沈黙の歌Song of Whisper in Silence
沈黙の歌Song of Whisper in Silence
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4話 自由の枷

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 数日後、3人は再び『Jail Jewels』を訪れていた。
 外は茹だるほどの暑さなのに、ここはいつ来てもどこかヒヤリとした雰囲気を感じさせる。

「いらっしゃい」と出迎えてくれた塚野が奥の部屋に3人を招く。
 あの日と同じ、テーブルには紅茶とクッキーが用意されている。
 今日は水出し紅茶だ。喉を通る冷たさが気持ちいい。

 それで、と塚野が話を切り出す。

「結論は出たの?」
「おう、ちゃんと3人で決めてきた。あかりの乳首とクリトリスにピアスを着ける」
「分かった、じゃあ前回途中だった説明からね」
「えーまだ説明あんのかよ……」
「あかりちゃんのことが大切ならちゃんと聞きなさい」

 奏を嗜めながら、塚野はメモに絵を描き説明する。
 ピアスの開け方、開けた後の消毒やトラブルのケアなどを一通り話した後「それで、やる前にもう一度確認をとらせてちょうだい」と3人の方に真剣な瞳を向けた。

 その圧に、自然と背筋が伸びる。

「あんた達は、この関係をいつまで続ける気?」
「へっ」
「今はいいわ。けどこれから進学して、就職して……奏と幸尚君が別れたら?あかりちゃんに好きな人ができたら?」
「えと、それは……」
「もちろん未来なんてどうなるか分からない。けど、分からないからって考えなくていい問題じゃないわよ、特に今回は……あかりちゃんに後戻りできない傷をつけるだから」

 未来を問われて、3人の顔に戸惑いが映る。
 彼らの頭にある未来なんて、精々大学受験くらいだろう。そんな遠い未来を思い描き現実を見つめるには、若い彼らは今を生きるのに忙しすぎる。

 しばしの沈黙が満ちる。
 塚野は特に急かすこともなく3人を見つめながら待っている。

 その沈黙を破ったのは奏だった。

「……少なくとも、俺は生涯あかりを奴隷として飼うつもりでいる。尚と俺が別れてもそれは変わらない。あかりに恋人ができればそこで終わりだけど」
「へえ、生涯とは大きく出たね。……あかりちゃんはどうなの?」
「私もです。ずっと奏ちゃんと尚くんの奴隷でいたい、です…………でも、二人が別れるのはやだなぁ……」

 キッパリと決意を伝える二人とは対照的に「僕はなんとも……」と幸尚は気弱な様子だ。

「幸尚君は流石に生涯ずっととは考えてない?」
「え、いや、僕はその、いずれ奏と結婚して……ずっと3人でいたいです。ただ」
「ただ?」
「…………奏とあかりちゃんがこの先どんな関係になっていくのかも分からなくて……もちろん二人を大切にしたいと思ってるけど…………未来の想像がつかないというか……」
「あー…………確かに、俺らはその辺はわかる……いやでも、あかりが描いているものが俺と一緒とは限らねえか」

 と言っても、俺もイメージとしてこういうのってのはあるけど説明しづらいな、と悩む奏とあかりに「そうねえ」と思案顔だった塚野が何か思いついたのだろう、ニコリとする。

「完全管理、よね。二人が目指すのは。性欲だけじゃない、排泄も食事も、行為すらも管理したい、されたい」
「「はい」」
「いい返事ね、熱意の高さが伺えるわぁ…………それならいいものを見せてあげる。これなら幸尚君にも何となく伝わるんじゃないかな」
「いいもの、ですか」
「ええ」

 塚野はタブレットを操作し、何かを表示して3人に見せる。
 それを見た3人は「これは……」と息を呑んだ。

「見ての通り、これがあんたたちの関係の行き着く先よ」



 そこに映るのは、何かの生き物だった。

 黒い頭に首輪。
 床から伸びる鎖に繋がれ、鳴き声とも叫び声とも言えないような音を塞がれた口から漏らしながら、必死で悶える姿。

「……これ、人間…………?」

 ぽつりと幸尚が呟く。
 人間だな、と答えた奏の顔もこわばっている。

「全頭マスクにボールギャグかな……ああ、あれ革製のマスクでさ、つけると何も見えないし、多分耳栓もしてるから何も聞こえてねえはず」
「ご明察、首輪に固定して施錠してあるから自分では外せないわよ。まあ手も鍵付きミトンで拘束してるからそこまでしなくてもいいんだけどね。口はペニスギャグを咥えさせているわ」
「げっ、えげつねぇ…………」
「ペニス、ギャグ?あの、丸い玉の口枷じゃない?」
「うん、ディルドで口と喉を塞ぐんだよ…………慣れないとめちゃくちゃ苦しいんだって」
「ひぇ…………」

