第10話 はじめてのさくひん
(お題: 折り紙)
「おかあさん、これなあに?」
紫乃と美由は、いつものように3人のちびっ子達の面倒を見ていた。
春からは幼稚園に入園するから、こんな日々ももう終わりなのねと名残惜しく思いながら、紫乃は3人の前に色とりどりの紙を並べる。
「これは折り紙よ。今日はおひな様を作りましょ」
「おひなさま!!作れるの!?」
「作れるわよ。ほら、一緒に折ろっか」
興味津々で3人は思い思いの色を選び、母達の手つきを真似ながら折り始める。
あかりは大雑把に折り、奏はそつなくこなし、幸尚はじっくり時間をかけて丁寧に折ろうとする辺りに性格が出ているわねぇと、二人の母は微笑みながらその様子を眺めていた。
「みてみてできた!」
「あら上手ねえ」
顔を描いて、台紙に貼って。
立派な「おひなさま」に、3人は満足げだ。
「ねえおばちゃん、奏ね、かっこいいの作りたい」
「かっこいいの……うーん、じゃあ兜を折ってみようか」
続けて兜を折る。
やっぱり男の子なのだろう「かっこいいなぁ」と奏と幸尚は母の手から生み出された作品に釘付けだ。
「できた!おひなさまにかぶせたら、かっこいいよ!」
「奏ちゃん、おだいりさまがいいよ」
「そっか、おとこのこだもんね」
早々と折り終わり、わいわいと盛り上がる奏とあかり。
その横で幸尚は少し折っては戻し、折っては戻しを繰り返し……そのうちその大きな瞳にたっぷり涙を浮かべて「むじゅかしいの……」と悲しそうに呟いた。
「幸尚君、大丈夫だよ。ほらおばちゃんと一緒に折ろう」
紫乃が手助けをしながら、何とか兜が出来上がる。
けれどその出来映えは二人に比べると不格好で、幸尚もずっとグズグズとべそをかいていた。
「早生まれだからね、やっぱりこう言うところで差が出ちゃうわよねぇ」
「美由さん、幸尚君……大丈夫でしょうか」
「ああ、大丈夫よ!幸尚のことだから暫く引きずるだろうけど、いつものことだしね!」
本当に美由は気が長いなと紫乃は感心する。自分ならどこかで切れていそうだ。
それからというもの、幸尚は暇さえあれば黙々と兜を折っていた。
「こりゃ長丁場になるな」と判断した守がしこたま買ってきた折り紙を瞬く間に消費し、家の中は大量の兜があちらこちらに溢れている。
「え、幸尚君まだ兜折ってるんですか!?」
「そうなの、お陰で折り紙の消費が凄いわよお!」
「……ほんと、幸尚君は一度嵌まると集中力が半端ないですね……」
どこに遊びに行くときも折り紙ケースを握りしめ、ひたすら折り続けること1週間。
「……おかあしゃん、できた」
初めて幸尚が、美由の掌に出来上がった兜をそっと乗せた。
3歳になったばかりにしては角も綺麗に合わせてきっちり折られている兜に「幸尚は上手だねぇ」と褒めれば、鼻の穴をぷくっと拡げて「へへっ」と得意そうだ。
仕事から帰ってきた守に見せれば「幸尚は凄いな!これは飾っておかないと!!とわざわざアクリルボックスを買ってきて、リビングにその『傑作』を飾るのだった。
なお、後に幸尚は語っている。
あの折り紙を褒めてくれたから、自分は物作りが好きになったんだ、と。