沈黙の歌Song of Whisper in Silence
沈黙の歌Song of Whisper in Silence
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5話 壁(前編)

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「はっ……はぁっ……」
「んぐっ、んぉっ! ……はっ、はぁっ……」

 巨大なベッドが居座る部屋の中、オレンジの柔らかい光に照らされた幸尚からキラキラと汗が飛び散る。
 ぬちぬちと淫靡な音を立てながら腰を振る、幸尚の幸尚様が収まる先は愛しい伴侶の中……ではなく、あかりの後孔だった。

 四つん這いになり、白目を剥きながら濁った声を突き上げと共に垂れ流すだけの道具となったあかりの口は、脱ぎたての奏の下着を詰め込まれている。
 前に回り込んだ奏は、苦しそうに、けれどどこか嬉しそうに剛直を堪能するあかりの様子を満足げに眺めながら、幸尚の準備が整うのを待つのだ。

「随分、んっ……柔らかくなった気がする、ねっ……」
「そりゃもう、一年かけてじっくり育てたからな。クリスマスには間に合わなかったけど、この調子なら尚の誕生日には俺の手でフィストもいけるんじゃね? ……あかり、ゆるゆるケツマンコをしっかり締めろ。ご主人様を気持ちよくするのがお前の役目だろ?」
「!! んうぅぅぅっ!!」
「あ、締まった」

 相変わらず毎夜繰り広げられる愛の逢瀬は、奏の体力温存と幸尚の満足感を満たすために、必ず最初に幸尚があかりを使う事になっている。
 最初の頃はあかりの後ろを使うことに躊躇いの大きかった幸尚だが、最近では「俺らが育てている穴なんだから、たまには検分しろ」と奏に言われて、縦に割れぽってり淵が膨らんだ孔を愛でる機会も増えた。

 奏は幸尚があかりをどう使ったって、やきもちを焼くことは無い。
 大体、毎日のように馬鹿でかい愛を全力で叩き付けられているのだ。どこに嫉妬する要素があるんだよ! と突っ込みたいくらいである。
 けれど、罪悪案を抱く幸尚の優しい気持ちは尊重したい……だから、奏は何かと理由をつけて「俺がけしかけたんだ」と気持ちの逃げ道を幸尚に与え、あかりは「私が声を出すと余計に気になるかも」と自主的に何かしらの方法で口を塞がれることを望む。

 ついでに、お仕置き怖さに必死で逝かないように無駄な努力を続けるあかりも「あかりが逝かないようにするせいで緩んだ穴を締めるためだ」と理由をつけてそっと鼻を塞いで目を白黒させるあかりも堪能できるから、奏としては後ろを使ってくれた方が気分も高まるというものだ。

「んっ、出る……」
「んうう!? ひっ、やっああぁぁっ!!」

 相変わらず規格外の幸尚様が奥を抉り、小刻みに震えながら精を放てば、その刺激でかるく達してしまったのだろうあかりが悲壮な叫び声を上げる。
 ああ、これでまた解放の日は遠のいたなと、奏は笑顔で舌なめずりをしながら、塞がれた口で必死に謝罪を叫ぶ可愛い奴隷を見つめるのだった。


 …………


「いつも思うんだけどさ……あかりちゃんって、僕らがやってるのを見るの、好きだよね」
「はい、大好物ですっ!!」
「即答かよ、っ……んふっ……しかも、大好物って言い方……ぁ……はぁっ、やべっきつい、尚……」
「ん、ほら奏、口開けて」
「んむ……んふ……」

 さっきまで「勝手に逝ってごめんなさい!」とこの世の終わりみたいな顔で泣き叫んでいた筈のあかりはどこへやら。
 いつものように床から伸びる鎖であかりをはしたない姿のまま繋ぎ止め、ベッドの上で愛を交わす奏と幸尚を、あかりは目を爛々と輝かせながら眺めていた。

 散々昂ぶらされて、けれど決して満たされない胎の疼きに、身体は時折もどかしそうにくねり、跳ね、熱い吐息を漏らしている。
 だがその辛さすら、あかりにとってはご主人様から与えられた宝物だ。だからあかりがこの時間を楽しんでいるのは間違いない。

 ……間違いないのだが、どうもあかりからは違う理由が見え隠れする。

「はぁっ、はぁっ、うぐっ……」
「奏、ゆっくり息して……大丈夫だから……」

 今、奏の中には5.5センチのディルドが埋まっている。
 紛い物を内に受け入れるのは未だに慣れないけど、こればかりは仕方が無い。
 何せあかりが奏の手でフィストに成功すれば、奏も幸尚の腕を受け入れると啖呵を切ってしまったのだ。実現が目前に迫った以上、わくわくしながら「ね、今から少しずつ慣らしちゃだめ、かな?」と目を輝かせて見上げる伴侶のお願いを無碍にもできないから。

