンさん、あたしこの一ヶ月で結構筋肉が付いたと思うの!』
『うんまあ……俺よりずっと逞しいもんな、その腕』
『それにこの間、桃だって作れたでしょ? だから今日は、桜吹雪を作ろっかなって!』
『いやちょっと待て、どうしてそうなった!?』

 どうやらリルは、自分の中途半端な「お礼」が未だに気になっていたらしい。
 ファレンからすれば、時折新鮮なプチトマトが食べられるようになっただけで十分ありがたいのだが、彼女は何としても自分の魔法でファレンを元気づけ、何なら生きる希望を取り戻させたいようで。

『ほら、最初にスイートピーを作ったときに話してくれたでしょ? 終末の日のこと。凄く美しくて、忘れられないって』
『……ああ、そんなこともあったな』

 かつての世界に幕を下ろすかのように舞い散る桜を語るファレンの表情は、これまで見た中では一番輝いていたのだと、リルは熱弁する。
 だから桜吹雪をここで再現すれば、ファレンさんも元気になるかなって! と目を輝かせる彼女の心遣いはありがたいが、その思考回路はやっぱり理解不能だ。

(……こりゃ、後で倉庫に乾パンを取りに行かないとな)

 とは言え、止めたところで彼女に諦めるという選択肢は無い。
 ここは盛大に失敗して痛い目を見て貰った方が早いと、ファレンは「……まあ、やってみろ」と図鑑を参考に一粒の桜の種を作り出し、リルに託す。

『ふふっ、じゃあ行きますよ! ……小さき命よ、その輝きをぶわわわっといーっぱい解き放てぇ!』
『だから呪文を魔改造するなって!!』

 ――それから十分後。
 一輪の桜を咲かせた小枝を手にし、淡々と説教を口にするファレンの前には「どうしてだめだったのかなぁ」と床に倒れ伏しべそべそ泣きながら、スパムと乾パンをかじるリルの姿があったのだった。

「あんなに魔力をいっぱい込めたのに……制御だって出来ていたはずなのにねぇ、たった一輪だけだなんて……」
「むしろ一輪でも奇跡的だろ。種から育てる桜が花をつけるのって、五から十年かかるって図鑑に書いてたぞ? やっと桃を育てられるようになったリルの力じゃ、流石に無謀すぎる」

 まだどこか諦めきれない様子のリルの頭を飾る花が、彼女を窘めるファレンの視界に入る。
 見慣れた桜よりは淡い色の花弁が髪に揺れる様は、生気のないこの世界では殊更目立つように思う。
 きっと自分の黒髪に挿せば、映える事間違いないだろう。そして――いや、その先は考えてはいけないと、ファレンはとある可能性をそっと胸の奥にしまい込んだ。

「んーでも、髪飾りは長い髪の方がきっと似合うよねぇ。あたしもファレンさんみたいに髪を伸ばそうかな」
「!! 止めておけ、というか絶対にやるな。リルはショートのままでいろ、いいな!」
「ええ……? あたしそんなに長髪が似合わないかな?」
「いやそういうわけじゃ無いんだ……確か前に話したよな? 新人類は確かに気のいい連中だが、ちょっと荒っぽくて変態だと」
「うん、それは聞いた。てか変態って随分な言い方だよね」
「事実だからな! それでだ。……長髪は、新人類の男ほぼ全員の性癖に刺さる」
「…………伸ばすの、やめます」
「よろしい」

 軽口を叩いていれば、やがて街の入口が見えてくる。
 少し顔を強張らせたリルに「大丈夫だ」と声をかけ、二人は門の前に立つ新人類の方へと歩いて行った。


 ◇◇◇


「いらっしゃいファレンちゃん! あら、その子が前に話していた野良人?」
「おはようヌクアさん。そ、名前はリル。……リル、挨拶できるな」
「あっはい! えと『私はリルです! よろしくお願いします!!』」
「あらぁ、ファレンちゃんが教えたの? 上手に挨拶出来てえらいわねぇ、リルちゃん」

 宿屋でヌクアに声をかければ、サロンに集う新人類達の視線が、ざっとこちらに向けられる。
 顔が四角くなりそうなほど緊張を浮かべたリルは、覚えたての新人類語で挨拶を口にした。

 その手はぎゅっと、鞄から顔を出したおたまを握りしめたままだ。

(……まあ、怖いよな。みんな厳つい風貌だし、身体もデカいし)

 それなりに鍛えているリルが華奢に見えるほど、新人類達の体格は立派だ。
 そのうえ強面の男達が勢揃いしていれば、誰だって恐怖を覚えるだろう。
 ましてリルの心の傷は深い。ヌクアの手助けは必須だろうと、ファレンは考えを巡らせる。

「……ファレンさん、あたしもっと筋トレ頑張って、この人達に負けない身体になりますから!」
「ちょ、張り合うのそこなんだ!?」

 だというのに、リルはヌクアの方を向いたまま旧人類の言葉で、想定外の事をファレンにそっと囁くのだ。

 ――どうやら彼女は、筋肉に目を向けることで恐怖を中和しようとしているらしい。
 筋肉は全てを解決するとか何とか以前彼女が言っていた気がするが、事ここに及んでまでその脳筋を貫く姿は……そろそろ呆れを通り越して、ちょっと潔さすら感じるようになってきた。
 全く、筋肉の力はこの終末を迎えた世界に於いて、あまりにも適しすぎだ。

