第2話 曝け出す
「……尚、俺たちはデートに来ているんだよな」
「うん」
「そうだよな。遊園地行って、ご飯食べて、いい雰囲気でラブホに来たとこだよな」
「う、うん」
「……なんであかりがいるんだ?」
「「えっ」」
「えっ、じゃねえだろ!」
あの衝撃の日から1ヶ月。
付き合い出したと言っても、生活はあまり変わらない。
いつものように3人で学校に行って、寄り道して帰って、週末は3人で幸尚の家にお泊まりだ。
休日に遊びにいくのも3人だし、変わったことといえば幸尚とセックスするようになったことくらいである。
…………なぜか、必ずその場にはあかりがいるのだが。
「いやほら、セックスってプライベートだろ!?流石にそこは二人きりになろうとか」
「……そういうもんなの?あかりちゃん」
「そういうもんなの、かな?奏ちゃん」
「俺に戻ってくるなよ!」
だめだこの二人、この状況をおかしいとも思っていない。
いや、おかしいと思っている俺がおかしいのか?と、考えているうちに奏も分からなくなってきて、ぐぬぬと頭を抱える。
「でも奏、あかりちゃんが側にいても別に気にしてないよね?いつも気持ちよさそうだし」
「うっ」
「この間はやっとメスイキできたもんねえ、奏ちゃんいい顔してた……」
「ぐぬぬぬぬ……」
「奏は、あかりちゃんがいるのが嫌なの?」
「え、いや、嫌かと言われればそれは別に」
「じゃあ問題ないんじゃ」
「…………どうして、そうなるんだ…………」
確かに言われればそうなのだ。
いつも3人だったから、2人だけで遊びにいくのはなんだか何かが欠けた気がする。
よく考えたら、誰か一人が欠けた状態で遊びに行った事すらなかったな、と奏はこれ以上追求するのを諦めるのだった。
…………
そんな不思議な関係だったが、奏はすっかり1ヶ月で幸尚に絆されていた。
今まで何年も片思いを拗らせていたせいなのか、恋人になった幸尚は好き好きオーラ全開だった。
元々いつもつるんではいたが、今までなら部活が終わった後は先に部活が終わった幸尚やそもそも部活に入っていないあかりとマクドで集合だったのに、付き合い始めてからはあかりと二人で一番部活終わりが遅い奏の練習を眺めているし、終われば「お疲れ」とキスしてそっと手を絡めてくるし、何なら腕まで組むし、不意打ちの様に耳元で囁くし、とにかく距離が近い。
なぜここまで距離が近くなったのに、二人が恋人になったことが周囲にバレないのか、不思議なくらいだ。
「ここまで甲斐甲斐しいと、そのうち弁当も作り出しそうな気がする」
「うん、今奏のお母さんに習ってる。いいお嫁さんになれるねって褒められた。あ、恋人になったことは言ってないよ」
「おい待て、何でうちの親はそこで何の疑問も持たねえんだ!?」
「おばさんも毎日大変でしょ?僕3人分のお弁当作るよって言ったらすごく喜んでたよ、朝の仕事が減るって」
「…………単純すぎるだろ、ちょっとはおかしいと思えよお袋……」
家に帰ってからも、今まで以上に互いの家を行き来することが増えた。
元々どこかの家に集まって勉強したり遊ぶのが当たり前だったから親達も何も言わないし、なんならこの親たちは「このままどっちかがあかりちゃんとひっつけばいいのに」なんて思っていそうだ。
…………まさか幸尚と奏がすでに引っ付いているなどとは夢にも思うまい。
「じゃ、また明日」
「うん。……おやすみ、奏、大好き」
「ん……おやすみ、俺も好きだぜ」
幸尚にそっと抱きしめられ、唇を交わす。
最初の頃はキスするたび息ができなくて酸欠を起こしていた幸尚だが、今やすっかり手慣れたもので、たっぷり奏の良いところを舌で愛でては腰が抜けそうなほど蕩けさせてしまうようになっていた。
壊れ物を扱うかのような抱きしめ方にそんなに俺はやわじゃないと言いたい。
けれど、流石に192センチの大柄な幸尚から見れば、175センチと標準よりやや背が高い奏であっても小さくて壊れそうに感じるのは致し方ないのかもしれない、とその扱いに甘んじている。
なお、大体手芸部なのに何でそんなに筋肉あるんだよ、俺なんてどんなに筋トレしても筋肉付かないのにちょっとよこしやがれと心の中でのツッコミは欠かさない。
セックスは相変わらず毎日のように幸尚に抱き潰されてばかりだが、それでも幸尚なりに大切に扱ってくれているのはよく分かっている。
男としてはあの絶倫っぷりがちょっと羨ましくて悔しい。俺の方がスポーツだってしてるし体力ありそうなのに、精力はそう言うものじゃないと思い知らされる。
だが3回戦の約束はそろそろ守って欲しい。
油断していると幸尚はすぐ「ね、奏、もう一回だけ……いい?」と小首をこてりと傾げて聞いてくるのだ。ただでさえ快楽と疲労で思考力を奪われたところに、大男がそんな可愛らしい仕草でおねだりだなんて、反則にも程がある。
……とまあ、そんな生活を続ければそりゃ奏が惚れてしまうのも当然だろう。
一方、順調にお付き合いを深める二人の隣で、あかりは何気ない時も無意識に幸尚を目で追っている奏を見てにんまりする日々を送っている。