 苦しさに涙を零せば、眦に幸尚の口付けが落とされる。
 どこまでも優しくて、愛が重くて、それ故に愛しい人に無意識に無体を強いてしまう愛しい人。
(こんなの、尚のお願いじゃ無きゃ絶対やらねぇ……)と必死に息を整えてれば「はぁ……眼福……」とうっとりした声が床から聞こえてきた。

「……ええと、あかりちゃん、楽しんでる?」
「はぁぁ……もう尊すぎて……愛する人を奥まで受け入れるためなら、奴隷と同じガバガバの穴になってもいいって……足りない、いくつ墓があっても足りない……」
「…………うん、楽しそうで何よりだね」

(あはは……あかりちゃんが見ているのは慣れたけど、恥ずかしさは今だって消えないんだよぉ……はぁ……)

 だめだこれは、完全にあかりが腐女子モードに突入している、と幸尚は乾いた笑いを漏らす。
 いやまぁ、あかりが筋金入りの腐女子で「幼馴染みの日」を利用してコミケに突撃する日を未だ諦めていないことも、そこにオリジナルと称した最推しの薄い本を出そうと画策していることも、二人はよく知っている。
 それに奴隷だからって、好きなことまで諦める必要は無い。下手にあかりの生きがいを奪ってしまえば、いつぞやのようにまたあかりが道を踏み外しかねないから、その辺は奏も幸尚もかなり気を遣っているのだ。

 とは言え、最推し……尚奏(と呼ぶらしい)の同人誌を世界に向けて頒布するのだけは、流石に勘弁願いたい。攻めの自分も十分いたたまれないし、奏の「お前俺らを何だと思ってるんだあぁぁ!」って叫び声がリアルに想像できてしまう。
 だからあかりが暴走して印刷所を調べ始める前に、何とかその情熱の方向性を反らさなければ! と幸尚は密かに決意していた。

「う、うん、あかりちゃん、奏がまともに声聞こえない状態で良かったね」
「聞こえてる……ぞ……っ……んぐっ、ふーっふーっ……なぁ尚っ、まだかよ……」
「あ、ごめん」

 だから、こうやって自分達のまぐわいを、鼻息を荒くし訳の分からない言葉を呟きながら堪能するくらいは受け入れよう。うん、恥ずかしいけど。

 そろそろ限界なのだろう奏が涙目でこちらを見つめ「なぁ、俺もう……頑張っただろっ……俺は尚のがいいんだよ……っ!」と可愛らしくおねだりをする姿に、幸尚はすっかりどこかの世界に旅立ってしまったあかりのことはひとまず置いといて、今は愛しい伴侶を存分に愛でようと理性をあっさり手放すのだった。


 ◇◇◇


「はぁ、今日も可愛かったよ、奏……」
「んっ…………なお……」
「いいよ、ゆっくりしてて。落ち着いたら洗おうね」

 数時間後。
 3回戦の制限を、奏が「お仕置きで貞操具!」を発動しない限界まで引き延ばし堪能した幸尚は、今日も充実感と共に清々しい笑顔で、対照的に目を腫らし声を掠れさせた伴侶の額に口付けを落とす。
 今日は(も?)ちょっとだけやり過ぎてしまったかな、と形ばかりの「ごめんね」を囁いてくったりした肢体を抱き締める幸尚の視線の先に映るのは、相変わらず幸せそうなあかりの顔だ。

「……ね、あかりちゃん」
「えへぇ……はっ、あ、はいっ!!」
「…………え、ええと……あのさ、あかりちゃんは辛くないの?」
「へっ」
「だってさ、あかりちゃんずっと気持ちよくなれないまま、その……僕たちのを、見てるだけなのに……」
「…………」
「……あの、あかり、ちゃん?」
「…………ですよ……」
「え」

「見ているだけが!! いいんですよ!! 推しの世界に私など不要!!」
「アッハイ」

 ……見ているだけであれほど幸せになれるだなんて、腐女子って凄くない? なんて思ってしまうのは仕方が無いと、誰か慰めて欲しい。
 だからといって、素直にあかりちゃんに尋ねるんじゃ無かった。
 僕も奏のうっかりが移ってるんじゃないかな……と遠い目をしながら、幸尚は生暖かい笑顔で変なスイッチの入ったあかりの語りを延々と聞き続ける羽目になったのである。

「……てわけで、推しCPの世界に不純物を入れちゃだめなんです! 私はあくまで傍観者、ううん、人であることすら烏滸がましい……こんな尊い世界に生き物として存在するだなんて、折角の推しの輝きに水を差してしまうじゃ無いですか!」
「そ、そういうもの……?」
「そういうものです! だから私はお二人の奴隷として、性欲処理の玩具としてここに転がっているくらいでちょうど良いんです! 何者にも邪魔されない、二人だけの尊い空間を吸わせて貰えるだけで……はぁぁ、救急車ぁ……」
「ちょ、あかりちゃん死なないでえぇぇ!!」