「……ということで、出来れば男性が近寄りすぎないようにしてもらえると。あと、言葉は簡単なやりとりしかできないので、何かあったら俺を呼んで下さい」
「分かったよ。ファレンちゃんがここに来た頃も、身振り手振りだったものねぇ。ほら、こっちは私に任せて、ファレンちゃんはスケベ野郎共の相手をしておいで!」
「あはは……じゃあお願いします。リル、失礼の無いようにな」

 リルをヌクアに託し、ファレンは男達に囲まれていつもの席へと移動する。
 相変わらず賑やかに尊さを叫ぶ彼らと言葉を交わしながら、時折そっと隅のテーブルに目を配れば、リルは早速ノートを取り出して何やら意思疎通を始めたようだ。

「んー、リルちゃん、これは何かな……?」
「えっと、桃です! って、あれ、新人類語でなんて言うんだろう……ええと、たべもの、おいしい、あまい?」
「……なるほど、これはリルちゃんの好きな食べ物か。もも? っていうのね、覚えたわよ」

 真剣に絵を描き拙い言葉で説明するリルと、それを孫を見るような目で見守るヌクア。
 愛想笑いばかりでまともに喋らなかった自分よりずっと、彼女はうまくやっているようだ。
 見慣れない姿に近づこうとする新参者は、ヌクアが気迫と拳骨で追いやっている。これならきっと、仕事が終わるまでリルも頑張れるだろう。

「姫、そろそろ」
「あ、はい、お待たせしてすみません、リトクワさん」
「気にするでない、心配であったのだろう? なに、ヌクアなら上手くやってくれるさ」

 リルの様子にほっと胸をなで下ろしたところで、ファレンの腰にすっと手が回される。
 今にも髪を梳きたくてしょうが無いといった様子のリトクワに笑顔を返し、ファレンは今日もまたいつもの部屋へと向かうのである。


 ◇◇◇


 この部屋で過ごす時間は、いつまで経っても気が遠くなるほどに長い。
 花を見ていればあっという間に時は過ぎ去っていくのになと感傷に浸りつつも、ファレンはいつもと変わらぬ会話をリトクワと交わしている。

「……ほう、あの野良人はワカメの姫の衣装を知っていると」
「ええ。確かこの近くの遺跡から手に入れたと聞いたんですよね。何でも海神様に捧げる舞の衣装だったとか」
「なるほど、それは実に興味深い。海と関係があるからこそ、我々はその衣装を着た姫に強く惹かれるのかも知れぬな」

 世間話をしながらも、リトクワの手が止まることは無い。
 丁寧に髪を梳き、指通りを確かめ、天国にでも昇りそうな恍惚とした表情を浮かべている。

 以前彼が贈ってくれた深海の泥パックは、どうやらファレンの髪質に合っていたらしい。
 あれ以来、更に艶やかさを増した黒髪に魅せられた客達は、こぞって髪に良さそうな素材をファレンに贈りあうようになっていた。
 お陰で万屋のトゥルペは万年過重労働状態だ。かつての世界に存在していた社畜という言葉が頭を過り、どうにも申し訳ない気持ちになってしまう。

(と言っても、俺に出来るお礼はこの髪と身体だけなんだよなぁ……トゥルペさん、そこまで髪にご執心じゃ無いからどうしたらいいか……)

 まとまらない思考を回しながらも心地よさに身を委ねていれば、後ろから「それで、姫はあの野良人をどうするのだ?」と訊ねられた。
 その声にはどこか心配そうな色が見え隠れしていて、ああ、やはり旧人類への警戒は怠らないよなとファレンは事情を話す。

「一応新たな食料も見つかったんですけど、二人で消費するとなるとちょっと心許なくて。本人もこの街で働けるなら働きたいと強く望んでいますし、何か出来ることがあればと思って……」
「スパムが足りてないのか? ならば、報酬を増やすようにヌクアに掛け合おう。優しい姫の気持ちは分かるが、お主の髪が痩せては一大事だからな」
「……痩せましたか」
「酷くは無いが、櫛を通した感触がな……少し変わっている」

(分かっちゃいるけど……うん、髪のためだもんな)

 リトクワや他の客達が、ここのところ拾った野良人にかまけているファレンをいたく心配していることはファレンも理解している。
 ただ、それはあくまでもこの長い黒髪があってのこと。ここでは髪が主で、ファレンはあくまでも「付属品」――新人類達はそこまで思っていないかも知れないが、どうしてもそんな思いが拭いきれない。

「ありがとうございます、心配して頂いて。でも……大丈夫ですから」
「ファレン……」

 だから、ファレンは微笑んで首を横に振る。
 あくまでもスパムは対価だ。決して施しになってはいけない。
 今ですら自分達の生殺与奪はスパムという形で新人類に握られていて、対価という形を取っているとは言え、どこか不平等なやりとりをしているのだ。
 彼らの好意に甘え、施しを当たり前のように受け取るようになったとき……きっと、自分の主体は完全に「髪」となってしまう気がして。

(俺は最後まで……なり損ないであっても、せめて人でいたい)

 だが、と言いかけたリトクワもまた、そんなファレンの複雑な気持ちを汲み取ったのだろう、言葉を飲み込む。
 とはいえ承服はし難いと思っているのがありありだ。
「わかった」とため息をつくリトクワは、髪を梳く手を止めファレンをこちらに向かせる。

「……私はお主の意見を尊重しよう、姫」
「ありがとうございます」
「ただし」
「…………っ!」

(ああ、やっぱり……俺達の全ては、彼らに握られている)

 すっと温度を無くした二つの瞳が、ファレンを射貫く。
 瞳孔がはっきりせず、深海の様に深く暗い……見つめられるだけで奈落に吸い込まれてしまいそうな瞳は、この星における生態系の頂点に立つ新人類らしい――いや、自分達だってかつては他の動物にきっとこんな目を向けていたのだ――どこか傲慢さを湛えていた。