 よく見ると床の鎖は首ではなく、尻の方に伸びている。
「場所的にあの鎖、アナルプラグに伸びてるんじゃ」と奏が恐る恐る尋ねると「ええ、バルーンタイプのアナルフックが刺さってるの、そこから伸びてるわ」と塚野はこともなげに答えた。

『ぉご…………んぉぉ…………おぉぉ……!!』

 その体格から見るに男性だろう、哀れな奴隷は必死で胸と股間を弄っている。
 だがその股間は金属で覆われていて、しかも何かがおかしい。
 男性にしてはつるりとしているのだ。

「貞操帯?いや待て、あれちんこ無いんじゃね!?」
「えええっ!?まさか、ちんちん切り落として」
「違うよ、あれフラット貞操帯」
「「何それ」」
「あらよく知ってるわね、割と最近出てきたタイプの貞操帯なのに」
「そりゃもう、腐女子の知識を舐めてもらっては困ります!」
「……あかりちゃん、そこは胸を張るところじゃ無いと思う、で、フラット貞操帯って何?」

 あかりは意気揚々と貞操帯の説明をする。
 プレイの時とはまた別の意味で生き生きと目が輝いているあかりに「……腐女子って、凄いね…………」と幸尚は圧倒されていた。

「……はぁ、つまりチンコを腹の中に押し込めて自慰できなくするってか……ケージ型のは見たことあるけどこれは新鮮、いや鬼畜」
「触りたくても触る竿すらない、ってのがポイントなのよね!本物を見れるだなんて感激だわぁ……」
「あかりちゃん、話がズレてる」

 こほん、と咳払いをして「これ、塚野さんの奴隷?射精管理してんだよね」と奏が話を元に戻す。
「そうよ。戸籍上は夫、もう奴隷にして10年になるわ」
「……10年…………」

 必死で快楽を得ようと、鍵付きミトンで覆われた手を胸と股間にもって行く姿は、相当切羽詰まっているように見えた。
 きっとその双球はずっしりと重く、一刻も早く欲望を解き放ちたくて堪らないのだろう。

 想像するだけでゾワっとする、と身震いしながら「あれ、射精管理何日目?」と尋ねた事を、奏は次の瞬間後悔した。

「何日?まさか。契約してからずっとよ」
「…………はい!?」
「それって10年ずっとって事ですか?」
「ええ。完全管理なんだから当然でしょ」

 身体のことを考えて月に1度のミルキングは欠かさないし、毎日の洗浄時にはしっかり刺激をして勃起機能を維持させている。
 だがあの奴隷は塚野と『結婚』して以来、一度も射精を許されず、それどころかペニスに触ることすら禁じられているという。

 さもそれが当然と言わんばかりに、そしてどこか誇らしげに語る塚野の姿からは、その方向が歪んでいるにしてもこの奴隷をどれだけ深く愛しているかが窺い知れた。

 想像を遥かに超えてた……と幸尚はぽふりとソファに背中を預け天を向く。

「………………これが、完全管理……今僕らがやってることなんて…………ままごとだね……」
「これと比べちゃダメよ、あんた達にはあんた達のペースがあるんだから。でもまあ、奏とあかりちゃんの顔を見る限り、目指すところはほぼ同じようね」
「っ…………はい……」
「ま、そだな。こんな感じになると思う。尚、俺だっていきなり今これを理解しろとか言わねーから」
「うん、うん……それは分かってる、けど…………うわぁ……」

 ここは自宅の一室で外から鍵をかけられており、塚野が帰宅するまで彼はそこから出ることができない。
 肛門は塞がれているからそもそも排便はできないし、尿道もここからは見えないがネジ式の蓋がきっちり閉められていて、塚野の帰宅までの10時間は排泄の自由すら奪われている。
 食事、いや餌は1日2回で、帰宅後に与えるそうだ。