 ……前々から思っていたけれど、あかりの自分達「推し」への想いはガチだ。
 たしかにあかりは恋を知らない。恋心というものが理解できないまま自分達の奴隷として永遠の誓いを立ててしまったわけだけれど、本来色恋沙汰に向けられるべき情熱までBLの世界へと注ぎ込んだ結果がこれじゃなかろうか、と幸尚は内心冷や汗を流す。

 きっと、昔から幾度となく叫んでいる「はぁぁ……この部屋の壁になりたい……!」という叫びは彼女の本心だ。あかりのことだ、比喩では無く心底思っているに違いない。
 数ヶ月前「Purgatorio」で真っ黒なラバーに全身を包んだあかりを額装したときに、作品にされるにしては随分興奮しているなとは思っていたが、あれは多分「壁になった」お陰で妄想が捗ったせいと見た。

(……壁、かぁ…………壁……うーん……)

 相変わらずあかりのマシンガントークは止まらない。腐女子語りに二人への妄想まで混じって、まともに聞いていたら顔から火を噴きそうだ。
 だからあかりの話を聞き流しつつ、思考を巡らせていた幸尚は、そう言えばそろそろクリスマスだよねとふと思い至る。

「……あのさ、あかりちゃん」
「はい」
「今度のクリスマスなんだけど」
「へっ?」

 突然クリスマスの話を持ち出したあかりは、きょとんと首を傾げる。
 だが次の言葉が発せられた瞬間、彼女は興奮のあまりその場で固まり……そのままパタンと倒れ込んでしまったのだった。

「作品とはちょっと違うんだけど……クリスマスの夜に、ここであかりちゃんを壁にしてみてもいいかなって……ってあかりちゃあぁぁん!? どうしたの!? ちょ、大丈夫!!? あわわわっ、奏っあかりちゃんが、あかりちゃんがああ!!!」


 ◇◇◇


「ったく、あの日はどうなるかと思ったぞ……こっちはもう指一本動かしたくないってのに、あかりは涎垂らしてヘラヘラ笑いながら倒れたままだし、尚は真っ青になって叫んでるし」
「「うう、ごめんなさい……」」

 そうして迎えたクリスマスイブの夕方、3人はお祝いもそこそこに寝室へと籠もって準備に明け暮れていた。
 床に広げられたのは、真新しい透明のビニールのような大きな袋と、分割されたパイプだ。
 幸尚が袋を広げると、奏と一緒にパイプを袋の中で手際よく組み立てていく。

「袋を噛まないように気をつけろよ。あと、向きな」
「うん。……あ、延長ケーブルがいりそう。あかりちゃん、ウォークインの下から2番目の引き出しに入っているから取ってきて」
「後ろ手で取りにくけりゃ、口で咥えてこいよ」
「んふっ、はいぃ……」

 これが今年の奏と幸尚からの、あかりへのプレゼントである。
 昨年は檻だったし、この調子だとクリスマスの度に大型器具が増えていきそうだなと苦笑しつつ、二人は額に汗を浮かべながら手を動かしていた。

「凄い……透明のものなんてあるんだ……」
「うん、前に作品になったときに使ったやつは黒だったもんね。これはラバーじゃ無くてポリウレタンなんだ。結構透明度が高いから、目を開けていれば僕たちのこともそれなりに見えると思うよ」
「オーナーのとこは、エアベッドタイプもあるって言ってたよな……てか前から思ってたけどさ、何か相談すればホイホイ出てくるあの店、一体どんな仕入れしてるんだよ」
「今回も『バキュームベッドなら在庫あるわよ、何色にする?』ってあっさり出てきたもんね……僕、塚野さんがこれを仕入れてたの全然気付かなかったよ……」

 組み立てに悪戦苦闘すること20分。
 ようやっとフレームを組み立てた奏達は、全体をざっと確認する。
 何せ今回は3人とも初めての体験だ。あらかじめ塚野の前で組み立てを行い、その場で閉じ込められた塚野の奴隷の甘い悲鳴をBGMに詳しい説明は受けたが、やはり緊張は隠せない。
 ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が、やけに耳に響いた気がした。

(……これで、私は今から壁になる……)

 そう。
 幸尚が提案した、あかりへのクリスマスプレゼント。
 それはかねてからあかりが妄想していた「推しCPのまぐあいを壁になって見守る」シチュエーションを叶えるためのバキュームベッド拘束である。

 あかりの3つの敏感な突起には、今はそこを彩る金属が付いていない。金属類は被膜を傷つける恐れがあるため、貞操帯も含めて全て外し、今は勝手に慰めないように後ろ手に拘束されている。
 今までなら塚野に頼んで外して貰っていたピアスも、今回は奏達の手で外して貰った。
「上手くなっただろ?」とどこか極意げに笑った奏の顔は、随分ご主人様らしくなったなとあかりは不思議な安堵感を覚えたものだ。