「ファレン、お主がこれ以上痩せ細り傷つくのであれば、我々は躊躇なくあの野良人を排除する。お主は特別な姫なのだ……よいな?」
「…………承知、しました」


 ◇◇◇


「仕事をさせたいなら、あの野良人の髪を伸ばせば良いのではないのか? それとも、陸の人にも髪が伸びない者はいるのか」
「それ、きっと言われると思ったんですけどね! ……髪は伸ばせると思いますけど、彼女、集落の男性に色々と……なので、それだけは難しいかなって」
「ああ……ウドゥイがそんなことを話していたな、そう言えば」
「……ん? あれ、リトクワさん達は髪が伸びないんですか? 短くしているのではなくて?」
「おお、姫は知らなかったのか。多少の個人差はあるが、我々はどれだけ髪を伸ばしても顎先を超えることはないのだぞ」
「あーまあ、勝手に伸びると海の中じゃ大変そうですものね……」

 まだ名残惜しそうなリトクワに時計を指し示して終わりを告げ、着替えている時に受けた提案はやっぱりというか、新人類らしい思いつきであった。
 丁重にお断りすれば、実に残念だと言わんばかりに中年の変態紳士はがっくりと肩を落とす。
 この感じだと、既にリルの髪を愛でる妄想も膨らませていたのだろう。

(髪だけならまだしもさ……絶対に終わらないだろ、おっさん達は!)

 ただファレンも心の中で盛大にツッコむものの、リルがこの街で対価を得る手段は全く思いつかないのが実情だ。
 今頃ヌクアが階下でリルと話しながら考えてくれてはいるだろうが、こちらでも良い方法を探さないとな……といつもの部屋のドアを開けた、その時。

「……ん? 何か下がざわついてますね」
「そうだな。……はっ、まさかコンブ派の連中がまた姫の呼び名を主張しに来たのでは!?」
「いやぁ流石に暫くは……大丈夫とも言い切れないんだよなぁ……まあいいや、とにかく降りましょう」

(いや違う、この感じは……まさか、リルに何か……!?)

 階下から聞こえてきたのは、明らかに異様な熱気を含んだざわめきだった。
 まるで初めてファレンがこの宿屋で客を取ったときのような、崇敬と欲望の混じった気配にただならぬものを感じた彼は、慌てて一階へと走り降りる。

 果たしてサロンの片隅には、大勢の人だかりと「順番だろうが」「早く見せろ」と熱に浮かされた様な声が飛び交っていた。

「リル!!」

 ファレンは思わず大声を上げて、つかつかと群衆に近づく。
 珍しい剣幕に虚を突かれたのだろう、美しい黒髪を靡かせる青年の姿に男達はさっと道を空けた。
 その中心に座っていたのは……真っ青な顔をしておたまを握りしめるリルと彼女を宥めるヌクア、そして知らない若い女性だ。

「あわわ……あわわわ……」
「落ち着いてリルちゃん。大丈夫よ、私達が付いてるから安心して」
「うんうん、怖かったねぇ。心配しないで、こう見えても僕結構強いからさ! リルちゃんには指一本触れさせないよ!」

 二人が必死に宥めるも、リルは怯えた様子で固まったままだ。
 恐らく二人の言葉は、リルには届いていない。彼女の語学力では「大丈夫」という単語が精々聞き取れる限界であろう。
 再びファレンが「リル、大丈夫か!?」と呼びかければ、漸くその耳に声が届いたらしく、リルははっとこちらを見上げ、みるみるうちに眼に涙が盛り上がった。

「ファレンさぁん!! ど、どうしよう……あたし、あたしやっちゃったかも……!」
「うん、取りあえず落ち着け。ほら、深呼吸でも美味しいスパムを考えるのでもいいから」
「ううっ……美味しいスパム……丸かじり……すうぅぅ……はあぁぁ…………あ、涎が」
「それは拭いてくれ」

 ……うん、やはり彼女にはタンパク質と筋肉が効果的なようだ。
 ひとまずはこれで大丈夫だろうと安堵のため息を漏らしたファレンは、成り行きを見守っていたヌクアに視線で説明を促す。
「ごめんね、ファレンちゃん」と彼女は一言謝った後、事の顛末を話してくれた。

「最初はね、リルちゃんと色々お話ししてたのよ。ちょっと通じているか怪しいところもあったけど、そこはまあノリと気合いで……そしたらリルちゃんの髪に不思議なものが付いていて」
「不思議なもの……」
「私も初めて見るものだったから、リルちゃんに説明してもらっていたの。そしたらそれに気付いたお客達がどんどん集まってきて、もっと良く見たいと……」
「で、僕が急遽呼ばれたって訳。ファレン、一体何なんだい? あの薄桃色のひらひらした飾りは」
「飾り……ああそうか、そうなるよな……!」

 ヌクアともう一人の女性の話に、ファレンは迂闊だったと頭を抱える。
 自分達からすれば、リルの髪を飾るのは何の変哲も無い見慣れた桜の花でしかない。
 けれど、そもそも陸という世界を知らなかった……そして世界からありとあらゆる植物が消えた後に陸にやってきた彼らからすれば、淡い桃色も、薄くしっとりとした儚い造形も、全てが未知の物体として興味を惹くに違いない。

「リル、その桜の枝を外せるか?」
「え、あ、うん……いててて、ゴムに髪が絡まっちゃうぅ!」

 まずはこの群衆をリルから遠ざけなければ――
 そう判断したファレンは、リルの髪を飾る桜を外させる。
 更に袋からボトルを取りだし、蓋に真水を注いで枝の根元を湿らせた。

