第11話 好奇心は猫を殺す
(お題: 麺類)
海外旅行の土産として、現地のインスタント麺は人気が高い。
かさばらずお手頃価格で、しかも文字が読めなくても調理ができて気軽に現地の食文化を楽しめる点が評価されるのだろう。
そう、楽しみたいのは現地の食文化の筈なのに。
「……美由さん、これは」
「ふふ、びっくりでしょ!?現地でも限定品だったの、タピオカミルクティーのカップ麺!」
「守君、どうして美由さんを止めなかったんだね!!いつもの激辛麺を期待していたのに!」
「大丈夫ですよ、激辛麺も買ってありますから!」
いつもの年末年始の集まりでは、土産話と共に美由と守が現地で買ってきたインスタント麺を実食するのが恒例となっていた。
大体は次の日のお尻が心配になるような激辛麺で、とても子供達には食べさせられないから、子供達を2階に追いやり大人達だけでこっそり楽しむことにしている。
しかし今年の土産は、派手派手しい紫のカップに黒いつぶつぶの入った麺が印刷された、どう見てもその組み合わせはアウトだろうと言いたくなるような物体だった。
これは間違いなく美由のチョイスだ。彼女の好奇心は本当に旺盛で……旺盛すぎてこれまで何度も泣かされている、主に守が。
「もう絶望しか感じない」と嘆く激辛好きの拓海と祐介を宥めつつ、ぺりぺりと蓋を開ける。
この蓋一つとっても日本のカップ麺のように綺麗に開かない辺りに異国を感じつつ、最初に目に飛び込んできたのは、黒いつぶつぶがたっぷり入った袋。
「看板に偽りなしじゃないか」「本気でタピオカぶちこんできましたね」と恐れおののきながら、全てをカップに入れてお湯を注いで3分待つ。
この3分というのは割と世界標準らしい。
そして……蓋から漏れ出す匂いは、確かにミルクティーだ。
「これ本当に食べて大丈夫……?」
「製品化されてるって事は死なないって事よ!さ、食べましょ!」
タピオカミルクティーの中に麺をぶち込んだ、そんなまんまの見た目をした物体に美由以外の5人はゴクリと唾を飲み込み……ええいままよ!と麺を啜り込んで、そのまま凍り付いた。
「……まず、くはない」
「み、ミルクティーのまんまですね……」
「ちゃんとタピオカミルクティー……いや待て後からじわじわ辛さが……!」
口の中に広がるのは、確かにミルクティー。
タピオカのつぶつぶもしっかり弾力がある。
なのにそれが麺と合わさるだけでこんなに頭が混乱するとは、まさに新発見だ。あと、醤油感覚で隠し味にチリを使わないで欲しかった、東南アジアあるあるめ。
「なんだろうなぁ、この味はあるけど味気なさ」
「凄いがっかり感が……そうだ出汁が効いてないせいですよこれ!」
「それだ祐介君、いやでもこれに出汁が効いてたらそれはそれで泣きそう」
「なるほど確かに完成度が高い……!」
「「いや美由さんそれはない」」
「と、とりあえず!ほら、そろそろゲームといかないかね!?」
いつもなら現地の味に舌鼓を打ち、なんなら激辛に悶絶して盛り上がるひとときだったのに。
彼らはすっかり冷え込んでしまった場を盛り上げるべく選んだ桃鉄でヒートアップしすぎて、大喧嘩をしながら新年を迎えることになってしまったのだった。