「んじゃ、拘束を外すぞ。外したら袋の中で仰向けな」
「あ、耳栓入れよっか。初めてなら着けておいた方が良いって言ってたし……これでよし、と。声、聞こえる?」
「うん、だいじょぶ」
「耳抜きも出来るな?」
「問題ないよ」

 これまた塚野に「騒音は遮断するけど、こっちの命令は聞こえるのよ」と勧められた耳栓をあかりの耳に差し込む。少し詰まったような感覚はあるが、奏達の声を聞き取るのに問題はない。
 なお、お代は当然ながら、幸尚の給料から天引きだ。その辺は抜け目ない。

 奏が開いた膜の中に、あかりがそっと身体を滑り込ませる。思ったほど冷たくはないし、ラバースーツのように足を入れた瞬間から締め付けられるわけでも無いから、なんとも拍子抜けというか不思議な感覚だ。
 被膜を引っ張らないように気をつけながら仰向けになれば、外から奏が「ここ」と指を指している。いや、むしろ指を突っ込んでいる。

 穴から差し込まれた指にちゅう、と吸い付けば、すっと指が離れていって顔の上に透明な被膜が覆い被さった。
 これでちょうど口の所に穴が来る。壁になっている間はこの穴が命綱だ。

(うん、これなら息はそんなに大変じゃ無いかな……どうせなら咥えさせられる方が……はぁ……)

「初めてならまずは穴だけでやりなさいな、慣れればチューブを咥えさせれば良いわよ」とニヤリとこちらを見ながら言い放った塚野の声を、あかりは頭の中で反芻する。
 あ、だめだ。こんなことを考えていたら、直ぐに興奮しっぱなしの股間は涎を垂れ流してしまうと思うも既に時遅し。つぅ、と生暖かいものが尻のあわいを伝っていった。

「あかりちゃん、もうお楽しみかな」
「……ったく、あかりらしいな……あかり、セーフワードは言えるな」
「うん『絶交する』だよ」
「OKちゃんと聞こえるな。何かあったらなるべく大きな声で叫べよ? 俺は絶対反応できないけど、尚だって夢中になったら気付けないかも知れないからな」
「分かった」

 じゃ、スイッチ入れるからね。
 入口を塞ぎ丸めて空気が入らないようにした後、幸尚の声と共にカチリと小さな音が部屋に響く。

「うわ、喧しっ!!」

 思った以上の騒音に「これは一軒家じゃ無いと出来ないね」と顔を顰めつつ、3人はそれぞれ期待に胸を躍らせながら徐々に空気が抜けていく様を眺めていた。


 ◇◇◇


(あ、これ、面白い)

 最初に感じたのは、冷たい被膜が張り付く感覚。
 そして耳がキィンと詰まるような感じ。

 慌てて耳抜きをすればすぐに詰まりは取れるけれど、空気が抜けるにつれてまた詰まるから、これは意識して耳抜きを繰り返した方がよさそうだ。
 人によっては頭痛が出ることもあるというし、これはアドバイス通り耳栓をして正解だったな、と思いに耽りつつ、あかりは徐々に固められていく感触を堪能していた。

 ふにゃふにゃだった被膜が纏わり付き、張り詰め、ピンと固まっていく。
 真空の力というのは馬鹿に出来ないらしい。本当に身動きが取れない。
 口元に空気穴があるから、そこから取り込んだ空気を鼻から出せば陰圧はマシになると教えられたけど、今まで感じたことも無い……拘束という言葉で括るには違和感があり、包まれたという表現には物足りなさを感じるこの密着感は、ちょっとやそっとで手放すには少々惜しいものがある。

(うわぁ……真空パックのお肉の気分……あは、お肉と一緒ぉ……)

 物と同じ扱い。
 そんなことを思い浮かべてしまったお陰で、脳がどろりと甘い蜜に浸される。
 ああ、どうしよう。こんな状態じゃ折角壁になる前に、きゅうきゅうのこの拘束感で身も心もグズグズにされてしまいそうだ。

「はっ……はぁ……っ……」

 少しだけ、息が苦しい。
 陰圧がかかれば当然胸だって押しつぶされる。胸郭の動きが遮られて、少ない酸素に頭がぼんやりし、更なる興奮を誘う。

(これ……いい……)

 うっとりとした表情で見上れば、被膜の向こうに見えるのはどこか心配そうな顔をしたご主人様の顔。
 近くなら表情もしっかり見て取れるな、と焦点の合わない瞳でぼんやり見つめていれば「……なぁ、あかり既にちょっと飛んでる気がするんだけど」と奏の声が聞こえた。