「はいはい、花を見たい人はこっちでどうぞ。あ、見るだけですよ? ……俺のものだから、大切に扱って下さいね」
「!!」

 ボトルの蓋に浸けたままの枝を、ファレンはサロンの中心にある「姫様特等席」にことりと置く。
 ファレンの持ち物という新たな属性を与えられた花は、あっという間に屈強な男達に囲まれ「これが、花だと……!?」「言い伝えと全然違うではないか!」とすっかり大人気だ。
 これで暫くは時間が稼げると、大賑わいの人だかりをそっと抜け出したファレンは部屋の隅にあるテーブルへと戻った。


 ◇◇◇


「ねえファレン、あれが花って本当?」

 漸く落ち着きを取り戻したリルと共にヌクア達に礼を告げれば、ヌクアの隣に座っていた若い女性がこちらに問いかける。
「紛れもなく花ですよ」とファレンは事の次第を二人に語った。

「……と言うわけで、あれは俺とリルの魔法で作った、既にこの世界には存在出来ない陸の花なんです」
「魔法……聞いたことがあるわ。私達人類では到底持ち得ない能力だって。けれど『あの日』に魔法を使える陸の人は滅びたわよね?」
「正確には、まともな魔法を使える者だけが滅びたんです。今生き残っている……俺達旧人類は、魔法を使えないか、使えたとしても皆さんに害を為すような能力は持たないものばかりですよ」
「いやいや、滅びた花を作れるだなんて……とんでもなく凄い魔法じゃ無いか! しかもなんて素敵な色とはかなさを持つんだい、陸の花ってのは!!」

 ファレンの説明に、女性はすっかり興奮した様子だ。
 彼女曰く、海で花と称されるものと陸の花は全く異なる姿をしているらしい。
 花とは彼らの生活圏である深海には存在せず、海藻と同様に天上でのみ出会うことが出来る希少な植物で、しかも陸の花のような色はほぼ持っていないのだとか。
「僕たちにとって色を愛でる相手は、むしろイソギンチャクやウミユリといった動物だよね」と語る女性の隣で、ヌクアがうんうんと頷いている。

 ……それにしても、この女性は初対面だというのに随分と親しげに話しかけてくる。
 ファレンの客に女性はいないが、街中で話でもしたことがあっただろうか。

「そっか。じゃああの反応は、大げさじゃ無いんだな」
「そりゃそうだよ。きっとみんな、花自体を見るのが人生初だろうしね。僕はこんな仕事をしているから海の花にも慣れているけど、それでもワクワクが止まらないってのに! 正直、ファレンの髪よりずっと興奮するよ!!」
「いやちょっとその例えはどうかと……あと、さっきから気になっていたんですけど、俺お姉さんとは初対面ですよね? あ、その、どこかで出会ってたらすみません」
「……へっ? やだなぁファレン、僕だよ僕、トゥルペ!」
「ああそうなんだ、トゥルペさん……って、えええうっそだろおぉ!?」

 衝撃の事実に、今度はファレンが固まる番であった。
「僕、転性だって言ってなかったっけ?」という言葉に、ファレンは以前リトクワから聞いた新人類達の性別を思い出す。
 彼らの性別は男女の他に、旧人類が所謂ふたなりと呼び習わす「両性」と、自由に性別を変えることが出来る「転性」が存在するのだという。

(うん、理解した。理解したけど……新人類には質量保存の法則は存在しないんだな……ああもう、トゥルペさんだって分かっていても目のやり場に困る!)

 この騒ぎの収拾をつけるために呼び出されたトゥルペは、リルを怯えさせないように女性の姿となって傍についていてくれたのだろう。
 言われてみれば、確かに顔には男性だった時のトゥルペの面影が残っている。
 ……残ってはいるが、元々中性的な顔立ちだったところに足された色香は凄まじく、首から下のたわわな果実や引き締まったくびれに至っては、もはや全くの別人にしか見えない。

「ん? どうしたのファレン。何か急に顔が赤くなったけど」
「ちょ、ちょっと待ってトゥルペさん! その見た目でこの近距離はだめです! 俺、一応これでも男ですから!」
「酷いなあ、女の見た目になったって僕は僕のままだよ。第一さ、ファレンだってあんなに僕に毎日裸を見せつけていたんだから、今更じゃん」
「うああああ思い出させないでえぇぇ!!」

(……へぇ、ファレンさんってこんな顔もするんだ)

 基本的に諦観していて生きる気力の無さそうな彼にも、こんな顔を出来る場所があった事に、リルは少しだけほっとした気持ちを覚える。
 ファレンは何も気付いていない。けれど、彼が「死ぬことも出来ない」と自虐しながらもこの街に通い続けるのは、きっとスパムのためだけではない――

 目を白黒させるファレンと、それを揶揄って楽しむトゥルペ。
 そんな二人の掛け合いを、リルとヌクアは言葉は通じないながらも顔を見合わせて頷き、微笑ましく眺めるのであった。


 ◇◇◇


「もう大丈夫そうだな。リル、俺仕事に戻るから」
「あ、うん! ヌクアさんもトゥルペさんもいるから大丈夫だよ!」

 花に群がる男達は増える一方だが、これ以上ここで油を売っているわけにもいかない。
 そろそろ仕事に戻らないと今日のスパムが減ってしまうと、ファレンは人だかりに近づき、次の客に呼びかけようとする。

