沈黙の歌Song of Whisper in Silence
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4話 Chastity in the Bunny!

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「8月ってさ、バニーの日がいっぱいあるんだね」
「今、何て?」

 立秋も過ぎたというのに全く秋の足音が聞こえない、ある日の休日。
 いつものようにリビングのソファでいちゃついていた幸尚が「ほら」とスマホを奏に差し出した。
 そこには創作者向けのネタなのか、ずらりと「○○の日」が並んでいる。

「……なるほど、語呂合わせ…………2日や21日はわかるけど、ちょっとこじつけが過ぎね?」
「いいんだよ、こじつけだって楽しめれば。ほら、男の子のバニーの日もあって」
「着ない」
「ぐっ……そんなまだ何も言ってないのに、即答しなくてもいいじゃん……」
「ふぅん、じゃあ言おうとしなかったと?」
「だってぇ…………」

 奏の指摘は図星だったらしい。しゅんと俯く幸尚に少しだけ胸が痛むが、ここで引いてはいけない!と奏は自分に言い聞かせる。
 これまで一体何度この顔に絆されてえらい目に遭ってきたか、この身体はよーく知っているのだから。
 特にバニーはいけない。あれは最早トラウマものだと、奏は大学時代の恩師の生暖かい眼差しを思い出してはぁぁ、と大きなため息をついた。

 それにちらりと足元に目をやれば、目をらんらんとさせ「久々の逆バニー……きっとそのまま食べられちゃうんだよね、これは美味しい……」と呟いているあかり。
 俺たちの事が大好きなのは理解しているが、今だけは自重して欲しい。いくらあかりは奴隷とは言え2対1になっては分が悪すぎる。

「大体毎回俺じゃ無くたっていーじゃん!ほら、あかりに着せて楽しむってのもさ」
「「えっ」」
「なんで二人してそんな意外そうな反応なんだよ!!」

 大体バニーってのは女の子が着てるのを楽しむものだろう、と思わず奏が突っ込めば「だって奏、凄く似合うし可愛いしさぁ」「奏様の反応いいですもんね」とこの二人、顔を見合わせて言いたい放題である。
 だが奏の苦し紛れの提案は、幸尚に響いたらしい。まじまじとあかりを見つめて「…………うん、それもいいかも」と一人で頷いている。

「えっと、幸尚様……?」
「この気候だしラバーはしんどいかな……何か良い布地は……」
「……あー、あかり諦めろ。こうなった尚は」
「何にも聞こえないですね」

 大きな身体を丸めたご主人様はぶつぶつと独り言を繰り返しながら、スケッチブックを開いている。
 すっかりスイッチの入った幸尚に苦笑しつつ、奏は「あかり、水飲ませてやる。暑いし水分はちゃんと取らないとな」と給水ディルドを片手にソファから立ち上がった。


 …………


 30分後。

 ようやく案が固まったのだろう幸尚が、足元でじゃれつくあかりを撫でながら「こんな感じでどうかな」とさらさらとスケッチブックにデザインを描いて見せる。

「へぇ、折れ耳……?」
「あかりちゃんは折れ耳の方が似合うと思うんだよね」
「にしてもこれ、露出が少なすぎね……?胸元も覆っちゃうのかよ」

 そこに描かれていたのは、スタンダードなバニースーツより幾分控えめな衣装だった。
 俺はまたてっきり逆バニーでいくと思ってたと奏が不満そうに口を尖らせれば「そりゃ奏だったら露出は多い方がいいけどさ」とさも当然のように幸尚が返す。
 ……俺だったら、ってどう言うことだ。愛されていると惚気るには少々複雑な答えじゃないか。

 だからつい、口から願望が出てしまったのだ。
「俺はあかりにも逆バニーを着せたいんだけどなぁ」と。


 ――これが失言だったと思い知るのは数十分後。


 奏も幸尚も、健全なる男子だ。
 最愛の人こそ男性だけど、綺麗な女性がいれば目で追ってしまうし、女性特有のパーツは大好きである。特に幸尚のおっぱい星人っぷりは今も健在だ。
 ただ、何かと脱がせたがる(というより大抵あかりは裸だけれど)奏と違って、幸尚はどちらかというと覆われていることに良さを感じるらしい。