「これ、苦しいんじゃ無くて……気持ちいいんだよ、ね?」
「間違いねぇだろ、こんなドロドロの顔してんだからさ。……おーいあかり、興奮するのは良いけどあんまり暴れたり息荒げるなよ?」
「一応固定はするけど、変に暴れて空気が入ったら危ないからね」
「えへぇ……はぁい……」
「…………こ、これで本当に大丈夫なのかな……?」

 不安げに呟く幸尚に「むしろ堪能してて見られないってのなら、それはそれでいいんじゃね?」と返しつつ、奏はあかりの頭側に回る。
 そのままフレーム毎あかりの肩の下に手を差し込み、同じく足側であかりを支えた幸尚に声をかけて「よいしょ」と真空状態のあかりを持ち上げた。

「ゆっくり下ろせよ……もうちょい右」
「うん……はぁっ、結構重いよね……あ、あかりちゃんのせいじゃないよ、パイプもあるからあわわわ」
「心配するな尚、もう碌に俺らの声なんて聞こえてねぇわこりゃ」

 閉じ込められたあかりを壁にもたせ、パイプをあらかじめ壁に取り付けておいた地震用の転倒防止具で固定する。
 万が一前のめりに倒れたときのために、床には大型のクッションも装備した。
 本当は身体が浮いた状態で固定されている方がより「壁」らしいけれど、何分今回は初めての経験なのだ。爪先だけでも外からクッションが触れていた方が安心できる。

 そのまま二人は後ろに下がり、全体を見回す。
 そしてそれぞれの想いを、ほぅとため息と共に吐き出した。

「……これ、すげぇな」
「うーん、僕は黒のラバーの方が好きだけど……でも、浮き出ているって新鮮だね」
「この状態で触ったら、めちゃくちゃ気持ちいいってオーナーのとこの奴隷さんも言ってたもんなぁ……」
「奏、それはまた後日ね。今日はプレゼントなんだから、あかりちゃんはただの壁」
「分かってるって」

 聞こえるのは空調の音と、小さな呼吸音。
 そしてそっと寄り添う愛しい人の鼓動だけ。
 ……いつもながら、あかりが静かにしているだけで、この家は別世界のようだ。

「へへっ、久々に二人きりって感じがするな……」
「…………」
「いやあかりも居るけど、床にしゃがんでいるのと壁にしているのじゃ随分感じが違って、んぐうぅぅっ!?」
「んっ……ふっ……奏、口開けてぇ……」
「んはっちょっと待て、お前今何に反応したんだよ!!」
「だって…………二人きりって、思ったら……」
「そこかよ! その後の言葉もできたら聞いて欲しかったなってむぐうぅ」
「もう、黙って」
「――――!!」

 ぐちゅぐちゅと、幸尚の分厚い舌で口の中をかき回される音が奏の頭の中を占拠する。
 一度侵入を許せば最後、奏の良いところを知り尽くしたこの男は、キスだけで奏を甘イキさせ、足腰が立たなくなるまでしゃぶり尽くすに違いない。

(いつもながらお前のスイッチは多過ぎだろ!! ……はぁぁ、くっそ気持ちいい……頭、痺れる……)

 いいやもう。
 今日はクリスマスなのだ。そして、自分達のまぐあいだってあかりへのクリスマスプレゼントなのだから。

 だから今日は、早々と愛しい人に流されて、蕩けて、一つになろう。

(……明日のことは明日の尚とあかりが考えるだろ……俺は死んだ、間違いなく、な!)

 心の中で悪態をつきながらお返しとばかりに舌を絡める奏の瞳に、愛しい人のかんばせが映る。
 その眼差しは既に快楽に蕩けきっていて、濡れた唇は幸せそうに笑みを湛えていた。


 ◇◇◇


 一方、あかりは突然目の前で始まった推しのおせっせタイムに、最初からクライマックス状態だった。

(ちょ、うわっ、こんな近くで推しが、推しがああああ!! そう、そうなの! 幸尚様はいつも突然キスをするけど、でもがばっていきなり口の中に押し入るんじゃ無くてめちゃくちゃバードキスをして奏様が口を開けるのを待ってるの、もう解釈一致すぎてしんどい……尊い……あぁぁ……)

 ……一致も何も、普段から目の前で散々いちゃつくのを何年も眺めているのだから、解釈違いの戦争なんて起こりようが無い。
 だがそんな無粋な考察は、今は横に放り投げてしまおう。
 だって今日はクリスマスイブ。世界に数多あるCP達が我々腐女子の妄想を補完してくれる一大イベントの日。
 そして今日の私は、名実共に「壁」なのだから!!

