第4話 優しい贈り物
(お題: みかん)
塚野の家に届く奴隷の両親からの荷物に、お中元やお歳暮といった概念は無い。
数えたことも無いが、少なくとも月に1度は何かが大きな箱で送られてくるし、季節の果物や野菜は旬になれば必ずやってくる。
その中でも群を抜いて多いのがみかん。
塚野の奴隷がみかん好きで、この地域では多種多様なみかんが食べられないと聞いた両親がせっせと送ってくれるからだ。
毎回張り切ってとんでもない量が届いてはそれをあちこちにお裾分けしているお陰で、今やすっかりSMバーでも病院でも「みかんの塚野」なる二つ名がついてしまった程である。
「にしても」
今年もまた届いたみかんに、塚野は奴隷と一緒に呆然とする。
去年までは1回に送ってくるみかんは確か3箱だったのに、何故か一箱増えている。
「……みかん、豊作だったのかしら」
「すみません、ご主人様……母がいつもいつも……」
「いいのよ、あんたのために送ってくれるんだから」
まずはお礼を、とスマホを取る。
程なくして向こうから聞こえた声に「ありがとうございますお義母さん、みかん届きました」と礼を伝えれば「ほらよかった」と嬉しそうな声が返ってきた。
「ほんだけんどお袋、今回多ない?」
横から奴隷が口を挟めば「いや配る先が増えたやろ」と彼女は答える。
「増えた?」
「ほら、あんたら今年の初めに、おいり送っていうたやろ」
「あ」
そうだった。彼らのために義母においりを送って欲しいと頼んだっけ。
地元の老舗でわざわざ寿の化粧箱入りのをいそいそと送ってくれたのを思い出す。
あれを……嫁入りに持たせる特別なお菓子を贈るほど大切な人らがおるんやろ、と話す義母の声は優しい。
「どんな人らか知らんけど、そういうんは大事にせないかんで」
「うん……うん、そう、ほんまにええ子らなんや」
「あんだ、晴臣も会うた事があるんな!??千花さんが家に上げるやなんて、よっぽど大事な人らなんやな」
そらくれぐれも宜しにな、と念を押して切れた電話に「……ありがたいわね」と塚野はぽつりと呟いた。
「ご主人様……」
「あんたも、私も幸せ者よ。理解はできなくても、ずっとこうやって大切に想ってくれる人がいる」
「……そうですね」
じゃあちょっと出てくるわね、と塚野はいつもの保管庫で拘束具を手際よく奴隷に着けていく。
。
折角彼らのために一箱も奮発してくれたのだ、このまま箱で持って行こう。
奏達は、年明けの卒業研究発表に向けてシェアハウスに缶詰になっていると聞いた。
普通なら3人には多すぎる量だが、あそこには大食いの幸尚がいるのだ。きっとカビなんて生える間もなく無くなるはず。
「あの子達のところまで行ってくるから、お利口さんで待ってなさいな」
もぞもぞと動く黒い塊の頭をポンポンと撫でれば、その手に頬を擦り付けてくる惨めな奴隷が愛おしくて。
(ありがとう、私に新しい家族を与えてくれて)
そっと額に口付けを落とし、塚野は部屋を後にするのだった。