「と言っても、最初からこうだったんじゃないわよ」と塚野は付け加える。

「管理し始めた当初はもっと短い時間からだったし、ずっと側についてたわ。3年くらいは自宅で細々とネットショップを運営しながら、SMバーで勤務する時は連れていきながら、少しずつ一人で留守番ができるように躾けて行ったの」
「これ、モニターは……」
「モニターは自前よ。それとは別に警備会社と契約してる。いつでもモニターで確認できるし、異変があれば連絡が入るわよ」
「凄い…………合意なんですよね……」
「当然。ステップアップする時には必ず同意を取るし、いつもうまく行くわけじゃ無いから試行錯誤の連続だし、奴隷の心身のフォローも必要。ガチでご主人様やるってのはそういう事なのよ。人1人の人生を預けてもらっているんだから」

 主人というのは、能天気に相手を管理して喜んでいれば務まるものでは無い。
 奴隷も与えられるものをただ喜んで鳴いていればいいものでは無い。
 きっと生涯、互いにいにトライアンドエラーを繰り返しながらこの関係を維持して行くのだ。

 それは普通の結婚生活も、主従関係でも変わらない。いや、それ以上かもしれない。
 恋愛のスパイスや、ファッションとしてのSMならまだしも、あんた達は私と同じガチ勢でしょ?だから確認するのよと塚野はあかりの方を向いた。

「二人にあかりちゃんの生涯全てを捧げる可能性とその危険性を理解している?
 その選択を後悔するような事態になっても、自分の選択した結果だと二人を恨まず受け入れる覚悟はあるのかしら」
「自分の選択した結果…………」
「あかりちゃんは、ずっと誰かの『普通』に合わせて生きてきた。それは自分を殺す辛さはあるけど、逆に言えば自分の人生に責任を取らずに生きてきたって事なの」

 都合の悪いことは、全て誰かのせい。だってその誰かの求める自分を演じているのだから……

(言い返せない……悔しいけど、塚野さんのいう通りだ)

 あかりは俯き泣きそうなのをグッと堪える。
 グラスに映る自分の顔が情けない。

「覚悟がないなら今この段階で引き返しなさい。今の軽い主従関係なら今後関係が解消されてもそれこそ『普通』に戻れるわ」

 あんた達もよ、と塚野は奏と幸尚にも釘を刺す。

「奴隷を管理するのは決して簡単なことじゃない。思い通りにいくことばかりじゃないし、手間も費用もかかる。負担は決して軽くないの、今のを見れば分かったでしょ?」
「……はい」
「最悪事故が起きれば、プレイどころか生涯奴隷を介護しなければならなくなるかもしれないわ。
 奏、そこで責任放棄して逃げてしまうかもと少しでも思うなら、今まで通り軽い管理で満足しなさい」
「……逃げねえよ」
「奏」

 奏は即答する。
 自分とあかりの性癖を単に満足させるだけじゃない。
 やっとみつけた、あかりが『普通』の苦しみから脱出できるチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

「俺は逃げねえ。これなら俺と尚が、あかりが自分を出せる場所になれそうなんだ。あかりがどうなろうが俺はずっとあかりの側にいる」
「奏ちゃん……」
「大切な、幼馴染なんだよ。友達でも家族でも無い、恋人とは違う、でも俺にとってあかりは尚と同じくらい大切な人だ」
「……僕もです。僕は……きっと二人の性癖を生涯理解できない。それでも二人が嬉しいのは僕も嬉しいから。ずっと……二人と共に生きたい」
「尚くん」
「もちろん無理はしないよ。今回みたいにダメだと思ったらちゃんと伝える。実際今回も二人はちゃんと立ち止まって待ってくれたから……だから大丈夫」

 若いわねえ、と塚野は嘆息する。
 だがその口角は上がっていた。

「……で、あかりちゃんは?……もう聞くまでも無いわね、その顔なら」

 涙も引っ込んだ。
 二人と気持ちは変わらない。
 私は、二人を信頼してこの身を預けるのだ。

 まっすぐ塚野を見つめて、あかりは「はい」と頷いた。

「私は奏ちゃんと尚くんに飼われたい。他の誰でもない二人がいいんです。二人となら、塚野さんたちみたいな関係を築ける……ううん、築いて見せます」
「……そう」

(全く、若さってのは強いね)