(ああ、そこいいよねぇ……奏様絶対無意識なんだよね、首筋をなぞられたら絶対『尚……
 』って甘い声で呼ぶの。ああなんだろうこの、実家のような安心感のあるおせっせ……二人の周りに薔薇が見えるうぅ……)

 いつもだって、あかりはただの奴隷として……道具として使われ、放置されて二人の激しくもどこか優しい、甘ったるい交合を眺めることしか許されない。
 けれど壁になって堪能する二人の空間は、今まで以上に自分という存在が彼らの尊さを穢さないように感じるからだろうか、より疎外感が増して、それ故に奏と幸尚の魅力が暴力じみていて……だめだもう、語彙が無い、墓も足りない。

 きっとこの後は、奏の足腰が立たなくなるまで壁の前でひとしきりいちゃついて、くたりとした奏をお姫様抱っこした幸尚が優しい眼差しの奥底に凶暴な情欲を滲ませながらベッドへと移動するんだ。
 そう、最推しの事だから何だって知っている。

(ああもう幸せ……こんなお宝画像、全部焼き付けておかないと……はっ!! そうだ壁になってRシーンが見れるってことは、これが薄い本の世界……これなら、描ける……っ!)

 これは最高のクリスマスプレゼントが過ぎる……と、あかりは拘束への耽溺もすっかり忘れ、呼吸口から涎を垂らしながら、瞬きする時間すら勿体ないと言わんばかりに目を見開き、目の前で繰り広げられる夢のようなひとときを堪能していた。

 一方。

「尚……尚っ……」
「うん……大好き…………んっ……」
「はぁっ、ちょ……いつもより、固くね……?」
「んふ……だって、奏が可愛いから……」
「可愛いって、言うなぁ……」

 いつもながら幸尚は、暴力的な下半身からの呼びかけにはすぐ答えて奏をあの手この手でぐずぐずにするくせに、呼びかけた幸尚様自身を埋め込む気は無いらしい。
 奏としては、勢いに任せて突っ込んじゃえばいいのに……と思わなくもないが、幸尚の性格と、何よりご立派すぎて尻の心配しか無い凶器を目の前にして「早く」と急かすだけの勇気はとても無い。

 ……むしろ付き合いだしてからこれまで、あまりのねちっこさに何度も口が滑り、その度ベッドから起き上がれなくなっては、二人に甲斐甲斐しく介護されるのがお約束になっているのだ。
 だから、その言葉だけは軽々と口にしてはいけない。
 結果的に尻が大惨事になれば、このばかでかい男が全力で身体を小さくしてさめざめと泣いてしまうのだから――

 そんなことを思いつつ、だがやはり奏の口はうっかりさんである。
 いつもと違う雰囲気に耐えきれなくなったのだろう、その場でシャツのボタンを外し鎖骨に舌を這わせる幸尚の頭を掴みながら、奏は息も絶え絶えに「な……なおっ……」と呼びかけた。

「……はぁ……あの、さっ……」
「ん、どうしたの……? もう我慢できない?」
「…………圧が強い…………」
「え……?」

 はぁっ、と熱っぽい吐息を漏らしながら、奏は涙目で「だから!」と幸尚に訴えかける。

「なあこの壁、いくら何でも圧が強すぎるだろ!! さっきから聞こえないはずのあかりの奇声が聞こえてくる気がするんだけど!!」
「そうなの? ……あー……うん、これはこれは」

 珍しく真っ赤になった奏の泣き言に後ろを振り向いた幸尚は、全てを察した。
 まだ自分達の知らないあかりがいた、それを引きずり出せたことにちょっとだけ嬉しさを感じながら。

(うわぁ、あかりちゃんばぶっ飛んでる……うん、僕ら生まれたときからずっと一緒だけど、その顔は見たことが無かったかな……)

「えへぇ……はぁっ、ほうほひ…………」

 そこにあったのは、上下の口からダラダラと止まらない涎を垂れ流す、どうしようも無くぶっ飛んだ奴隷兼幼馴染みの姿。
 どうやら、想像以上に壁になる経験は素晴らしかったのだろう。小さな呼吸口には涎の泡が出来ていて、あれで本当に呼吸できているのかちょっと心配になる。

 そして。

「……うわぁ、あかりちゃん……あんまりいっぱい出すと圧が弱まっちゃいそう……」

 股間には、一目で分かる濁った水の塊がいくつか宙に浮いていた。
 確かにバキュームベッドは完全な真空では無い。動きが激しければ少しずつ空気は中に入っていくし、だからといって延々と空気を抜き続けるのは騒音もさることながら、健康面で心配もある。
 だけど、見たところあかりは多少息こそ荒げているものの、拘束から逃れようともがく素振りは見せない。

 当然だ、彼女は今「壁」……つまり拘束状態でなければいけないのだから。むしろわずかな動きさえ許さないとばかりに、無意識に身体が跳ねないよう力を入れている節すら見受けられる。
 その代わり……股間は正直らしい。いや、この興奮はバキュームベッドそのものと言うより、壁というシチュエーションと、その眼前で繰り広げられる推しの……つまり自分達のまだ前戯と言うほどでもない(と少なくとも幸尚は思っている)触れ合いの成せる業だ。