 だが、その前にファレンに声をかけたのは、群衆の中でもひときわ屈強な風体の男――ウドゥイだった。

「姫、あの花をもらい受けることは可能か?」
「へっ」
「いや、姫の大切なものであれば仕方が無いが……お前さんが良いというなら、是非譲ってはくれぬか? もちろん対価ははずもう、お前さんの望む物を何でも、な!」
「待ていウドゥイ! 貴様、抜け駆けは許さんぞ!」
「は? 言いがかりはよして貰おうか、ワカメ派の学者風情が。ワシはちゃんと紳士的に姫に伺いを立てているだけだが?」
「とか言いながら、どさくさに紛れてファレンの髪に触れていたでは無いか! 私の目は誤魔化せぬ!!」

 突然の申し出にファレンがポカンとしていれば、慌ててリトクワが横槍を入れてくる。
「まったくコンブ派は品の無い」「無断延長常連のワカメ派に言われたくないわ!」と早速口論が始まったところで、漸く提案の意味を理解したファレンは「ちょ、ここで争うのは無しって言いましたよね!」と慌てて仲裁に入った。

 ……良かった、部屋の隅から放たれていたヌクアの殺気は収まったようだ。
 常連二人が揃って出禁になるだなんて、こちらも後味が悪いから本当に勘弁して欲しい。

 まだどことなく腑に落ちない二人を宥めるファレンの周りには、先ほどまで花に群がっていた男達が輪を作っている。
 どうやらあの桜の花を手に入れられるかも知れないと聞き及んで、すっかりその気になってしまったらしい。

(おかしい、俺は譲るなんて一言も言ってないんだけどな!!)

 それどころか、たった数分の内に「姫が一番気に入った物を持ってきた奴が、あの花を貰い受ける」と話に尾びれと背びれと胸びれが追加されている。流石は海の民といったところだろうか。
 これはもう、誰かに譲らないと収拾が付かないなとため息をついたファレンは、彼らの方に向き直った。

 ……リルは悲しむかも知れないが、彼女の安全のためでもあるから、ここは勘弁して貰おう。

「本当に何でもいいんですか?」
「勿論だ、世界中ありとあらゆる場所を駆け巡ってでも探し出して見せよう! ……腕利きの万屋がな!」
「やっぱり僕に頼むんじゃん!! んもう、お代は高く付くからね!」

 高らかに宣言したウドゥイと、それに賛同する周りの男達。そしてトゥルペの悲鳴。
 ……つまり誰がこの花を手に入れることになっても、彼(彼女?)の過重労働は確定したようなものである。
 それならトゥルペさんに一番高い報酬を払った人にお譲りしますねと、ファレンが髪をかき上げにっこり微笑んだ途端、むさ苦しい歓声が上がった。

 ――ついでに後ろの方で誰かがバタンと倒れる音がした気もするが、ここは気にしないことにしよう。
 ならばとファレンは、片隅で成り行きを見守る少女に呼びかける。

「リル、何がいい?」
「えっ? あっあの、一体……」
「ああそうか、今の話は分からなかったよな。簡単に言うと、この桜の枝を言い値で買い取ってくれるってさ。だからリルの好きなものを貰え」
「ほえっ!? でも、あたし何もしてない……」
「花を咲かせたのはリルだろう? それに、桜の花を髪に挿していたからこそこんな話になったんだ。さっき散々怖がらせられた分の迷惑料も兼ねて、欲しいものを強請ればいいさ」
「……ファレンさん、意外と強欲だったんだ」
「正当な対価ならきっちり貰うってだけさ」

 ファレンの問いかけに、リルは戸惑いを覚えつつも「何がいいかな……」と顎に指を添える。
 候補に挙がるのが鯖味噌に牛肉の大和煮、さんまの蒲焼きとやっぱり筋肉の栄養に偏っているあたりはリルだなと苦笑していれば、右隣のウドゥイが苦虫を噛みつぶしたような表情でこちらを眺めていることに気付いた。
 左隣に立つリトクワも、どこか納得がいかなさそうだ。そういえばこの二人は旧人類の言葉も多少理解するのだったと、ファレンは今更ながら気付かされる。

「姫、またあの野良人の言うことを聞くのか!? 少しはお前さんのために欲を出さぬか!」
「いやでも、あの花は俺とリルの二人がいないと作れませんでしたから。何より俺は種を作っても身体に変化は無いですけど、リルは花を咲かせる度に空腹になってスパムを一缶食べなきゃいけなくなりますし」
「ぐぬ……そう言われると強くも言えぬな……」
「ん? 二人で作る……つまり、お主達はあれをもう一つ作ることも可能だというのか?」
「一応は……ただ、桜レベルだと作る度にリルが倒れちゃってスパムだけじゃ足りなくなるから、正直これきりにしたいなって」
「……そうか、それは実に残念だ」

(あれ……?)

 ファレンの説得にあっさり引き下がり、至極残念そうに肩を落とす二人の姿にふと覚えた違和感。
 彼の知る新人類なら、魔法の代償を聞いたところで「食べれば元気になるのであろう?」とスパム缶の増量を申し出、更なる花を強請ると踏んでいたのに。

(これは、もしかしたら……)

 彼らの態度にとある可能性をファレンが見出しかけた、その時。
 サロンの片隅から「決めたよ!」とリルの朗らかな声が響き渡った。

「ファレンさん、あたしパンケーキの粉が欲しい!」
「……はああぁぁ!?」


 ◇◇◇


「パンケーキ……うん、まあ確かに食べられるなら食べたいけどさ……」

 さっきまであれほどタンパク質で悩んでいたのは、一体何だったというのか。
 突拍子も無い提案に、ファレンは思わず「リルお前、本当に炭水化物でいいのか!?」叫んでしまう。
 だが当の本人は上機嫌で「えー、ダメかなぁ?」と首を傾げるあたり、考えを改める気は無さそうだ。