 今思えば、「目覚める」前からその傾向があったように思う。お互いの部屋をあれだけ行き来していたのだ、互いの好みなんて隠しようが無い。
 ただあかりを作品として扱うようになって以来、その傾向は強まった気がする。

 ……なお、その嗜好は最愛の伴侶を除いて、ではあるが。

「奏は特別。ほら、肌が白いからかな、興奮するとほんのり赤く染まるのがまた良いんだよね!だからなるべく肌を見せた方が可愛くて堪らないんだけど……あかりちゃんは隠してあるからこそ光る魅力が」
「いやいや、あかりだって露出が多い方がこう、ぐっとくるだろ!腰のラインとか尻の丸みとか、それにピアスの刺さった乳首とか最高じゃん!あれを隠してしまうなんて勿体なくね?」
「そうじゃないんだよなぁ……見えないからエロいってのがあるんだよ、何でもかんでも脱がせば良いってものじゃなくてさ」
「おい待てそう思うなら、そもそも俺をホイホイ脱がすなよこのむっつりスケベ!」
「そんな、むっつりって酷くない!?まるで僕が変態みたいじゃん!!」

 かくして、本人達にとってはいたって重要な、しかしとてもくだらない性癖大論争が勃発したのである。


 …………


(……あー、これは長くなりそう。幸尚様は結構こだわりが強いし、奏様もこうなると引かないから……)

 頭上で繰り広げられる言い争いを、あかりは肩を竦めしながら眺めていた。

 二人が結婚して1年あまり。
 といっても大学時代からずっと一緒に住んでいたから生活自体は(あかりの扱いはともかく)あまり変わらない。
 けれど、引っ込み思案でいつも奏とあかりの後ろをついてきていた幸尚が、こんな風に感情むき出しで奏とやり合うようになるだなんて、本当に大きくなったなぁとついつい「尚くん」を守っていた自分が出てきてしまう。

(ふふっ、今日も二人は仲良しって事で)

 推し達の言い争いも、こんなくだらない話ならにまにましながら眺めていよう。
 今日も平和な休日でなによりで――

「大体、尚だってあかりの生おっぱいは鼻息荒くして揉むくせに!」
「っ、そっそれは、でも僕は奏の育った雄っぱいも大好きだよ!」
「雄っぱい言うな胸だ胸!!第一お前な、いくらあかりの控えめおっぱいじゃ物足りないからって、俺の胸を育てるってのはどうなんだよ、二人足せばいいってもんじゃ」
「!!!ちょ、奏、それは」
「あん?…………あっ」

 ――うん、どうやらご主人様は、退屈な平和より刺激的なひとときをお好みのようだ。

「…………ええと、その、あかり……?」
「……奏様」
「はひ」

(むうう、私だって頑張ってるのにぃ……!)

 あかりは胸を反らし、むにゅん、と胸の膨らみを奏の足に押しつける。
 これでも二人とこういう関係になってから散々弄くられたお陰か、ネットで見つけたバストアップ体操やマッサージが功を奏したのか、サイズは2カップも大きくなったのだ。だから決して小さい方では無い、はずだ。
 それでも胸の大きさに関しては、ご主人様達の視線の先を追う限りもっとたわわな方がお好みらしくて、相変わらずどこかコンプレックスを感じているというのに。

(うわやべぇ、あかりが本気でぶち切れてる!!)
(あーあ、久しぶりにやらかしちゃったね……おっぱいネタは禁句だってのに)

 あかりが眉を寄せ低い声で奏を呼べば、地雷を踏んだことに気付いたのだろう「いや、えっと、その」とご主人様はすっかり大慌てである。

「あ、あのな、あかり、これはほらっ俺も尚も巨乳が好きだからそう思うだけで!決してあかりの並盛りおっぱいが劣っているとか悪いとは一言も」
「僕はあかりちゃんのふかふかおっぱいが大好きだし、十分堪能しているよ?あと奏はいつも通り火に油を注いでる」
「ちょ、ずりぃぞ逃げるなよ尚っ!!」
「…………奏様?」
「ひぃっ!」