腐女子としては眼福だ。うっかりクラスの腐女子仲間に口を滑らさない様気をつけなければ。
「ふふ…………」
「……何だよあかり」
「奏ちゃん、尚くんのことがホントに好きなんだなーって思って見てたの」
「む…………そんなに顔に出てた?」
「うん、休み時間になるとずーっと尚くんの方見てる」
「!!っ、いてっ!!」
あかりの何気ない指摘に、横でちまちまと縫い物をしていた幸尚から悲鳴が上がる。
最近はテディベアを作っているらしい。手芸展で幸尚のぬいぐるみを見た先輩が作品に一目惚れして頼まれたそうだが、材料費だけでこんな可愛らしいぬいぐるみを作るとか、お人好しにも程があるんじゃなかろうか。
「おい大丈夫か尚」
「あかりちゃん今の反則……いてて、指に針刺しちゃった……」
「あはは、ごめんねぇ」
クラスの女子から「あかりー、ちょっと教えて!」と呼ばれてあかりは「ちょっと行ってくる」と席を立つ。
きっと今日の宿題の手伝いだろう。あかりは成績もいいが放課後は部活もせずさっさと帰ってしまうため、休み時間はこうやって呼ばれることも多い。
「………………」
「……………………」
あかりがいなくなると、途端にどこか照れてしまって会話が続かなくなるのはどうしてなのか。
恋人になるまではそうでもなかったのになあ、とちらりと幸尚をみれば、真剣な顔でぬいぐるみを縫い進めている。
けれど、その耳は真っ赤に染まっていて。
(……尚も照れてら。まあ昔から尚はそんなにおしゃべりじゃなかったけど、あかりがいると割と喋るんだよな…………あかりの力、偉大すぎるだろ)
やっぱり3人じゃないとなんかしっくりこないなと、奏は照れ隠しで表情が大変なことになっている幸尚を眺める。
(…………うん、俺、尚とあかりとずっと一緒がいいな)
奏と、幸尚と、あかり。
いつまでもこの穏やかな関係が続きます様に。
……そう、この時はまだ、幼馴染の延長の様な関係がいつまでも続くと思っていたのだ。
…………
そろそろ梅雨に入りそうなある日のこと。
今日も3人は幸尚の家に集まり、試験勉強に精を出していた。
きっと勉強が終わればお風呂に入って、いつもの様に幸尚が「奏、抱きたい」と目を輝かせながらベッドに押し倒してきて、あかりはそれをクッションにもたれて眺めながら「ねね、今日はエネマグラ使わないの?」などとツッコミを入れてくるのだ。
別に見ているのはいい、いいけどエネマグラはマジで勘弁してほしい。マジで逝きすぎてオンナノコになっちゃいそうで怖くなるんだから。
「終わり!今回の数学の範囲広すぎぃ」
「ほんっともうちょっと手加減してほしいね……」
「てかお前ら理系だからいーじゃん、何で文系までこの量なんだよ……」
「一応選抜クラスだし、仕方ないね」
「諦めろ奏、ほら後3問がんばれ」
「ちぇー」
やっと一息ついたところで、幸尚がお茶を持ってくる。
のぼせた頭に冷たい麦茶が気持ちいい。
順番にお風呂に入って、奏はいつもの様に洗浄して、また幸尚の部屋に戻る。
そうして幸尚と口付け……ふと気になって発した奏の言葉。
「あのさ、あかりはいいのか?」
それが、全ての始まりだった。
…………
「……いい、って?」
きょとんとするあかりに、いやさ、と奏は頭をポリポリ掻きながらちょっと照れた様子で答える。
「俺ら二人はなんつーか、すっかり恋人になっていちゃいちゃしてるじゃんか。その、しょっちゅうセックスだってしてるし…………」
「ん?いいんじゃない、だって二人が仲良しなの、私は嬉しいし」
「そりゃそうだけどさ……女の子にこういうの言っていいのかな……いやあかりだからありだな」
「なによぉ、その含みのある言い方」
「だってさ……あかり、お前その、気持ちよくならなくていいの?」
「えっ」
「なっ、そ、奏っ!?」
奏の突然の発言にあかりは固まり、幸尚は「奏、それは流石にデリカシーがないんじゃ」と奏を諌める。
だってさあ、と奏は顔を赤らめながら言うのだ。
「……あかりさ、俺たちのセックスを見ていて興奮してるだろ?」
「うっ」
「え…………そう、なの?僕全然気づかなかった……」
「お前は俺しか見えてねえからな!…………いっつも見学してるけど、ずっともじもじして……我慢してるんだよ。まああかりは腐女子だし、こう言うのは大好物と言うか性癖に刺さるんだろうなと」
「そうだったんだ……ええと、ごめんね?あかりちゃん」
「別にさ、辛かったらずっと見てなくたっていいんだぞ?……あの、その、さ、女の子だって一人で、するだろ?流石に俺らに見られるのは嫌だろうから別の部屋でしてたって俺らは気にしねーし」
「それ以上のものを見られてるしね、僕ら」
「それは言うな……改めて指摘されると恥ずかしい…………」
(ああ、バレてた。……でも、全部バレてるわけじゃない)
気を使わせたな、とあかりはどこか気まずそうな奏と幸尚を眺める。
そう、二人のまぐわいで興奮しているのは事実なのだ。