「いやむしろ、リルは筋肉の友が欲しかったんじゃないのか」
「うん。お肉の缶詰が欲しいなって思ってた。でもさ」
「……でも?」
「二人で作ったから、二人で楽しめる方がいいかなって!」
「っ……」

 ファレンさんも嬉しいものがいいよね! と屈託無い笑顔を振りまく彼女の頭に詰まっているのは、どうやら筋肉だけではないらしい。
 思慮深いと言うよりは本能的な勘のような気もするが、何とかしてファレンを生きる気にさせようという善意だけは伝わった。

(……まあ、断るところでもないか)

 数年にわたる侘しい食生活で、その存在すら忘却の彼方に消えてしまっていた、パンケーキなる贅沢品。
 しかしひとたび名前を耳にしてしまえば、あのふわふわの食感と素朴な甘さの記憶が口の中に蘇り、食べたい気持ちは募る一方だ。
 結果としてファレンは、まずリルの要望を耳にした新人類達に「『ぱんけえき』とは何か」を説明する羽目になる。

「ええと、パンケーキというのは粉と牛乳と卵を混ぜて、焼いて作るお菓子なんです。で、リルが欲しいと言ったのはパンケーキを作るための粉でして」
「んー、姫よ『こな』とはなんだ?」
「……はっ、そこからか!!」

 ……いやはや、陸と海の文化は想像以上に隔たりがあるらしい。
 植物を乾燥させて粉々に砕いたものと言っても彼らにはピンと来ず、結局「俺の髪パックに使う、深海の泥を乾燥させた状態みたいなやつです」と例えて漸く想像が付いたようだ。

「あのようなサラサラしたものを食べるとは、陸の食べ物はよく分からんな。喉がおかしくなりそうだ」
「いや、乳と卵を混ぜてから焼くので、実際にはふわふわした塊になります」
「ふ、ふわふわ……? ぬうぅ、ますますもって正体が分からぬ。だが、研究者としては一度見てみたいものだ。『こな』は探さなければならぬとして、乳と卵なら海でも手に入るであろう? トゥルペよ」
「え」
「そうっすね、上質なものならジュゴンの乳がいいかな。卵は……大きさはこのくらい? なら僕はアカウミガメをお勧めするけど」
「あ、あのっ、真水と粉だけでもパンケーキは作れるんで、大丈夫ですっ!!」

 深い海の底を離れて陸くんだりまでやってくるだけあって、彼らは基本的に好奇心旺盛だ。
 そうと決まればファレンのために最高の材料を用意しようと、あれこれ策を練り始める。
 その気持ちだけはありがたく受け取っておくが、折角のごちそうが闇堕ちしかねない海の食材は丁重にお断りした。
 ……部屋の隅で様子を窺っているリルに通訳すれば、これまたとんでもなく渋い顔をしているから、この選択肢は間違えてはいない筈だ。

「って、リルは何を描いているんだ」
「あ、トゥルペさんが探しに行くんだよね? だから、パンケーキを教えようと思って」

 リルはリルで、難題を突きつけられたトゥルペの為に更なる情報を提供しようとしている。
「台所にあるよって伝えて」「あ、普通のお家を探した方がいいよってのも」とファレンに通訳を頼みつつ、ノートにでかでかと描かれたのは……ああ、そう言えばリルの画力までは確かめてなかったなと、ファレンは遠い目をする。

「……リル、それはただの円だ。パンケーキにはちょっと見えな……いやいや、バターを描き足せばいいというものではないな、ただの丸に四角が増えただけじゃないか」
「えー、でもファレンさんはあたしの絵で分かりますよね! なら大丈夫!」
「いや待て、俺は実物を知っているから想像がつくだけであって」
「あっ、トゥルペさんは粉が知りたいんですよね! じゃあ袋を描かないと!!」
「…………四角の中に、丸と小さい四角……? 『ぱんけえきのこな』ってのは、随分幾何学的な形なんだね」
「トゥルペさんの解釈が好意的すぎる」

 何とかリルを傷つけないようにさりげなく指摘するものの、彼女はすっかり頭の中がパンケーキに染められているお陰で、こちらの諌言などどこ吹く風である。
 お陰でトゥルペは、幾何学的図形が描かれたノートの切れ端を手に「と、取りあえず頑張ってみるよ……」とどこか自信なさげに街外れの遺跡へと探索に出かけることとなったのだった。

「……リル、図書室には絵の描き方の本も多分あるから、ちょっと練習しようか」
「うん、もっと美麗な絵が描けた方が、みんなともお話ししやすいよね!」
「あーうん、まあ、そういう事にしておくか……?」


 ◇◇◇


 いつもなら、ファレンと甘いひとときを過ごしたお客はさっさとそれぞれの仕事に戻るというのに、今日はサロンに人が増えるばかりのようだ。
 次のお客を誘いに階下へ降りる度、人口密度が増す光景に一抹の不安を覚えつつも、ファレンはいつも通り仕事をこなす。

 お客から聞いたところによると、下は相変わらず桜の花にため息を漏らし、誰がトゥルペに探索費用を払って花を手に入れるか激論を交わすをお客達で大盛り上がりらしい。
 リルは相変わらずヌクアと一緒に部屋の片隅で、拙い言葉と謎の絵を駆使して語らっているそうだ。彼女はこのまま異文化とのコミュニケーションすら、筋肉で乗り切ってしまうのかもしれない。

(何だか大変なことになっちゃったな……けど)

