第7話 意外な欠点
(お題: スーパーマーケット)
「あら、こんなところで会うなんて珍しいわね」
「塚野さん。あ、バイト帰りですか」
「そ、ちょっとハルの餌の買い足しにね」
調教に使えそうな道具を探しにショッピングモールに来ていた奏と幸尚は、ついでに食材調達に立ち寄ったスーパーで見知った顔に出会う。
店にいるときよりはきっちりと、けれど女王様の時よりは地味な様相の塚野の右手にはグレーのパイプが入った袋が握られていて、どうやら同じ目的だなと互いに目を合わせてニヤリとした。
「どう、あかりちゃんは元気にしてる?」
「はい。ただ室内飼いだと運動量の調整が難しくて」
「うちはEMSも使っているわよ、調教も兼ねてね」
「なるほど……」
それはそうと、と幸尚はそっと塚野のカートに目をやる。
ピーマンとレタス、リンゴにクリームチーズにチョコ味のプロテイン、そして味噌。
確か塚野の奴隷も普段は流動食の餌を与えられているはずだが、何だか組み合わせに一抹の不安を感じる。
「……奴隷さんの餌なんですよね。これ……?」
「そうよ、ざっくり栄養を考えた食材とサプリをミキサーでガーッとするだけ。タンパク源だけは難しいからプロテイン頼みだけど」
「ひっ、まさか……これ全部突っ込んで」
「……そうだけど?」
そう言えば、塚野が何かを料理しているところを見たことがない事に二人は気付く。
「もしかして塚野さん、料理は」と尋ねれば塚野は「あー、うん」と歯切れ悪く返しつつ惣菜をかごに放り込んだ。
「……昔友達に作ってあげたら、ダークマターだって言われたわ」
「まさかのメシマズだとは」
一応メシマズの自覚はあるのだろう「奴隷はどんなものでもありがたく食べないとね!」と開き直る姿に、奏は(奴隷さん、強く生きて)と心の中で合掌する。
と、余りの衝撃に一瞬固まっていた幸尚が、無言でスマホを取りだした。
程なくして塚野のスマホがピロンと音を立てる。
メッセージアプリを開けば、そこにはずらずらと並んだ大量のレシピ。
「それ、僕があかりちゃんに作っている餌のレシピです。全部ミキサーでかけるだけだから、『分量厳守で』作って下さい」
「え、ありがとう、でもうちは」
「調教に口は出しませんけど、塚野さんのレシピは食材への冒涜ですから!」
「……うぅ、分かったわよぉ…………」
(まあ確かに、好きでまずいものを食べさせているわけじゃないしね)
絶対レシピ通りですよ!と念を押しつつ去って行く二人を見つめながら「……これなら私でも何とかなるのかしら……」と塚野はかごの中身をそっと元に戻していった。
その日の夜、幸尚レシピの餌を与えられた奴隷は「ご主人様が初めてまともな味覚の餌を与えて下さった」と感激に噎び泣いたらしく、後日奏達の元にはお礼と称した芋けんぴが大量に届けられたのだった。