そして、あかりは二人に身体を見られることにはそこまで抵抗はない。大体中学に上がり「もう大人の体になっていくから流石にお風呂は別!」とそれぞれの親に止められるまで一緒にお風呂に入っていたし、こうやって二人のセックスを見ているのに自分だけ興奮しているのを隠すのもなんだかなあ、とは思っている。
お互い、あまりに身近な存在すぎて男とか女とか言う概念は割と彼方にすっ飛んでいるのだ。
…………ただ、何もしない理由は、そこじゃない。
心配かけてごめん、でも大丈夫と笑うあかりに感じる、小さな、小さな違和感。
ずっと幼馴染として過ごしてきた奏と幸尚だからこそ気づく。
これは、多分あかりの本心じゃない。
(何だろう、何か……引っかかるんだけど)
触れない方がいいかな、と考えることをやめた幸尚とは対照的に「いや、そうじゃねーな……」と奏はどこか思案顔だ。
(あ、まずい)
「奏…………?」
「…………我慢してるんじゃねーのか?……いや、我慢はしてるけど、俺らに知られたくないからじゃない……」
(……気づかないで…………お願い、それは気づかないで……)
あかりの背中を冷や汗が伝う。
ずっと誰にも言わずに、二人にすら隠してきた、『普通』じゃない秘密。
……こんなことを知られたら、二人に軽蔑されてしまいそうで、平然を装いながらも心の中ではどうか触れないで、見逃してと祈り続ける。
でも本当は、心の奥底では……ずっと、二人には、二人にだけは知って欲しかったのかもしれない。
その事に気づくのは、何年も先の話だけれど。
しばらくブツブツ呟いていた奏が、はっとした顔であかりの方を向く。
「あかり、お前」
(奏ちゃん…………あああ、気づいちゃった)
あかりの表情が変わる。
その表情を見て、奏は確信する。
そうして意を決して放たれた一言は、これから三人の関係を大きく変えていく事になるけれど、今の奏にはそこまでの意図はない。
ただ、思い至ったから。
そんな気軽な理由で、奏はあかりの内側を暴く言葉を放った。
「……あかり、お前さ…………Mなんだろ」
…………
どういう事……?と戸惑いがちにたずねる幸尚に、奏は「あのさ尚、昔拾ったエロ本のこと、覚えてる?」と話を切り出す。
「エロ本……ああ、あったね。体育館の倉庫で見つけたやつ」
「おう、あの時は俺んちだったよな、拾って持って帰って3人で見たの」
「あれは……なんかすごかった。縄とか鞭とか…………」
「まさか初めてのエロ本があんなハードコアなSM雑誌になるなんてなぁ……」
それは中学に上がったばかりの頃。
放課後に体育館の倉庫へ用具を片付けに行った奏が、いかがわしい本を拾ってきたのだ。
きっと上級生がこっそりお楽しみだったのだろう。
『尚、あかり、俺すげーもん見つけちった!!』
『なになに?…………うわ、裸の女の人だらけ……』
『うわぁ…………すっごい、おっぱい……』
『そこかよ尚、おっぱい好きすぎじゃね?』
初めて見るエロ雑誌に、奏と幸尚は釘付けになる。
あかりは既にこの頃から腐女子だったせいか二人よりは落ち着いていたが、だからと言って気にならないわけではないらしい。
結果として、3人は奏の母親が「そろそろお風呂入りなさいよー!」と呼びにくるまでこのお宝に夢中になる。
ただそれは、普通のエロ本ではなかった。
いわゆるコアな…………SMの専門雑誌だったのだ。
ボンデージに身を包んだ女王様、縄で縛られた人たち、四つん這いで手足を折り曲げて拘束され、犬のようなマスクをつけた人を鞭打つ写真……
興奮しつつもその内容に「なんか可愛そうなんだけど……」としょげる幸尚とは対照的に、奏は雷で打たれたようなショックを受けていた。
こんな世界があるだなんて。
拘束された姿がこんなに興奮するなんて。
こうやって相手を拘束して、いっぱい虐めて、気持ちよくなる……こんなのがありなんだと。
…………その日の夜、奏は女性を縄で吊り鞭打つ夢を見て……精通したのだ。
それから知識をつけて、今や自分が嗜虐嗜好を持つことを奏は自覚していた。
あの本のせいなのか、元々持っていたのかはわからない。ただ、あの日から嗜虐に目覚めたのは間違いない。
そして奏の性癖はそう言ったオカズじゃないと射精どころか勃起すらしない程歪んでいた。
(こういうのは妄想だけにしておかねーと、実際やったら犯罪だよな……)
奏はその爽やかな外見と誰とでも気さくに話す性格からか女子には人気が高かった。
当然、これまで何度も告白されている。
それでも誰とも付き合わなかったのは、いざ身体の関係を持つとなれば自分は間違いなく相手を苦しめ、泣かせてて喜んでしまうと確信していたからだ。
それが一般的な感覚からずれていることは、流石に理解しているし、一般人をそっちの世界に引き込みたいとも思わない。
だから、自分に恋人ができるなんて夢のまた夢だと思っていた。
まさかそれが幸尚と付き合うことになるとは思いもしなかったし、幸尚とのセックスならちんこだって普通に勃つのはさらに予想外だった。
