第13話 あなたがいるから
(お題: 誕生日)
「ハル、ただいま」
「んぉ……」
尻に感じた衝撃が、いつものように芋虫のように転がされ、穴という穴に管を突っ込まれ呻くことだけを許された時間の終わりを告げる。
手際よく管と拘束を外されれば、条件反射のようにまだ見えぬ目で愛しいご主人様の足を探しだし口付けた。
「はいはい、リビングに行きましょ」
鎖を引かれ、チャリチャリと音を立てながらリビングに連行される。
床から伸びるポールに首輪の鎖を繋がれれば、ようやく奴隷はご主人様の……千花の顔を見、声を聞く許可を与えられた。
「んはっ……ご主人様……」
「今日も良い子にしてた?ま、ハルは転がっているだけの役立たずだもんねぇ」
「はい……ハルはご主人様だけのものですから」
まだ部屋の光に慣れないのだろう、目をしぱしぱさせながら奴隷は伸ばされた千花の手に頬を擦り付けた。
ああ、本当にこの子は何年経っても変わらない。
どれだけ貶めようが、その内にある柔らかな光は、そっと千花のどうしようも無い歪みを包み込んでくれる。
「さ、ケーキ買ってきたから一緒に食べましょ」
そう言って千花がテーブルの上の箱を開ける。
そこには「Happy Birthday 千花さん」と書かれたプレートの載ったホールケーキがあった。
「ご主人様、蝋燭ふーってしないんですか」
「しないわよ。女性の歳なんて数えるもんじゃないし、蝋燭はあんたに垂らすものよ。そうね、折角の誕生日だからハルのおちんちんをコーティングしてあげよっか」
「あは……ありがとうございます……!」
ニヤリと口の端を上げる千花は、いくつになったって美しいと奴隷は思うのだ。
いそいそとケーキを切り分け「あーん」と千花がフォークで差し出す。
奴隷に手を使う権利は無いから、いつものようにご主人様の施しを受けつつ、奴隷は「いつも思うんですけど」と問いかけた。
「何でご主人様の誕生日なのに、いつもレアチーズケーキなんですか?ご主人様、ベイクドチーズケーキの方が好きですよね?」
「何言ってるの。ハルが好きだからじゃない」
「えっと、それは」
戸惑う奴隷の額に、千花はそっと口付ける。
そうして、決して他の人には見せない特別な笑顔で囁くのだ。
「あんたがいなければ、私は人としてこうやって生きることはできなかったからね。……誕生日は人としての『私』を生まれさせてくれたハルへの感謝の日だから」
「……ご主人様」
「ありがとう、ハル。私を人にしてくれて」
そう今日は、愛する人の歪みを受け入れ、愛する人のために人であることを止めた、このどこまでも純朴で真っ直ぐな奴隷に、祝福を与える日。
「さ、さっさと食べちゃいなさい。……全く、泣いちゃったら塩味になっちゃうわよ」
「ひぐっ、だって……ご主人様ぁ……」
「涙は後に取っておきなさい。そんなに嬉しいなら、たくさんプレゼントを頂戴よね」
「!!……もちろんですっ!」
笑顔になった奴隷の瞳から、また一粒大きな涙がこぼれ落ちる。
それはこれから与えられる嗜虐への期待と、今日も愛しいご主人様に無様な姿を届けられる悦びに満ち溢れていた。