 ファレンは無意識に、胸の前で拳をそっと握る。
 予想外の反応に戸惑を覚えてはいるものの、心のどこかにはなんとも言えない高揚感が灯っていることに、ファレンは何となく気付いていた。

 それは、決して彼らの尋常ならざる桜への情熱に浮かされたからではない。
 ただ……花という概念すら知らない新人類にも、旧人類の世界の欠片である小さな花の美しさが伝わったことが、まるで自分達の生きてきた世界を少しだけ認めて貰えたようで……
 そう、自分はきっと嬉しかったのだろう。

「姫、今日はこの辺でいいよ」
「ありがとうございます。珍しいですね、まだお時間はありますけど」
「ああ心配しないで、対価はちゃんと払うから。……いやほら、あの花を見られるのは今日だけだろう? 折角だから目に焼き付けておきたいなと」
「ふふっ、お気になさらずに。花も楽しんで下さいね」

 いつもは時間いっぱいまでファレンの髪にご執心な客達も、今日はどこか気がそぞろだ。
 複雑な気分ではあるが、ここのところリルのスパムを稼ぐために働きづめだったから、たまにはこんな日があるのも悪くはない。

 ――そうして、いつもより随分早く仕事が上がった頃。
 有能と名高い万屋は、見事その期待を裏切ること無く宿屋に現れた。

「はいこれ、リルちゃんご所望の『ぱんけえき』であってるかい?」
「「!!」」

 右手に掲げているのは、うっすら埃の積もった袋――かつての世界で見慣れた有名メーカーのパンケーキ粉だ。
 二人の目が輝いたのが分かったのだろう「リルちゃんのお陰だね」とトゥルペは袋をテーブルに置く。
 良く見れば彼女(もう今は彼女にしておこう)の身体は、随分埃と砂に塗れている。きっとあちこちの家を探し回ったのだろう。

「まさか、たった一日で見つけてくるなんて……」とファレンが思わず感嘆の声を漏らせば、トゥルペはその立派な胸を張って「そりゃね、僕これでもちょっとは名の通っている万屋だし!」と得意げに笑った。


「陸は身体が重いからちょっと大変だけど、ここの客達にこき使われたお陰で随分慣れたよ」
「うっ、何かすみません……」
「いいって、これが僕の仕事だし。それに、リルちゃんの絵があったから随分分かりやすかったしね」
「……この絵で理解出来るトゥルペさんが、凄すぎるんだと思いますよ……?」

 彼女曰く、似たような袋がもう一つあったがそちらは「丸の中に波が入っていたから違うって分かった」らしい。
 あのただの四角にしか見えないバターのイラストが、お好み焼き粉との鑑別に大いに役立ったというのか。リルは大層喜んでいるが、ファレンは少々解せない面持ちである。

 だが、何にせよ新しい食材が手に入ったのは事実だ。
 保存状態も良かったのだろう、袋の印字も鮮やかで粉もパッと見た感じは問題なさそうだ。
 ――一瞬、埃の下に数年前の賞味期限が見えたが、これは気付かなかったことにする。こんな世界なのだ、腹さえ壊さなければこの際問題はない。

「ね、ファレンさん早く帰って食べましょうよ! うふふ……パンケーキ……もう想像するだけで頭が蕩けちゃう!」
「はいはい、洗濯と水浴びをしてからな。水も汲まなきゃいけないし……じゃあヌクアさん、俺達今日はこれで」
「はいお疲れ様。気をつけて帰るのよ」

 住処に帰れば、倉庫からキャンプ用品を出してこよう。
 貴重な粉とはいえ、封を開ければそう長くは持たないだろうし、それなら二人で思いっきり食べてしまった方がいい――
 記憶の底に沈んでいた甘い香りと優しい味を脳裏に描き、リルに至っては今にも涎を垂らしそうなほど惚けた顔で、いそいそと宿屋を出ようとする。

 だがそんな二人の美味しい時間は、悲しいかな少しだけお預けになってしまった。

「姫、街を出る前に少々お願いがあるのだが」
「何でしょう、リトクワさん」
「そのだな……陸の人の料理というものを、見せては貰えないか?」
「…………へっ!?」


 ◇◇◇


 それから一時間後。
 宿屋には入りきれないほどの人たちが集まり、住処から持ち込んだキャンプ道具と調理器具を使ってパンケーキを作るファレンとリルを見守っていた。
 当然、二人の傍にはヌクアとトゥルペが陣取り、うっかり(?)ファレンの髪に手を伸ばそうとする不届き者を追い払っている。

「……最初はこんなにいなかったんだけどねぇ」

 性懲りも無くファレンに近づこうとする男に拳骨を食らわせながら、ヌクアは肩をすくめる。
 その視線の先には、真剣な眼差しでパンケーキの焼け具合をじっと見つめるファレンの姿があった。
 腰まである美しい髪は、なんでも調理には邪魔だと言うことで浅葱色の紐を使い高い位置で纏められていて、動く度に揺れる豊かな黒髪と普段は見えないうなじが、不思議な色香を放っている。

「トゥルペ、男というのは髪を纏めるだけでも堪らないのかい? うなじなんて海で散々見慣れているだろうに……」
「僕は転性だから、ちょっと分からないかな……まあでも、みんな仲良くファレンのまとめ髪に夢中になっているなら、争いも起こらなくていいんじゃない」
「それはそうだねぇ、揺れる髪に触ろうとする奴がいなければ、ねっ!」
「ぐはぁっ!!」

(あーあ……いやいや、今はこっちに集中!!)