まあ、今となっては奏のちんこはただの大きなクリトリス扱いで、きっと本来の役目を果たすことはなさそうな気がするが。
幸尚とのセックスは激しいが、満足している。
それに幸尚を虐めたいなど、露ほども思わない。
今でこそ馬鹿でかくなってしまったが、幼い頃は三人の中で一番小さく、気が弱くてすぐに泣いてしまう坊やだった幸尚は、今でも奏にとってただひたすら守りたい存在のままだ。
けれども、性癖とは厄介なもので。
時々身体が求めるのだ。この嗜虐のドロドロした昏い欲望を受け止めてくれる『奴隷』を。
だからだろう、奏はあかりのもつ、自分とぴたりと嵌まるであろう歪みに気づいてしまった。
……いや、本当はあのエロ本を見た時から気づいていたのだろう。
けれど公にするのは憚られるその事実が露見すれば、三人の幼馴染の関係が壊れてしまう。
だからずっと、見なかったフリをしていただけなのだと今なら理解できる。
「……あかりさ、あの本見た後、一人で……した?」
「奏」
「俺はした」
「「へっ」」
思いがけないカミングアウトに、二人がポカンとする。
「と言っても夢の中だけど。女の人を縛って、鞭打って、泣かせて……すっげえ気持ちよくて…………起きたらパンツが大変なことに」
「…………奏ちゃん、Sなの……?」
「おう。二人だから言うけど、俺オナニーの時はハードコアSMものじゃなきゃ抜けねーから」
「……知らなかった…………え、それじゃ僕とのセックスは」
「勘違いすんな幸尚。その、幸尚は……特別なんだよ。触れられるだけで気持ちよくて、すぐ勃っちまって、胎が疼いて…………お前とのセックスはめっっっちゃ気持ちいい」
その言葉にどこかホッとした様子を見せるも、でも、と幸尚の表情は浮かない。
「それじゃ、僕とのセックスじゃ奏の性癖は満たせないよね……」
「ま、それはな。とりあえず置いといて…………なあ、答えろあかり。お前……あの夜、何をした?」
「……っ…………」
じっとあかりを見つめる目は、見知った奏なのに…………逆らえない、そう思わせる圧力があって。
それでいて……背中にぞくっとしたものが走って。
ああ、これは隠せないとあかりは観念して話し始めた。
「…………模擬刀の……下緒で足を縛って……手拭いで猿轡して…………その、アソコを触ったら……痺れるほど気持ちよくて……」
「うん」
「その…………私も、なの」
あかりもまた、あの雑紙を見た時からその光景が焼き付いて離れなくなっていた。
ただ、あかりはする方ではなく、される方だったが。
最初は、軽く足を縛ったりするくらいだった。
けれどその欲望はどんどんエスカレートしていって、ネットで自縛を調べてはその感触に酔いながら一人慰める。
それでもクリトリスはいざ知らず、大事な穴に指を入れるのは怖くて。
怖いのに、どうしても欲望と好奇心が抑えられなかったあかりが手を出したのは、後ろの穴だった。
最初は恐る恐る鉛筆のお尻を入れていただけだったその穴は、実は今では小さめのディルドなら難なく飲み込んでしまうほど開発されている。
流石にそこまでは二人にも話せなかったが、奏は「なるほどな、だから俺らの初めての時もあんなに詳しかったのか……アダルトグッズ買いに行ったのも初めてじゃねーな?」とすっかり勘づいた様子である。
「……しかしやっぱり、そうだよな…………今思えば、あの雑誌を見ていた時のあかり、めちゃくちゃ興味深そうだった」
「だから、二人のセックスを見ているのは……見てて興奮して、触りたくて、でも……触れない、触っちゃいけない、我慢して見てなきゃ、ってのが……っ、気持ちいいの……」
「あかりちゃん」
「ごめんね尚くん。私、変態なの……今だって、奏ちゃんが嗜虐嗜好持ってるって聞いただけで……むずむずする……!」
「っ…………!」
「あ、でも!その、二人が恋人なのは嬉しいの。そうじゃなくて……」
心臓が痛い。
でも、もうここまで来たら隠せない。
幸尚だって、奏だってカミングアウトしてくれたのだ。自分だけこの歪み切った欲望を隠したままになんて、できない。
できないし……二人なら、知られても引かれないかもしれない。
「……私は、3人がいい。……奏ちゃんと尚くんの…………奴隷になりたい」
「「!!」」
「変態でごめんなさい……ああっ、言っただけで……お腹がじわんって疼くの…………!っ、こんなの変だよね……?」
「あかりちゃん……」
「変じゃねえよ」
「奏?」
(変じゃない)
真剣な顔で、奏は怪訝そうに自分を見つめるあかりを見つめ返す。
(そうやって自分を押し殺して……あかりはいつもそうだ、わがままに見えて肝心なところは全部自分を押し込めてしまう)
自分の感情に素直な奏と違って、幸尚やあかりは相手を思うが故にその思いを押し殺す傾向がある。
内向的な幸尚はそれでもわかりやすく押し殺すから周りがフォローするのだが、あかりは一見するととても素直に見える分、親たちすら「あかりはいつもわがままばかりで、奏くんと幸尚くんを振り回してばかりなのよね」と嘆息するほどだ。