(本当に、僕らの事が大好きだよね、あかりちゃんは……)


 しかしいくらあかり相手とは言え、愛しい人が壁に気を取られているのは少々気に食わない。
 そう、あかりちゃんが楽しむためにも、奏は僕の手でドロドロに溶けて、僕しか見えなくなって、良い声で鳴いた方が良いに決まっている――

 いつも通り愛しさ故にすぐポンコツになってしまう幸尚の頭は、明日の奏の運命を決定づけてしまって。

「ね、奏……?」
「なに、んひぃっ!?」
「ふふっ、かーわいい……先っぽシャツの上からスリスリされるの、大好きだもんねぇ……」
「あっ、んあっあっうああぁっ……!」

 ねえ奏、いっぱい僕に集中して。
 じゃないとあかりちゃんのクリスマスプレゼントにならないよ?

 低く欲情に濡れた声が、奏の鼓膜を震わせる。
 その瞬間「あ、さよなら明日の俺」と奏は早々に白旗を揚げ、ちょっぴり震えながら幸尚に身体を預けてしまうのだった。


 ◇◇◇


(はわわわっ、これは新しい展開……!! ちょ、壁、そう、ここ壁!! 壁だからそうだよね、駅弁に使われたっておかしくないよねっ!!)

 そこからの展開は、実に濃厚だった。

 先ほどまであかりが感じていた、いつも見慣れたまぐわい……だったのは、ベッドに戻った奏の後ろを「もうだめっ、尚っ挿れてぇっ!」と奏が涙声で何度も喘ぐまでほぐすところまで。

 そのままいつものように正常位で繋がるかと思ったら、ひょいと奏をお姫様抱っこした幸尚がずんずんとこっちに近づいてきて。

「折角壁があるんだし、こういうのも……いいよ、ねっ」
「んあああっ……!! ぁ……は……っ!!」

 浮かせた奏の入口に切っ先を添えたかと思ったら、ズドン、と音がしそうな程の勢いで奏の身体が落とされ、声にならない嬌声が部屋に響いた。
 ああ、はっきりとは見えないがあれは下生えがくっついている。幸尚様の大きさが根元までずっぽりだなんて、奏様は確実にぶっ飛んでいるはずだ。
 案の定、壁の前で幸尚がぐっ、ぐっと奏を跳ね上げれば、その度に濁った鳴き声が奏の口から上がる。
 あまりに気持ちよくてちょっと不安になっているのだろう、喘ぎ声に「なお……なおぉ……!」と今にも泣き出しそうな呼び声を混ぜる姿に、あかりの胸はキュンキュンしっぱなしである。

(うはぁぁっ、ちょっ奏様っ、そんな切なそうな顔で幸尚様を呼ぶなんてっ! 普段の鬼畜ッぷりとのギャップ萌えが美味しい……ごちそうさまです幸尚様ぁ……)

「うぁっ、んはっ……あ、ああっ、なんでっ、なんで尚っ……!?」
「大丈夫だよ奏。僕はちゃんとここにいるから」

 なのに、抱き締めたいと手を伸ばす奏に深い口付けを施したかと思えば、幸尚は中を貫いたまま器用に奏の向きを変える。
 温かい胸から離されて悲鳴を上げる奏を、幸尚は後ろから包み込むようにそっと抱き締め……そして目の前の壁に手をつくよう促した。

 そこにあるのは、壁。
 そう、あかりという柔らかい壁の、二つの膨らみの頂だ。

「大丈夫、僕は後ろにいる。あかりちゃんも……ああ、壁だけど、前にある。ほら、しっかり掴んで」
「んぉっ!?」
「……あかりちゃん、あかりちゃんは今壁なんだから、声を出しちゃダメ。……特等席で楽しんで、ね?」
「ちょっ待って尚っあぁっ!!」

 言うが否や、幸尚の腰がリズミカルな抽送を始める。
 既にグズグズに蕩かされた奏の胎が、存在だけで大概な幸尚の幸尚様に勝てるわけが無くて、咎める声はすぐに甘い鳴き声に代わり、震える手は崩れ落ちないよう必死に目の前の壁を揉む。

(うはぁぁぁ……!! 奏様も、幸尚様も、どアップぅ!!)