 いち早く逃げの手を打った幸尚に見放され、恐る恐る見下ろした床の上には、こめかみの血管を浮き出させた幼馴染みの奴隷がにっこりと微笑んでいて。

「…………幸尚様、今の奏様の発言はダメだと思うんですよ、ね」
「ちょ、あかり、どうしてそこで尚に」
「!……うん、そうだね。あかりちゃんの頑張りを踏み躙る言動だよ、うんうん」
「ぐっ、そ、それは……」
「それに自分がドSの変態なのを棚に上げて、人のことをむっつり呼ばわりするのもどうかと思う」
「尚っお前どさくさに紛れてそれは違うだろ!?」
「でもあかりちゃんは奴隷だから、ご主人様にお仕置きなんてできないもんね」
「おい聞けって、うわぁっ!!」

 ひょい、と奏の身体が宙に浮く。
 いつもながら幸尚は俺をどうして軽々とお姫様抱っこしてしまうんだ、と現実逃避気味な考えが過るも、事態は何も好転しやしない。

「だから僕が、あかりちゃんの分もいっしょに奏に『分からせ』てあげる、ね?」
「ちょ、おま、身体でカタを着けようとか卑怯だぞむぐうぅぅ!!!」
「ん…………っ、ふふっやっぱり奏は可愛いなぁ……ね、あかりちゃんもこういうの好きでしょ?見たいよね?」
「大好物です!!」

 ――ああ、全くうちの奴隷はご主人様達の扱いを分かりすぎてやがる。

 真っ昼間から遠慮無くまぐわうきっかけを得てウキウキしている伴侶と、新たなネタにさっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやら「分からせセックスいいよねぇ……はぁ、想像しただけでおなかがずくずくしちゃうぅ……」とまた訳の分からない世界に入ってしまっている可愛い奴隷。
 これはあかりに逆バニーを着せるのは諦めるしか無いな、と心の中で早速白旗を揚げつつ、奏は寝室へと連れ込まれていくのだった。


 …………


 それから数日後。

「……んっ…………ふぅ……」

 カシャンと聞き慣れた施錠音が部屋に響く。
 普段はフルステンレスの貞操帯を身につけているからか、シリコンワイヤーにクリアシールドの貞操帯は少し物足りなさを感じるけれど、初めて二人に着けて貰った思い出がそうさせるのか、この音だけは――同じ南京錠の音だというのに――ちょっと特別で、今でもあかりにほんのりとした絶望と心地よさを与えてくれるのだ。

 それは奏や幸尚も同じらしい。
 この小さな透明の檻には青春時代の全てが詰め込まれていて、だから今でも時々手入れは欠かさないし、何かの折りに短期間だけ装着させて楽しむこともある。

「にしてもさ、尚の趣向なら貞操帯は外すか、着けるにしたっていつもの貞操帯の方がいいんじゃね?あっちなら股間は完全に覆われて見えないじゃん」
「まぁね。でも、今日はこっちじゃ無いと」

 じゃ、着せようかと幸尚が手にしたのは、お手製のバニースーツだ。
 水着用の生地を使ったという黒のスーツは、なめらかな手触りと光沢が美しい。

「結構伸びるから、サイズは小さめにしてあるよ。じゃ、足あげて」
「うん」

 足枷を外し、言われるがままに爪先を通す。
 手はいつも通り枷で繋がれたまま頭の後ろで組むように命令されているから、あかりが幸尚の作品に触れることは無い。

(……ううん、私『も』幸尚様の作品だから……)

 細い筒の中に、ぐいっと柔らかな身体を詰め込まれる。
 確かにこのスーツは、いつものキャットスーツより小さめに作ってあるようだ。胸の部分は形が綺麗に出るように成型してあるとは言え、腹部の圧迫は思った以上にキツいし、心なしか貞操帯がいつも以上に股間に密着している感じがする。
 ネック部分に頭を通せば、ぐっと肩が前に引っ張られる感じがして慌てて胸を張る。作品たるもの、姿勢は美しく保たないと。