だが、そうじゃない。
付き合いの長い二人はよくわかっている。
あかりは確かに普段はとても素直で即断即決で自分達を振り回すが、肝心な所で本当の自分を出すのを躊躇うクセがあることを。
それは厳格な母親に育てられ、母の思うような自分を演じているように奏の目からは見えていた。
普段のわがままは、周りが認識している『普通の自分』の範疇でしかなく、そこから外れると判断したものは、奏や幸尚にもあまり出さない。
だから、こうやって誘導したとはいえあかりがその周りの作った自分からかけ離れたドロドロしたものを見せてくれたのは、とても珍しいことで。
……そしてこれを逃したら、あかりはきっとこの性癖を生涯押し殺して仕方ないと諦めて生きることになる。
奏は瞬時にそれを確信する。
(それは、やだ)
奏の中の何かが叫ぶ。
同好の士だから?そうじゃない。
自分の奴隷にできそうだから?それは違う。
(俺は、あかりにも素直に生きてほしい)
奏にとって幸尚は、愛する人だ。
けれど、自分たちの関係はあかりがいて初めて完成する。
そのあかりが自分を曝け出せないのは、納得がいかない。
そして…………油断すれば押し込めかねないその淫らな願いを、自分なら引き出せる。
そう気づいたら、もう止められない。
「……やってみるしかねぇよな」
「…………どうしたの、奏?」
いつもより低い声で呟く奏に、幸尚は訝しげな視線を向ける。
そんな幸尚に奏は「尚」と真剣な目を向けた。
「……尚はノーマルだから、理解できないかもしれない。けど、ちょっとだけ俺の言うことに黙って付き合ってくれないか?3人とも、傷つくようなことはしないと誓うから」
「あ、ああ。いいけど……何を」
「あかり」
「…………っ!!」
あかりが思わず息を呑む。
あかりの方を振り向いた奏の瞳には、明らかな嗜虐の色が浮かんでいて。
「今から俺ら、いつも通りセックスするから。だからあかりは床で全裸になって、ずっと俺らに股を広げてびしょびしょのまんこ見せつけながらクリトリス弄ってろ」
「ちょ、奏!?」
「……ただし、逝くのは無しな。逝きそうになったら寸止め。…………できるな?」
「っ…………」
————ドクン
その言葉に、初めての『命令』に、あかりの心が驚愕と……歓喜の音を奏でた。
「……え、と…………あかり、ちゃん?」
幸尚は心配そうに奏の言葉に固まってしまったあかりの様子を伺い、そして息を呑む。
あかりは……ひと目見て分かるほど目を潤ませ、頬を赤らめ、息を荒げて…………興奮していたのた。
「あ、ああ…………初めての、ほんとうの、命令…………」
「……俺も初めてだから、加減とかよく分かんねーけど。無理なら無理ってちゃんと言えよ?だけど、あかりは……喜んで俺らに発情まんこを見せつけるよな?変態なんだから」
「…………は、ぃ………………」
「あかり、ちゃん…………」
「はぁっ…………奏ちゃん、尚くん、見て……下さい…………これが、私なのぉ……」
「!!」
熱に浮かされた様子で、あかりがその場でゆっくりと、ひとつ、またひとつ服を脱ぎ捨てる。
その手の震えは恐怖ではなく興奮だと、そのどこか恍惚とした表情が物語っていた。
そして、最後の一枚を脱ぎ捨てた時、二人はその目を見張る。
それは、最後に一緒にお風呂に入った時から時が経ち、ふっくらとした形の良い胸でも、「女」を感じさせるくびれでもない。
二人の視線は、そのもっと下へ向かう。
あかりの、本来この歳なら生い茂っているはずの恥丘はつるりとして……割れ目がくっきりと見て取れた。
短い細い毛が数本見える、つまりこれは生えていないのではない。生やしていないのだ。
「え…………あかり、ちゃん……毛が…………」
「……ははっ、パイパンじゃねーの!あかり、それ自分で剃ってるのか?カミソリで?」
「……はい…………その、脱毛器を買ってもらって……ほら、稽古でも道着の下は下着つけなくて毛があると気になるし、ってことで…………それ、で……」
「まさかの脱毛かよ…………マジで変態だな……ああ、褒めてるんだからな?」
「奏ちゃん…………」
「ほら、股広げて俺らにしっかり見せろ。心配しなくても俺も幸尚も指一本触れねえから」
「は、はい…………」
いつの間にか、あかりの口調が敬語に変わっている。
はぁっ、はぁっと息を荒げながら、あかりは床のクッションにもたれて股をグッと開いた。
そこには、男を知らない蜜壺がキラキラと光っていた。
小さな肉芽もまた、愛液にまみれてピンとその存在を主張している。
奏と幸尚は、その光景にごくりと喉を鳴らす。
初めて見る本物の女性器に、むせかえるようなメスの匂いに、目が離せない。
「すげ、こんなふうになってるんだな…………」
「っ、恥ずかしい……」
「隠すな、ちゃんと股開いとけよ」
「はぃ…………」
二人も男だ、触れてみたいと思わないわけではないが、そこは約束した手前グッと堪える。