 3人の澄んだ瞳に、塚野はあの日のことを思い出す。

『チカ様のお側に生涯置いて下さい!僕は……僕はお側にいられるなら、チカ様のご命令をなんだって受け入れます!!後悔なんてしない、いや後悔しても構わないんです!』
『……あんた、無茶苦茶だよ…………』
『僕には……チカ様だけなんです…………どうか、どうか……!!』

 熱烈なプロポーズは、前の店の常連客から、しかもプレイの真っ最中だった。
 10歳年下で成績が上がらず会社でのストレスをSMで発散するような気弱なサラリーマンだった彼は、以降12年間己の言葉を曲げず、一度たりとも命令に背くことのない塚野だけの愛奴になった。

 きっと彼らも、あの時の彼と同じ物を持っているのだ。

(ま、サポートくらいはしてやるかね。この3人、変な関係だけどどうも目が離せないし)

「いいよ。あんた達の覚悟はわかった」
「!じゃ」
「ああ」

 塚野はすっと立ち、奥のスペースに3人を誘う。

「やりましょ。あかりちゃん、全裸になって」
「…………はい!」

 弾かれるように立ち上がったあかりが、期待と不安の色を目に浮かべつつシャツに手を掛けた。


 …………


「あかり、ピアッシングが終わるまではオーナーの命令は俺たちの命令な」
「は、はい…………はぁっ……」
「あら、首輪だけでこれ?また随分躾けられてるわねえ」
「プレイ中は首輪をつけるようにしてたら自然とこうなったんだよ」

 一糸纏わぬ姿になれば、奏がステンレスの首輪を装着する。
 カチリ、とロックがかかった音だけで気持ちよくて、目がどろりと蕩けてしまう。

「この関係になってどのくらい?」
「2ヶ月半ってとこかな。やってるのは自慰と絶頂の管理だけだし、試験前はそれもやらねーけど」
「ま、あんた達の本分は学生だからね。……挨拶とか礼儀作法とかは?」
「その辺は全く」
「そう。……少し仕込むわよ?」
「おう、俺も参考にしたい」

 了解を取ると塚野は「あかりちゃん、しゃがみなさい」と命令する。
 慌ててしゃがんだあかりの膝に背後から手を掛け、グッと開くと「ヒッ」とあかりから短い悲鳴があがる。

「つま先立ちになりなさい。それで股を180度開く。ああかなり柔軟性はあるわね。ほら、背筋を伸ばして。手は頭の後ろで組みなさい」
「はっ、はい……」

 矢継ぎ早に飛ぶ指示に従って、形の良い乳房を、その中心で興奮をあらわにする肉芽を、さらにたらりと床に蜜をこぼす潤みを全て晒す。
 幸尚や奏に見られるのはそこまででもないのに、同性の塚野に見られると恥ずかしすぎて頭がパンクしそうだ。

「奴隷が主人と同じ目線にいちゃダメよ。特に指示がなければ常にこの姿勢を取りなさい」
「うぅ……はい…………」
「エロ漫画でよく見るやつだなー、これ実際にやらせると結構唆るな」
「凄い、全部丸見えだね。……あ、腋毛」
「いやぁ……尚くん、それは見ないでぇ…………」
「何言ってるの、しっかり見ていただきなさい!ほら、ご主人様から指摘していただいたんだからお礼は?」
「ひっ、あっ、ありがとうございますぅっ!!」

 いつの間にか塚野の手にはバラ鞭が握られていた。
 パシッと左の太ももに落ちた鞭に、痛みはさほどでもなかったが悲鳴をあげてしまう。

(ひいぃ、剃り残し……今度から腋も脱毛器にしよう…………!)