「ちょっとずれてるかな……ん、これでよし。次はソックスね」
「あれ、ブーツじゃねえの?」
「身体と同じ生地を使いたかったんだ。だから足は後でピンヒールを履いて貰う」
「なるほど」

 結構締め付けるからね、と思い切り拡げたニーハイソックスの中に足を通せば、爪先からぎゅっと締め付けが上がってくる。
 するりと肌を撫でた瞬間拘束されていく脚の感覚に、あかりの口から思わず「んはぁ……っ……」と悩ましい声が漏れた。

「これ……すごいです…………」
「どう?しんどくない?」
「だいじょう、ぶ……ふふ、何だかこれ……」

 キャットスーツより、抱き締められているみたい。
 うっとりと上気した顔で微笑むあかりに、幸尚も「良い感じだね」と上機嫌だ。

 そのまま太もも部分のベルトをきっちりと締め上げ、金具に通した南京錠をカチリと閉じれば……ああ、切り裂けば脱げる布地なのに、きっと手が使えたってこれを脱ぐことはできないと、心にかけられた鍵をどこか愛おしく感じてしまう。

「……あかりちゃんは大体何でも大好物だけどさ」

 すっかり「入って」しまったあかりの後孔に尻尾を模したプラグを挿入し、二人でピンヒールの鍵付きパンプスを履かせつつ、幸尚はしみじみと語る。

「貞操帯もだけど、いろんな意味で『閉じ込められた』瞬間に凄くいい顔をするんだよね」
「あ、それは確かに」
「だから、あかりちゃんは覆われている方が僕は美しいと思うんだよ」
「そこは意見が合わないな!」
「むぅ……まあ見ててよ」

 頭には同じ生地で作った折れ耳のカチューシャを。
 そして首には別に作った赤いリボン付きの白い襟を巻いて。

「はい、できあがり。どう?って聞くまでも無さそうだね、その顔だと」
「えへぇ……これ、いいねぇ……」

あかりちゃんバニー


 つま先立ちの不安定な姿勢は、どうしてこうも興奮を煽るのだろう。
 水着なんて小さい頃から着慣れているはずなのに、すべすべした布がぴっちりなんて言葉じゃ言い表せないほど強く柔肉を戒めて、胸は苦しくないはずのに勝手に息が上がってしまう。

「……ふぅっ……はぁ…………っ……」

 ふわふわと、ドキドキ。
 ファンの風が肌を撫でる、かすかな刺激すら心地よい。

 熱に浮かされて陶然とするあかりを幸尚は満足げに眺めながら「じゃ、設置するね」と声をかけた。
「はぁい……」とどこか他人事のように吐息と共に溢れる返事に(楽しそうだな、あかりちゃん)と幸尚は柔らかく微笑む。
 ああ、ちゃんと作品になっているなと心の中で独りごちながら。

(本当は顔も覆ってしまいたかったんだけど……それじゃ奏の楽しみが減っちゃうから)

 創作者としての幸尚にとって、あかりは最高の素材だ。
 小さくて壊れそうな身体の中に詰め込まれた数多の感情を、敢えて覆い尽くすことで鮮やかに際立たせる事を幸尚は殊更好むから、普段の作品作りで感情が露わになる顔をそのままにすることは無い。最低でもアイマスクと口枷は装着させるのが基本だ。
 けれど、くるくる変わる表情と声、身体の反応を何より楽しむ奏にこの美しさを共有するには、多少の妥協は必要だろう。

(覆われた良さを好むのは、むっつりじゃ無いんだから、ね!)

 ……実はちょっとこの間の奏の発言を根に持っていたりもする。その分はしっかり堪能して「分からせ」たけれども!

