第21話 初めての一歩
(お題: 初めて)
「奏君、お誕生日おめでとう!」
「ほら奏、ふーって出来るかな?……って、あかりちゃん、ケーキは分けるから手で食べないでえぇぇ!!」
奏の2歳の誕生日。
いつもの3家族は奏の家に集まり、ささやかなお誕生日会を開いていた。
奏とあかりは時々玩具を取り合って喧嘩する(そして奏が泣かされる)けれど、家でも外でも元気いっぱい仲良く走り回る仲だ。
今日も早速、誕生日プレゼントのブロックを取り合っている。たくさんあるのだから奪い合う必要はないだろうに、どうも二人はいつも同じものが欲しくなるらしい。
「ほらほら、これも同じだから取り合わないの」
「ほんと、二人はいつも元気ねぇ……あら、幸尚君は何か作ってるの?」
「……おうちね、つくるの」
賑やかな幼馴染みの隣で、幸尚はいつも通り静かに座り込んでブロックを淡々と並べ、積み上げている。
二人が一つのブロックを巡って激しい争いを繰り広げているうちに、ちゃっかり大半のブロックをせしめて一人の世界に入ってしまっているようだ。
そんな中、紫乃が遠慮がちに口を開く。
「美由さん……幸尚君、その、歩くのは……?」
「んーまだ気配が無いわねぇ。ハイハイで用が足りてるのかしら」
大人達の気がかりは、幸尚の発達だった。
そろそろ1歳半になろうというのに、言葉も少なければ歩きもしない。
拓海と芽衣子曰く「男の子だし少しは喋るし、言葉は心配要らないと思う」そうだが、流石にここまで歩かないと心配にもなってくるものだ。
といっても、当の守と美由は泰然としていて。
「まぁ歩きたくなったら歩くんじゃ無い?」「別に歩かなくたって幸尚は世界一だからな!」と相変わらずの親バカっぷりを遺憾なく発揮していた。
「お二人が心配で無いならまぁ……2歳くらいまでは様子を見てもいいのかもねぇ」
「ふふ、拓海さん達がいるから私達は安心して見られますしね!」
「そ、それでいいのかい……?」
いやはや初めての子育てなのに肝が据わっているねぇ君たちは、と拓海は苦笑しつつ、相変わらず真剣な眼差しで積み木を詰む幸尚を眺めるのだった。
それから2ヶ月後。
子供の成長というやつは突然訪れるものだ。
台所で料理をする母の姿を幸尚はじっと眺めていた。
「幸尚も大きくなったら一緒にお料理する?」と話しかければ「……するの」と小さく頷いて。
「え」
やおらすっくとその場で立ち上がったかと思ったら、かごに入れてあったキャベツ一玉をうんしょ、と持ち上げ
「…………ええええ!?」
そのまま両手にかかえて、よたよたと歩きながらリビングに戻っていったのだ。
「……うん、歩きたくなったら歩くと思ってはいたけど……まさか初めてがキャベツを運ぶためなんてねぇ」
さっそくおもちゃの包丁でキャベツを切り始めた幸尚を暫くポカンと眺めていた美由だったが、はっと我に返ると慌ててスマホを取りだした。
そしてそのまま動画を撮影し「さっき歩いたの、キャベツ持って」と守に送る。
「ねぇ幸尚、お父さんが帰ってきたらまたキャベツ持って歩いてくれるかなぁ」
一生懸命にキャベツを切り散らかす幸尚を眺めながら、美由は突然訪れた幸尚の成長を早く守と分かち合いたいと幸せを噛みしめるのだった。
……まさかその30分後「今日の仕事は終わり!」と守が息せき切って帰ってくるとは思わずに。