何より恋人の前でそれをするのはあかりといえど流石に浮気じゃないかと気が引ける。
「……命令されただけでぐっしょりだな…………甘酸っぱいエロい匂いしてら…………」
「凄いね…………あかりちゃん、いい匂い……奏、僕なんかムラムラしてきちゃった……」
「あ、やべ、尚までムラムラしたら俺また抱き潰されコース、んうぅっ……!」
あかりのメスの匂いに触発されたのだろう、幸尚がかぶりつくように奏の唇を塞ぐ。
いつものように口内を蹂躙しながら服を脱がし、ベッドへと押し倒され。
「……はっ、尚、おまえあかりのメスの匂いで興奮してるな?」
「これ、なんか凄い……いつもより…………とまら、ない……」
「んあっ……凄えわ、マジで下手な媚薬より効くんじゃね、あかりの淫乱メス汁」
「はぁっはぁっ…………淫乱んぅっ………………」
「ははっ、言葉でも感じるのな?あかり、ちゃんと寸止めしろよっ、んっ、俺は尚とのセックスに集中するから……一人無様にそのビンビンに勃起したクリトリスを弄ってろ。……逝くなよ?」
「はぁっ、はひいぃぃっ……!」
「尚はあかりが勝手に逝かないか見てろ。俺絶対それどころじゃなくなるから」
「う、うん」
さ、尚、いつもみたいにいっぱい愛してくれ。
奏はうっとりした顔で微笑みかけて……いつものように幸尚の理性を破壊した。
…………
「奏…………奏っ……すき、大好き、はぁっ気持ちいい……これ、あかりちゃんの匂いのせいかな……奏もいつもより中がグネグネしてるね……」
「んぁっあっあっああああんっ!はっ……あひ、そこ、そうっ……そこぉぉっ……!」
「んうっ、いぐっいぐっだめぇぇっ……はっはっはぁんっ、がっ、がま、んうぅぅっ……ぐうぅぅ…………」
湿った音と、3人の息遣いと喘ぎ声が響く。
部屋の中は性の匂いで満たされ、それがまた3人の興奮を煽るのだ。
「凄い、ね……あかりちゃんがしているだけで……いつもと、全然違う……!」
「んああっ、尚くんっ、きもちいいのっ!二人のセックス見て興奮して、手が止まらないのお……!」
「うん、でも奏の命令、ちゃんと守れてて偉いね」
「はいぃっ……!!いっちゃ、ダメなの……あぁぁ、いかせてもらえない……辛い…………っ」
既に奏は何度も幸尚に逝かされ、くったりしている。
最近は奥の突き当たりをトントンしていると何だか柔らかくなってきて、奏の喘ぎ声が一際大きくなるのだ。確かあかりが「結腸イキもできるんじゃない」とか何とか言っていた気がする。
「奏……もうちょっとだけ、付き合って……ごめん、今日は3回じゃ無理……」
「なお……っ、も、おれ……んああぁっ、だめっそれっでちゃうなんかでちゃうぅぅ……!!」
必死の悲鳴と共に、プシャッ!!とくたりとした奏の中心から透明な液体が吹き出す。
これもあかりが前に教えてくれた潮吹きというやつだ。
ガクガクと身体をしならせ痙攣する奏に「かわいいよ、奏……」と耳元で囁けば、それだけで甘イキしてしまう恋人が可愛くてたまらない。
にしても、と幸尚はベッドの横を見る。
そこにはいろんなものでぐちゃぐちゃになったあかりが、それでも奏の言いつけを守って高い喘ぎ声を上げながら必死で手を動かし続けていた。
「辛いっ…………もっと…………」とこぼすその表情は苦悶と恍惚を宿していて、きっと奏ならとても興奮するのだろう。
「あかりちゃん、これって限界じゃないのかな……」
そう思いつつも、自分はノーマルだからその辺の加減はわからないし、やっぱり奏に任せた方がいいよなと幸尚はさらにその剛直を奏に深く突き入れ揺さぶるのだった。
そうして、2時間後。
「ふぅ…………奏、大丈夫……?」
「ぁ……ぁ………………まだ、きもちいい…………」
いつも通り抱き潰した奏を綺麗に清め、ベッドに寝かせて幸尚はその横に腰掛ける。
二人の視線の向こうには、あかりが今も涙と涎を垂らしながら必死でその肉芽をいじり続けていた。
開かれた股からは、とろりと白濁した蜜が流れ落ちている。
「ああ、ああっ……いき、たいぃ…………がまんっ…………はぁっはぁっ……だめ、っ…………ちゃんとさわらなきゃ……んああっ、もうっさわったらすぐ逝きそうぅ…………!」
泣きながら、叫びながら、甘い声を響かせてそれでもあかりはその手を止めない。
真っ赤に腫れ上がったクリトリスを、愛液をたっぷり塗してすりすりすればすぐに腰が浮いてしまう。
慌てて手を離して、ぐっと拳を握りしめて波が引くのを待って、また震える指を伸ばす。
やめられない。
やめちゃいけない、命令なんだから。
辛い、辛いけど…………まだ、もっと…………
一人で慰めていた時とは全然違う。
寸止めだって何回もしたけれど、こんなに辛くて興奮したのは初めてだった。
既に二人が情事を終えて、こちらを見ていることにも気づいている。
清潔なパジャマに身を包んだ二人、なのに自分は全裸で汗びっしょりになって、恥ずかしいところを見せつけ必死で快楽を追い続けている。
その惨めさも気持ちがいいのだと、身体が覚えてしまうー