「……これでよし、と。あかりちゃん、そのまま少し膝を曲げて」
「ん、っ……こう……?」
「うん。ちょっとキツい体勢だけどそのままね」

 台の上に載せたあかりの両足をバーで繋いで大きく開かせ、スクワットのように軽くしゃがませる。
 手は頭の後ろだ。不安定な姿勢を強いるから、いくら普段から鍛えているあかりとはいえあまり長時間は難しいと幸尚はしゃがみ込み「奏、ここに座って」と台の前の床を指さした。

「…………え、ええと……?」
「あかりちゃん、今日は口を塞いでないけどおしゃべりはなし。今のあかりちゃんはただの作品」
「……っ、はい……」

(ええええ、そんなところから見るの?)

 いつものように立って360度鑑賞されるものだと思っていたあかりは、突如床に座って見上げる二人に面食らう。
 そんな当惑をよそに、幸尚がいつものように奏に「作品」を語り始めた。

「胸はほとんど覆われてるけど、腋からおっぱいの横のラインだけは綺麗に見えるような形にしたんだ」
「あー確かに、ちょっとはみ出ているのがいい」
「中にある物を想像できるのがいいよね。ほら、乳首の部分も」
「ピアスが浮き出てる……乳首も勃ってるのがよく分かるな……」
「でしょ、覆われていたって、布地の下であかりちゃんの乳首がどれだけ興奮しているか十分想像できる。僕らが育てた部分は隠されているはずなのに、隠しきれない」

(うああああっ、そんな!そんな言い方されたら……!)

 淡々と続く作品の説明は、幸尚の熱情こそ籠もっているもののいつも通りそこに邪な欲望は見えない。
 生理現象として幸尚の息子さんが元気になることはあるけれど、基本的に幸尚の欲情はすべて奏に向けられるから。

 けれど、そんなうっとりとした顔で語られて、なのに性的な興奮ではないと断じられる態度は、逆にあかりの心に火を付け、情緒をかき乱してくる。

 ただの作品として接されるほど、作品として飾られるだけの行為で興奮している自分がどこまでも淫靡に思えて、情欲の連鎖が止まらない――

 それに、とぼんやりとした頭が、少し新鮮な……懐かしいような感覚を囁きかける。

(これ……なんだか、恥ずかしい……?)

 遠くで、幸尚の声が聞こえてくる。

「クロッチの幅もね、敢えてこのサイズにしてあるんだ。完全にクリアシールドを隠さない、けど大事な部分はしっかりのぞき込まないと見えない……割れ目までは見えないでしょ、ここからじゃ」
「確かに。なんだかエロマンガの黒い線みたいだな」
「あ、確かに。見えないから想像をかき立てられるよね。あのクロッチの向こうは今どれだけぽってり腫れて……濡れてるんだろうって」
「そのうち垂れてくるのも良いって?」
「んーそれもあるけど……今ね、あかりちゃんの周期的には……」

(ああ、これ)

 裸なんて、見られ慣れているはずなのに……顔が火照って、お腹が疼いて。
 ああ、今自分はまるで初めて秘所を見られたときのように羞恥心に悶えている。

 大体あかりにとっては、気候に合わせた服こそ着せられるけど裸体こそが奴隷としての正装だ。今更まじまじと見られたところで……いや、恥ずかしさが全くないわけでは無いけれど、何年もこんな生活をしていれば新鮮さなんてとうに消え失せているのは当然だろう。

 なのに、否、だからなのだ。
 意図的に隠すように覆われて、けれど完全に隠しきらずに、ブラックボックスとなった部分へと繋がる導線だけを残され……その中をより鮮烈に想像させ、視姦されるからこそ、恥ずかしい。
 しかも見上げられているだなんて。奴隷として見下ろされることに慣れた頭が、日常を覆されて混乱するのも羞恥心に拍車をかける。

 息が、上がる。
 気がつけば口はだらしなく開いていて、ぬめった舌が顔を覗かせている。
 その事に気付いた奏の肌がゾクリと粟立った。

「……エロいな」
「ふふ、今日は表情が見えるから分かりやすいけど……これも完全に覆ってる方がもっと美しいよ」
「そこは同意できねぇけど、まあなんか胸の魅せ方とか見てると……尚の気持ちは分からなくも無い、かな」

