沈黙の歌Song of Whisper in Silence
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3話 忘れ物

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(お題: 掃除)

「うわ、隅に埃玉が」
「あかりちゃんは四角いところを丸く掃くタイプだなこりゃ」

幼馴染み3人が大学に入り家を出た後、幸尚の両親は3人が住み着いていたこの家の大掃除に追われていた。
リビングや水回りは随分綺麗だったが、幸尚の個室とあかりが使っていた部屋の掃除はかなり手抜き感が見られる。

と、ベッドの下に掃除機をかけていたら何かコツリと物が当たる感触があった。

「……何かベッドの下にあるわね」
「忘れ物か?なら届けてあげないと……な……っ?」

守がごそごそと手を突っ込んで、ベッドの下に落ちていた物を取り出す。
それを見た二人は、目が点になってしまった。

そこにあったのは、俗に言う大人のおもちゃ。
更に革製の枷が2セットと、これは何だろうか、穴の開いたピンポン球のようなボールがついた革製の何か。

「……これ、届けるの?」
「いや、流石に……見なかったことにしておこう」

乾いた笑いを浮かべながら、しかし大切なものかも知れないと守は空き箱に怪しいグッズを入れる。
彼らが帰省した時に、そっと持って帰れるように。

にしても、と美由がその中身をしげしげと眺める。
「これ、きっとあかりちゃんの私物よね」と呟けば、もしかしたら幸尚や奏君のかもなと返す守は、その随分大きなディルドが気になるらしい。
こんなサイズのものがあるだなんて……ちょっと自分に自信が無くなりそうだ。

「これはえすえむ、ってやつよね多分……あかりちゃん、こういう趣味だったんだ」
「いや、これは幸尚か奏君も共犯だろう。親のいない間にとんでもないことに手を出したんだな、彼らは……」

どうする、注意するの?と美由が尋ねれば「いや、もう彼らも大人なんだし」と守は笑って返す。

3人の内の誰が、いやもしかしたら全員がそういう趣味なのかも知れない。
自分達には理解しがたい世界だが、それでも彼らが元気で仲良くやっているなら問題は無い。
何よりうちの幸尚は思慮深い子だ、あの子が大丈夫だと判断したなら大丈夫だろう、と守はいつも通りの親バカっぷりを発揮する。
その辺は美由も同じ意見だったらしい「そうね、無茶して怪我しなきゃいいわよね」とあっさり引き下がった。

「にしても」
「……美由ちゃん?」

美由が枷を取りだして、守の両手首に付ける。
「あのう……」と困惑する守に「ね、ドキドキする?」と尋ねる美由はどこか楽しそうだ。

「んん、ドキドキはしないかなぁ」
「ま、掃除中だもんね。……ねぇ、私たちも試してみない?」
「へっ!?」

あの子達がハマってる(多分)ものならきっと楽しいんじゃ無いかな?とキラキラした瞳で守を見つめる美由は、すっかり研究者のそれで。
好奇心に駆られる方向がやばくないか?と思いつつも、守も気になってはいて。

「……美由ちゃん、掃除終わったら、お買い物行こっか」
「うん、楽しみねぇ!」

心なしか手を早めながら、そして今夜への期待を抱きながら、二人は仲良く部屋を掃除するのだった。

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