 ――どうやらまた一人、ファレンの御髪に誘われた憐れな犠牲者が出てしまったようだ。
 吹っ飛ばされる姿を視界の端に捉えながらも、ファレンは住処から持ってきたフライ返しを握りしめたリルと共に、パンケーキをひっくり返すタイミングを計ることに専念した。
 何たってこの機会を逃せば、次はいつ食べられるか分からない貴重な食材なのだ。一欠片たりとも無駄には出来ない。

「……不思議な香りだね。海では嗅ぎ慣れない、何と言えばいいのか……」
「甘くて香ばしい香りですよね。今の俺達にとっては堪らなく美味しそうに感じます」
「えっと……リトクワさん、パンケーキ、食べる?」
「残念ながら私達人類は、陸の人のご飯は食べられないんだ、野良人の少女よ」
「そっかぁ……」

 周囲がファレンの髪の動きに振り回される中、リトクワは一人熱心に記録を取り続けている。
 旧人類が調理に火を使う事は知っていても、実際に間近で見るのは初めてらしい。海とは随分違うのだなと時折感心した様子で頷きながら、彼は薄い板に指を走らせる。

「海じゃ火は使えないですよね。皆さんは食事はどうされるんですか?」
「我々の主食はプランクトンと小魚だからな、そのままがぶっと食べるだけだよ。ああ、祝祭の日には大きな海の生き物を狩って、海底火山で火を通すがな」
「海底火山!? またスケールがでかいですね……ん、リルもういいんじゃないか?」
「うん! ふふっ、美味しそうな色~!」

 存外新人類の食生活はシンプルというか、素朴なものらしい。
 そう言えばここで床を共にする以外の彼らの生活はほとんど知らないなと、ファレンはほかほかのパンケーキを前にして思いを馳せる。

 ――何故だろうか。
 これまでは新人類の事なんて知りたいと思ったことも無かったのに、今日はリトクワの話を聞くのが少しだけ楽しい。

 いや、本当は理由も分かっている。
 けれど、同じものを美しいと思った喜びを……相互理解という希望を抱いてしまえばいつかの未来に失望をもたらしてしまうだろうから、きっと謎のままにしておいた方がいいのだ。

「とまあ、こんな感じで作るんです。これでいいですか?」
「ああ、実に良い資料になる。手間を取らせて悪かったな、姫」
「いえいえ、おまけのスパムも付けて頂けましたし、このくらいなら」

 焼き上がったパンケーキは、学校で見つけた紙袋に大切にしまいこむ。
 今にもかぶりつきたそうなリルを窘めると「じゃあ俺達はこれで」とファレンは今度こそ宿屋を後にしたのだった。

「あれ、ファレンそれ食べていかないの?」
「トゥルペさん、多分俺がここで食べる姿を見せたら……死人が出ませんか」
「あ」
「……危険すぎるわね。ファレンちゃん、明日はゆっくり来なさいな。どうせこいつらも今日は興奮で寝られないだろうし」
「あはは、ありがとうございます……」


 ◇◇◇


「んん、美味しい! めちゃくちゃ甘いよ、ファレンさんも一口どう?」
「お前な、歩きながら食べるのは行儀が悪いだろうが。……変な匂いはしないか?」
「大丈夫だよ、カビの匂いもしないから! それに……ふふっ、こんな美味しいものを食べられるなら、カビがちょっと生えていたって問題は」
「いやそれは命取りだからな? リルは生きたいんだろうが、少しは頭を働かせろ」

 徒歩たった十分の道のりだというのに、魅惑的な香りに抗うことは不可能だったらしい。
 街の影が見えなくなるや否や、リルはごそごそと紙袋を開けて、まだ温かいパンケーキに思い切りかぶりつく。
 とたん頬を緩ませ、ほぅ、と悦楽のため息をつく姿は実に幸せそうだ。お陰でファレンのパンケーキへの期待は高まるばかりである。

「……帰ったら、全部パンケーキにしてしまうか」
「うん! 今日はパンケーキ祭りだね!」

 普段ならこんな贅沢は思いつきもしないだろうが、今日は特別だ。
 この一袋で、一体何枚のパンケーキが出来るかは分からない。それに今は牛乳も卵も無いから、あの頃に比べれば味だって素朴なものに違いない。
 それでも、今日は数年ぶりに「満腹」という贅沢な望みを、しかも飽き飽きしたスパム以外の食事で叶えられるのだ――

「ねえ、ファレンさん」

 小躍りしながら前を歩いていたリルが、ふと立ち止まる。
「どうした?」と声をかければ「お花って凄いね」としみじみした様子で呟き、くるりとこちらを振り返った。

「あたしたちの作ったほんのちょっぴりのお花でも、みんなあんなに夢中になって……夢みたいに美味しいパンケーキでお腹いっぱいになれちゃう」
「そうだな」
「お花を見た新人類のみんなは、あたしを見る目も優しくなったと思うんだ」
「……ああ」
「だからね、決めたの」

 ぐっとおたまを握りしめながら、リルはファレンを見下ろす。
 けれど、その瞳に怯えは無い。そこに灯るのは、眩いばかりの希望と未来へ向かう意志だけだ。
 ――きっと彼女の描く未来の姿は、あの時ファレンが見出した可能性と同じだろう。

(そうだな、これならリルは傷つかずに……何も失わずに、あの街で受け入れられる)

 沈黙は肯定だと言わんばかりに微笑むファレンの前で、果たしてほっぺにパンケーキの欠片を付けたまま、リルは闇を忘れた空に向かって両手を挙げ嬉しそうに宣言するのだった。

「ファレンさん、あたし、あの街に春を届けるお花屋さんになるよ!」

© 2026 ·沈黙の歌 Song of Whisper in Silence