 すっ、と幸尚が股間に顔を近づける。
 クロッチからはみ出たクリアシールドを確認して「うん、いいね」と頷いた。

「ね、奏、これ見て」
「ん?……あ、これあかりの」
「うん、愛液。このシールドでこの時期のあかりちゃんだと、垂れずに溜まっちゃうんだよねぇ」
「へっ?……え、あ、幸尚様あぁぁぁぁ!?」
「すげぇわ、貞操帯の中にたっぷり白いのが溜まって……中が更に隠されるってか」
「いやあぁぁぁ見ないでええぇぇっ!!」

 思わず叫び声を上げれば「あかりちゃん」と幸尚に窘められ、慌ててあかりは続く悲鳴を飲み込む。

(今、何て!?この時期の私、って……愛液って、時期でそんなに違うの!?)

 すっかり頭に血が上っているあかりの足元では、幸尚があかりの愛液について蕩々と語っている。
 個人差の大きい部分だが、時期によって粘度に違いがあること。あかりの場合この時期であれば粘度は高めで興奮して大量に出たとしても、透明なシールドに開いた小さな孔から伝うことはないこと。毎日の排尿と洗浄の時に観察をしていて気付いたのだとも。

(知らなかった……私の身体なのに、幸尚様の方がよく知ってるだなんて……!)

 くらりと目眩を覚える。
 嫌なわけじゃ無い、嫌なわけが無い、むしろ

(そんな、そんなところまで見られて……)


 私の知らない、私の身体まで、掌握されて、管理されている――


「服だけじゃ無くて体液までつかって覆うってか、やっぱり発想がむっつりスケベ」
「ひどいなぁ、あかりちゃんの全てを上手く使っていると言ってよ、ってあかりちゃんっ」
「あぶねっ!!」

 ずくん、と大きな波が、胎を襲う。目の前に星が瞬く。
 あかりの身体が大きく跳ねて、思わずバランスを崩し倒れそうになったところを、慌てて奏が抱き留めた。
 駆け寄った幸尚の目に映ったのは、目を上転させ腰をヒクつかせる、出来上がったあかりの顔。

「うぁ……はぁっ、ああぁっ……」
「…………あかり?え、これもしかして」
「軽く脳逝きしちゃったかな……何が刺さったんだろう……」
「よく分かんねぇけど……ぐずぐずだな」

(ああ、これだめ……きもちいい、また……やだぁ、中を触られたいよぉ……!)

 身体を刺激されずに達するのは、管理される辛さを多少は紛らわせてくれるけれど、結局触れられる悦びには変えられない。
 だから、発散できたようで熱は籠もる一方で。

 けれど、これも絶頂とカウントされてしまうから……ああ、また絶頂をいただける日が延びてしまったと、白くなった頭のどこかが残念そうに囁いた。
 ――囁くのは、残念な感情だけでは無いのだけれど。

「あーあ勝手に逝っちゃったから、こりゃお仕置きだな」
「だね。お仕置き部屋への放置は久しぶり……ってあかりちゃん、自分で逝くの止められなくなってる?」
「あー……電撃用の首輪を使わないとだめかこりゃ……」

 本当に何が琴線に触れたんだ?と首を傾げる奏の腕の中で、新たな管理の事実を突きつけられたあかりは(こんなの……暫く思い出す度に気持ちよくなっちゃう……)と身体を震わせながら支配の悦びとお仕置きの恐怖に震えるのだった。


 …………


「……てことで、その、そんなところまで細かく見られて管理されてるって気付いたら、ぶわって気持ちよくなって……あはぁっ……」
「あかり、顔が蕩けてるぞ?お前勝手に逝っちゃったの、本当に反省してる?」
「あんまり反省して無さそうなら、追加のお仕置きするよ?そうだ、こないだ塚野さんに教えて貰った激マズレシピの再現でも」
「うああああごめんなさいそれだけはやめてええええ!!!」

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