 いくら幼馴染みでこれまでずっと側にいたとは言え、こんな至近距離で愛を交わす二人を見つめた事は無い。
 ああ、人生最大のクリスマスプレゼントだこれは。もう、なんていうか、その……
 だめだ語彙がもう無いし、そもそも興奮しすぎて目の前まで赤くなって来ちゃった気がする。

「んあっ、はぁっだめっ、尚っ、俺逝ってる、まだ逝ってるうぅっ!!」
「うん、いいよ……支えてるからずっと逝きっぱなしで。……ふふ、大好き、奏……」
「うああぁぁっ……!!」

 寝室には、いつも通り幸尚の上擦った囁きと、奏の切羽詰まった、けれど甘ったるい叫び声が響いている。
 今日はクリスマスイブ。つまり、朝までやっても奏は怒らない。

「はぁぁ……尊い……」

 最早「尊い」意外の語彙が消失したあかりは、自分の身体に起きた異変にも気付かないまま、息を荒げてただただ二人の幸せそうな睦み合いを眺めるのだった。


 ◇◇◇


 けれど残念ながら、夢の時間は朝までは続かない。
 ……いや、まさか朝までバキューム拘束したままでしたなんて塚野に報告したら、間違いなく3人揃って雷を落とされていただろうから、これはこれで良かったのかも知れないけれど。

「ふぅっ……ああ、もう全然力入らないね、奏……じゃあそろそろベッドに移ろう、か……っ!?」

 多分奏はもう絶頂から降りてこられないはず。
 最初の内は勢いよく壁に放たれていた白濁も、今やすっかり薄まって壊れた蛇口のようにたらたらと溢れるだけで、その中心はしんなりと力を失っている。
 けれどこれまたいつも通り、幸尚の中心は萎えることを知らない。というより、今日はまだ1回しか達していないのだ。「壁」効果、恐るべしである。

 ようやく白濁を奥に放ち、ずるりと剛直を抜き去った途端に崩れ落ちかけた奏を、愛おしそうに幸尚は抱え上げ抱き締める。
 そうしてまずはゴムを替えなきゃとくるりとベッドの方を向こうとして……もの凄い勢いであかりの方を振り返った。

「あ……あ、あ……」
「…………?」

 その顔は、さっきまでの穏やかさの欠片も見当たらず、何なら少し青ざめていて。
 どうしたんだろうとあかりがぼんやり幸尚に焦点を合わせようとしたとき、震える唇が開いて、素っ頓狂な声が部屋に響いた。

「あかりちゃああぁぁん!? ちちち、血っ!!」
「……ち?」
「鼻血!! 出てるぅっ!! ちょ、ちょっと待ってすぐに降ろすからぁっ!! 奏起きて、あかりちゃんが、あかりちゃんがあぁっ!!」
「んっ、何だよ尚…………ってうおおおぉい! あかりすげぇ鼻血出てるじゃねぇか!!」
「へっ」

(あれ、もしかしてさっきから何となく視界が赤かったのって、このせい?)

 気付いた途端に、ふぅっとあかりの視界が真っ暗になって。
 遠くで「あかりちゃん死なないでえぇ!!」「何か前にもあったぞこんなの!!」と二人のご主人様の怒号が聞こえる中、腐女子モードを暴走させすぎたあかりはシャットダウンしてしまったのだった。


 ◇◇◇


「次からあかりの鼻にはティッシュを詰めておこう」
「あ、次の予定はあるんだ」
「……無しって言えるか? あの顔を見て」

 あれから大慌てで奏と幸尚があかりをバキュームベッドから解放したときには、あかりの鼻血はすっかり止まっていて、ついでにあかりはそのまま気持ちよく眠りの世界へと飛び立っていた。
 すっかり緊急モードで淫らな気分もすっ飛んでしまった二人は「流石に朝まで様子を見たいよね」「ここで檻に戻すほど鬼畜にはなれねぇわ」とあかりを丁寧に清め、二人のベッドにあかりを運び込んで久しぶりに3人仲良く眠りについたのだった。

 そんな二人の心配を吹き飛ばすかのように、あかりは今日も元気である。
 時折壁を見つめてはあの日のことを思い出すのか、にへらと笑う姿は……うん、その顔は外で見せちゃいけないねと苦笑するしかないのだけど、何にしてもあかりが楽しんでくれたならプレゼントの甲斐はあったということだ。

 ちなみに血液の落とし方を塚野に聞いたせいで、3人は既に雷を落とされ済みである。もうお約束ね、何かやると思ったけど! と塚野も呆れ顔だったっけ。

 けれど、失敗しなければ限界だって分からない。
 今更失敗を後悔しても何にもならない。何よりあかりがあれほど気に入ってくれたのだ。責めとして使うことは出来ないけれど、たまのご褒美には良いかもしれないね、と二人は相変わらずぶっ飛んだ奴隷を微笑ましく眺めながら語るのだった。

「奏様、幸尚様っ! 決めました、来年8月の幼馴染みの日はコミケにします!! 受かるかどうか分からないけど、今から準備すれば尚奏の薄い本を出せるはず!」
「あかりちゃん、それだけはやめてえぇぇ!!」
「お前な、本を出すなら次の予定は無しだ、無しっ!!」

 ――前言撤回。
 このご褒美は、あかりの熱暴走が収まる日まで当分使えなさそうである。

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