「……奏、あかりちゃんはどうするの…………?」
「ん…………そう、だな。……あかり、おしまいだ。綺麗に洗って服を着ろ」
「っ、はい…………!」
「えええっ、奏、あかりちゃん逝かせてあげないの?」
流石にそれは酷いんじゃ、と言いかけた幸尚を「……だい、じょぶ、です…………」と身体をひくつかせながらあかりが止める。
「あかりちゃん……」
「…………いきたい……辛いの…………でも、奏ちゃんに…………だめって、管理されるのは……きもちいいのぉ…………」
「だよ、な…………ほら、俺らのセックスでオナニーさせてやったんだ、お礼は?」
「あ、あぁっ……ありがとう、ございますぅ……!」
「おう、挨拶の仕方とかはおいおいな。ほら、身支度してきな」
「は、はい……」
よたよたとシャワーを浴びに行くあかりを見送る。
ぱたん、とドアが閉まった途端「はあぁぁ…………」と大きなため息をついて奏がベッドに突っ伏した。
「……奏、大丈夫…………?」
「おう、いつも通り尻が変なだけ。…………すっげえ…………命令するのって気持ちいいけど、難しいぃ…………」
初めての『プレイ』にやはり緊張していたのだろう。終わった途端一気に力が抜ける。
「……あかり、あれで満足できたかな…………俺はすっげえ良かったけど」
「奏、あれだけ喘いでてよくあかりちゃんの様子分かったね?……そんなに余裕あったんだ」
「いやねーよ!尚がその、入っている間はあかりのことなんて全然見てられなかったわ!ただ全部終わってベッドに戻って、あかりの様子を見たら……まあ、俺がぐずぐずになっていた間の事は何となくわかる」
「そう言うものなの?」
「そう言うもんだ。それに、俺が見れない時は尚が見てたんだろ?ちゃんと、逝かずに弄ってるとこ。いつもなら俺ばっか見てるのに、やりゃできるんじゃん」
「う、うん、だって奏が見てろって言ったし。…………あかりちゃんすごく辛そうで、でも嬉しそうで……奏の命令をちゃんと守ってたよ」
そんな健気な幸尚が愛しくて、ありがとな、と奏は幸尚に口付けて微笑む。
「尚は辛そうなあかりを見るの、しんどくなかったか?」
「……やっぱりかわいそうになるよ。でも…………あかりちゃん、辛いって泣きながらやめないし……明らかに嬉しそうだったから、それを邪魔するのは違うかなって。……奏はあれで興奮するんだ…………」
「おう、可哀想は可愛いし、健気に命令守って苦しんでるのを見ると満たされる」
「…………ううん、難しい……」
「いや、無理して理解しなくていいって」
可哀想は可哀想でしかないよな、と幸尚は何度も反芻する。
多分、あかりを泣かせて興奮する奏の気持ちも、奏に泣かされて興奮するあかりの気持ちも、一生理解できそうにない。
けれど、理解できなくても……二人が楽しんでいるのは何となくわかる。
「……あかりちゃんがさ」
「おう」
「恋愛感情が理解できなくても僕たちを応援してくれているのと一緒かな。……多分、理解はできないけど、でも二人がそれを望むなら僕は応援したい」
「尚……」
「あ、でも、あんまり痛そうなのは……止めちゃうかも」
「それは止めてくれ。俺だって、いくらあかりが喜ぼうが尚を泣かせてまで性癖に走りたくねえ」
きっと、恋人としての二人の関係の横に必ずあかりがいるように、主従関係の二人の横には必ず幸尚がいるだろうから。
「よく分かんねえ関係になっちゃいそうだけどなあ……」
勢いであかりの性癖を暴いたけど、これで良かったのかとちょっとだけ逡巡する奏を「でも変わらないよ」と幸尚がぎゅっと抱きしめた。
「……僕たちは3人で一つ。それは変わらない」
「…………だな」
ガチャリとドアの開く音がする。
奏と幸尚は「んっ」とどこか悩ましげな吐息を漏らしつつもいつもと変わらぬように振る舞おうとするあかりを出迎え「ありがとう、頑張ったな」と労うのだった。
…………
「で、だ」
まだ絶頂できない辛さが落ち着かないのだろう、潤んだ目で悶えるあかりが戻ってきたところで、3人はこれからの事を話すことにした。
「三者三様の欲望が出揃ったことだし、俺たちの関係も少し変えていこう」
「……奏、でも変えるったってどうする……?その、僕、3人じゃなくなるのはやだよ……?」
「それは俺だって嫌だ。あかりもだろう?」
「う、うん……っ………………はぁっ……」
「あかりちゃん、大丈夫……?奏、流石にプレイが終わったんだから逝かせてあげたら……?」
「いや、むしろこのままがいいと思う。…………あかり、お前俺たちの奴隷になりたいってさっき言ったよな」
「……うん」
「あれは、本心だと取っていいな?」
真剣な瞳で確認する奏に、あかりは「……うん」と小さく頷く。
それならと奏はスマホを取り出した。
「なら、ちゃんとルールを決めよう」
「ルール?」
「おう。あかりは今から、俺と奏の奴隷だ」
「!!奏、それは」
「あー、尚と俺が恋人なのは変わんねえよ?そうだなぁ……あかりが被虐嗜好の中でもどう言うものを好むかで変わってくるけど、俺たちの付属品、ペット、奴隷、そんな感じになるんじゃねえかな」
