第2話 初めてのピアス
(お題: プレゼント)
退屈だが平和。
紫乃が通う大学の側にある書店のバイトは、一言で言えばそんな感じだった。
周囲は大学に入った開放感で、やれサークルだ、恋愛だと浮かれているが、紫乃には縁遠いものだと思っていた。
幼い頃から居合の稽古三昧で、恋は中学の時に告白して「男みたいな奴に興味は無い」とすげなく断られて以来諦めている。
(無理も無いか、刀を振り回してる男勝りの女に、恋なんて分不相応だ)
そんな自分には、滅多にお客が来ないこの本屋がお似合いだと思っていたのに。
「ねぇ結城さん、今日こそ名前教えてくれるかな」
「……お客様、ほかのお客様のご迷惑になりますので」
「大丈夫、僕以外いないよ」
金髪に黒縁の眼鏡をかけた、いかにも軽薄そうな青年。
1ヶ月前、初めてこの書店を訪れた彼は、紫乃を見るなり「あの、付き合ってくれませんか!」と大声で告白して以来、毎日のように通い詰めては人の名前を聞き出そうと躍起になっている。
その度すげなく断り続けているのに「僕、北森祐介。祐介って呼んで」と図々しく自己紹介をしてきたこの男は、どうやら紫乃が首を縦に振るまで諦める気は無さそうだ。
「……全く、いい加減諦めたらどうですか」
「ふふっ、君が付き合ってくれたらね」
「それは諦めるって言いませんよね」
まぁまぁと言いながら、祐介はポケットから何かを取り出す。
綺麗にラッピングされた小さな箱には赤いリボンがかかっていた。
「これさ、ピアスなんだけど良かったら着けてみてよ」
「……はい?」
この男は頭が湧いているのか。
自分のような女にそんなものが似合うわけが無いだろうと突き返そうとしたその時。
「君は美しいよ。ピアス似合うと思うんだよね。ね、試しに着けてみて」
「……は?」
あまりに突拍子も無い発言に、紫乃はその場でぴしりと固まる。
その隙に祐介はプレゼントを押しつけて「じゃあね!」とさっさと去って行った。
「……あいつ…………冗談でしょ……」
美しいとか。
どれだけ人を揶揄えば気が済むのか。
慌ててエプロンのポケットにプレゼントを押し込む紫乃の顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
その夜、紫乃は鏡の前に向かっていた。
「……ったく、余計な手間を……」
文句を言いながらも、消毒した耳にピアッサーを当てる。
えいやっとスライダーを押し込めば、バチン!!と思ったより大きな音を立ててピアスが耳たぶを貫通した。
「……ふぅん、意外と痛くないのね」
続けてもう片方の耳にもピアスを開ける。
そうして鏡を覗けば、ベリーショートで露わになった耳にキラキラした青色のピアスが輝いていて。
ああ、確かに似合っているかもと不覚にも思ってしまう。
「っ、あいつが!しつこいから着けただけよ、こんなの……!」
慌ててかぶりを振りながら片付けをする紫乃の頭の中には「君は美しいよ」と囁く祐介の声がいつまでも鳴り響いていた。