第9話 ある雪の日
(お題: 雪だるま)
「うわぁぁん!!奏くん、あかりちゃん、助けてえぇぇ!」
「あはは、ピーピー言ってら!ほら逃げないと『雪尚』になっちゃうぞ!」
数年ぶりに大雪に見舞われ、休校となった日の朝、三人は近くの公園に雪遊びに来ていた。
上級生だらけの公園で最初は大人しく遊んでいたのだが、奏とあかりがトイレに離れるやいなや「2年生が公園に来るなよ」と幸尚を雪に埋めようと追いかけ始めたのだ。
「こらあぁぁぁ!!尚くんをいじめるなあぁぁっ!!」
「待ってあかりちゃん、振り回したら師範に怒られるうぅ!!!」
そこにトイレから戻ってきた……はずのあかりは、何故か手に木刀を握りしめていた。
必死で後ろから追いかける奏の手には居合刀が握られていて、それはそれでまずくない?と泣きながら幸尚は呆然と二人の大立ち回りを眺めていた。
「はぁ、すっきりした!」
「もう!あかりちゃん、木刀は持って行くだけだって言ってたじゃん!」
「だって、殴った方が早かったんだもん!」
これじゃ間違いなく師範から大目玉だよ、と奏は身震いしながらあかりの家に向かう。
と、帰り道にあったのは、幸尚の背丈くらいはありそうな大きな雪だるま。
「……すごいね、雪だるま」
まだしゃくり上げながらも目を丸くして雪だるまを眺める幸尚を見て、あかりは「そうだ!」といつものようにはしゃぎながら二人の手を引っ張った。
「ちょ、あかりちゃん!?」
「ね、雪だるま作ろう!お家の庭からさ、全部雪持ってきたらおっきいの作れるよ!!」
「分かった、分かったからそんな早く走らないでっ、尚くんが」
「びええぇぇもう走るのやだあぁぁ!!」
「あ、ごめん」
家に帰って、そーっと木刀と居合刀を元に戻して、3人はバケツとショベルを片手にそれぞれの家を回る。
バケツに雪を入れて、あかりの家の庭に持って行って、を繰り返すこと1時間。門の前には3人の力作がででん!とそびえ立っていた。
最後に木の棒を2本挿してバケツを被せればできあがりだ。
「ほら!できた!!さっき見たやつよりおっきいかな?」
「わかんねぇけどでっかいじゃん!な、ほら尚くん、かっこいいよな!」
「う、うん……おっきいね……」
3人は誇らしげに大作を見上げる。
公園で遊べなかったのは残念だけど、こんな大きな雪だるまが作れたなら大満足だ。
「お腹すいたし、お家でみかんたべよ!」とあかりが玄関を開けようとすれば、ガラッとそのドアが自動で開く。
「そう、立派な雪だるまを作ったのね3人とも。……で、これはどういうことかしら?」
「あ、あわわ、おかあさん…………」
目の前に立つのは、こめかみに青筋を立てたあかりの母。
その手に握られているのは、雪と土でぐっしょり濡れ汚れたままの木刀と居合刀。
「あれだけ外に持ち出しちゃだめって言ったのに……三人とも、道場で正座してなさい!!」
「ええええええ!」
「そんなぁぁぁ!!」
「ひぐっ、ひぐっ、僕なんにもしてないのに……」
三人の武勇伝は当然のごとく親たちの知るところとなり、その日三人は道場の冷たい床で夕飯まで正座させられる羽目になったのだった。