「……いいの、かな……そんな、あかりちゃんを……人間じゃないみたいに…………」
「あ、それがいい、です……」
「あかりちゃん!?」
人間じゃない、それ、堪んない……とあかりはうっとりした顔で呟く。
「……多分ね、こうやって色々試すうちにまた変わるかもしれないけど」
「おう」
「……管理されたいの。人間じゃない、ただの……二人専用の道具として…………性欲も、この身体も、全部…………」
「なるほど、そっちなんだなあかりは」
「……奏ちゃんは?」
「俺も管理したいタイプだ。苦しみながらも必死で約束を守って、全てを委ねてくれるのがいい。まあ俺は委ねてくれれば鞭やスパンキングくらいはやりたいけど」
「あ、あ…………あは…………また、濡れちゃう」
「俺もガッチガチだわ」
ただ、幸尚がしんどいプレイはやりたくない、と奏は所在なさげな幸尚を見る。
「あかりは俺ら二人のものになるんだ。だから、尚が許可しないプレイはしない。ただし自慰と絶頂だけは俺が管理する。じゃないと、尚じゃすぐあかりが可哀想になって許可しちまうだろうし、それじゃあかりが満たされないから」
「う、うん…………その僕、鞭とか蝋燭とかああ言うのはちょっと……」
「ピアスは?」
「んー……ピアスくらいなら、いいかな……」
「よし、じゃあピアスは開けよう。乳首とクリトリス」
「はい!?」
いや、そこは想定してないよ!?と慌てる幸尚に「むしろどこに開けると思ったんだよ」と呆れた様子で奏が突っ込む。
なぜこっちがおかしいように取られるのか、幸尚は憮然としながら「耳以外ないし!」と答えるのだ。
「う、うん、まあ尚ならそうなるか……耳はさ、むしろ俺と尚のお揃いで開けたい……いやごめんやらねえって尚、顔が真っ青だ」
「僕はやだからね!!奏やあかりちゃんが開けるのは文句言わないけど……いやいやでも、乳首とか、くっ、クリトリスとか、そんなとこにピアスだなんていくら何でも」
「…………尚、あかり見てみろ」
「………………ああ、ありなんだ……」
そんな欲望がどろりと溶け込んだ顔で「……ピアス…………ご主人様のもの……」なんて呟きながら微笑む姿を見たら、反対する気も失せる。
気のせいだろうか、いつもなら線引きをして破天荒なことをするあかりのリミッターが壊れている気がする。
ま、ピアスは知り合いがいるから何とかなるぜと奏はメモアプリに「ピアス 乳首とクリトリス」と書き込んだ。
「汗かくから涼しい時期がいいかな」
「でも私、稽古でいつも汗かいてるから……」
「なら夏休みにしよう。それなら学校行かなくていい分安静にできそうだし」
どんなプレイがしたいのか、どんなプレイなら許せるのか、3人の意見を出し合いながらメモは書き出されていく。
そうして小一時間かけて作ったメモを、奏は二人に共有した。
「さっきあかりも言ったけど」
前置きして奏は確認する。
「これから色々試していくうちに、ルールは変わっていくと思う。とくにあかりに好きな人ができた時は、多分そこでお終いになるだろうし。だけど、これだけは3人の絶対のルールだ。『3人の合意のないことはしない』いいな?」
「うん」
「わかった。…………でもきっと、私が誰かを好きになることはないと思うんだよね……」
「ああ、あかりって恋愛感情がわからねえんだっけ」
「ずっと言ってるよね、恋愛はさっぱりわからないし、お陰で恋愛ものの題材がきたら国語の点数が落ちるって」
「そ、腐女子だけど私が求めるのはラブじゃなくてエロ」
「いっそ清々しいな、その発言」
そうは言っても、これから先あかりが誰かを愛する日が来るかもしれない。
きっとその時が、この3人の関係が終わる日だろう。
先のことなんてわからない。
だから、3人で過ごせる今を大切にしたい。
だって、自分たちは3人で一つ……『サンコイチ』だから。
じゃあそろそろ寝るか、と奏の一声でお開きになる。
奏と幸尚はここで、あかりは隣の空き部屋で眠るのだ。
「あ、そうだあかり」
部屋に行こうとしたあかりを、奏が呼び止める。
「……その、管理するって言ったけど……本当にいいんだな?」
「うん。頑張るけど……寝てる時までは、どうしようもないかも……」
「あー、うん、寝てる時に自慰したり逝っちゃったりするのはノーカンでいいよ。その辺は準備が揃ってからな」
「…………うん」
じゃあ、おやすみ、と部屋を出るあかりを見送り「……俺も、しっかり勉強しねえと…………」と奏が呟く。
「……勢いだけであかりを奴隷にしちゃったけど…………ちゃんと知識をつけなきゃ、あかりを傷つけちゃうしな」
「そうだね。僕にできることは言ってよ?奏のことだから一人で抱え込むことはなさそうだけど」
「ねえな、そんなことしたらお前の胃に穴が開く」
さ、俺らも寝ようぜと奏が電気を消す。
その画面に表示されているメモには
『自慰と絶頂を管理する(貞操帯を作る)』
と書かれていた。