 そう言えば腋は見られたことがなかったと気づけば、途端に恥ずかしくて涙が滲む。
 にしてもこの体勢はなかなかきつい。居合の稽古で足腰を鍛えていなければすぐに転けていたなぁと、日頃の鍛錬に感謝した。

「呼び方は……うちはご主人様呼びだけど、あんた達は二人だからね。どうする?」
「んー、苗字ってのもなんかよそよそしいし……奏様、幸尚様、かな」
「うん。僕らはずっと名前呼びだしその方がしっくりくる」
「オッケー。聞こえたわね?奴隷の分際でご主人様の名前を呼ぶことをお許しいただけたのよ?なんて言うの?」
「っ、奏様、幸尚様、名前で呼ぶことをお許しいただきありがとうございますっ!」

 些細なことでも、奴隷には特別なこと、ありがたいことだと刷り込んでいく。
 考える暇を与えず、反射的に感謝を口にできるよう促すその手腕に「やっぱ経験者はすげぇ」と奏は感心しきりだった。

「めちゃくちゃ参考になるわ……」
「あんた達にしっくりくるようにアレンジしながらやりなさいよ。さてと、あかりちゃん」
「はいっ!」
「これからあんたは何をしてもらうんだっけ?」
「っ、つ、塚野様にっ、ピアスを開けていただきます!」
「30点ね。もっと具体的に言わないと」

 次は右の太ももに、鞭が振り下ろされる。

「くぅっ…………ええと、塚野様に……私のちっ、乳首と……クリトリス、に…………ピアスを……」
「奏と幸尚君の所有の証でしょ」
「はいぃ!私の乳首と……クリトリスにっ、奏様と幸尚様の所有の証を着けていただきますぅ…………」
「それ、あかりちゃんがつけて欲しいのよね?……なら、お願いしなきゃね?」
「はい……ええ、と…………」
「今言ったままでいいわよ。大声でハッキリと、その興奮してビンビンに勃起した乳首とクリトリスと愛液ダラダラのおまんこを見せつけながら、ご主人様にお願いしなさい」
「んああっ!!」

 パシン、と今度は背中に鞭が飛んで身体が飛び跳ねる。
 痛みはそこまででもないのに、なぜか涙が滲んできて、あかりは鼻を啜りながら必死で叫ぶのだ。

「っ、奏様、幸尚様っ!あかりの乳首とクリトリスにっ、お二人の所有の証を付けて下さい…………!」
「声が小さい、もう一度」
「ううっ、奏様ぁっ、幸尚様あぁっ、あかりの乳首とっ、クリトリスにいっ!お二人の、所有の証を付けてくださいいっ!!」
「もう一度」

 何度も、何度も叫ばされる。
 だんだん身体がふわふわしてきた。
 クリトリスが……痛いほど勃ち上がっているのが分かる。

(ああ、ご主人様に変態なおねだりしてるんだ、私…………こんな格好で……全部、見られながら…………!)

 堪らない。
 どこまでも普通の人間として扱われない事が、こんなに気持ちいいだなんて。

 明らかにいつもと様子が違うあかりの姿に、奏と幸尚は釘付けになっていた。

「……あかりちゃん、なんでだろ……凄く幸せそうに見える……」
「俺も見える。すげえな……あかりはこんなふうに扱われたいんだ…………あーたまんねぇ、俺めっちゃ勃ってる」
「えええ……僕こんな事言えないし興奮なんてとても…………」
「それは俺がやりゃいいって。尚は頑張ったあかりをいっぱい褒めりゃいいんじゃね?」

 これからあかりがやられる事、もう体験済みだろ?と奏が幸尚の腹部に目をやると、幸尚はもじもじと俯く。
 ノーマルな幸尚にはきっと強烈な体験だったのだろう。

「……大丈夫だって、考案した俺とあかりの性癖を信じろ。んで、終わったら二人で頑張ったなって褒めてやろう」
「う、うん……僕には奏がただの鬼畜に見えたけど…………」
「ま、そりゃそうだろ。でもきっとあかりは喜ぶさ」

 そうは言っても心配なのだろう、幸尚は未だお願いを叫ばされるあかりをハラハラした様子で眺めるのだった。


 …………


「はっ……はっ…………」
「ふふ、随分気に入ったみたいねぇ?ピアッシングにここまでする必要はないんだけどね、ほんと優しいご主人様ね」
「あは……ギチギチなの、嬉しいですぅ…………」

「先に乳首からやるわよ」と処置台に座らされたと思ったら、ヘッドレストに首輪を固定された。
 手足や腰も革ベルトでしっかりと台に固定され、身動きが取れない。

「あ、さっき反応していたやつも使っちゃおうか。サービスしたげる」
「何を……うへぇ、鬼畜かよ…………」
「でも好きでしょ」
「好きだな」

 塚野の手に握られていたのは細身のディルド、の根本から皮のベルトが伸びた装具だった。

「ペニスギャグ…………んおえぇっ……!!」
「はいはい、しっかり喉開かないとずっとえずいたままよ?初めてだし短めのにしたから、終わるまで頑張りなさいな」
「んえぇぇっ……ぉえ…………」

 えずいて涙が滲んでくる。
 飲み込めない涎がたらりと顎を伝う。
 そんなあかりに目もくれず、塚野はマーカーを持って乳首をつんつんと突いていた。

「座ってやるんだ」
「胸はね、座位と仰臥位でかなり変わるから……ちゃんとした位置を確認するには座ってやるのが一番。ま、刺すときは寝かしても良いけど、これはあかりちゃんの調教でもあるしね」

 場所が決まったのだろう、マーカーで印をつけ消毒を終えると、塚野はカートの上のトレイに何かをぽとんぽとんと落とし滅菌手袋を身につける。
 そうして「これがファーストピアスね」と銀色に光るバーベルをあかりに見せた。

「んぉ…………」
「で、こっちがこれから使う針。これで真横に乳首を貫いて、針をガイドにピアスを押し込む」
「!!?んおぉぁ!?」
「いやあ良い反応するわねぇ!ほらよーく見て?12Gの針って太いでしょ……?うふふ、怖い?怖いわよねぇ、こんな太い針医者やってたってそうそう使わないわよ」
「そうなんですか?」
「注射の針ってね、数字が小さいほど太いのよ。病院で点滴するなら太くても18G、採血なら22Gくらいが多いかな……」
「ひえぇ、思った以上に太かった……確かおへそに開けたのも」
「14Gね。ああ、クリトリスは14Gだからこれよりは細いわよ?安心した?」
「んごおおぁぁ……!!」

(うそっ、病院の注射の針と全然違う!!こんな太いものが刺さるの……!?)

 ペニスギャグをヘッドレストごと固定されているから、ぶんぶんと首を振ることすらできない。
 なんとか怯えた瞳から涙をこぼす事で恐怖を表すも「なぁに、泣くほど嬉しいの?良かったわねぇ」と塚野はニヤニヤしながら煽るだけだ。

「あ、普通は針なんて見せずに一気にブスッとして終わりよ?いたずらに怖がらせて動かれても困るしね」
「……つまりこれは」
「奏の提案ね。ま、私もノリノリでOKしたけど」
「ええぇ…………」

 訳がわからないと呆れ顔の幸尚に「恐怖と興奮って、似てるの」と塚野はあかりの乳首を先が視力検査の輪っかのように割れた鉗子で挟む。

「あかりちゃん、目の前の鏡を見てみなさい」
「んぐ……!!」
「よーく見えるでしょ?これからあかりちゃんの乳首に、ぶっとい針が刺さるとこ。……目を逸らさずに見てなさい、ほら、ここからブサッといくわよ」
「んぅぅぅぅっ!!」
「怖いわよねぇ、ドキドキして堪らないわよね……?…………でも、その怖いのが……気持ちいいのよ、ね?」
「んむうぅー!!!」

 ぶすり、と太い針が乳首の中に沈んでいく。
 痛い、なんてもんじゃない。
 思わず飛び跳ねる身体は、しっかりと拘束具に阻まれ逃げることを許さない。

 もう一度、皮膚を内側から貫く痛みに涙が溢れると「良い眺めねぇ、針が刺さった乳首って」と塚野からうっとりした声が漏れた。

「……痛そう…………」
「幸尚君はそうよね、ふふっ可哀想ねえあかりちゃん、散々恐怖を煽られて痛い思いをするなんて」
「ぅぐっ……おぇっ、ひぐっ…………」
「…………でも、興奮したでしょ?」
「!!」

(……否定、できない)

 手際よく針をガイドにピアスが押し込まれていく様子を、あかりはジンジンする胸の痛みを感じながらぼんやり眺める。

 ピアスが通って仕舞えばなんてことはない。
 あんなに心臓が飛び出るかと思うほど怖がるものじゃない、なのに。

(逃げられないように拘束されて……痛みを想像して、怖くて、ドキドキして…………)

 そう、それは興奮のドキドキと、変わらない。
 そう気づいた途端、心の何かが壊れる音がして。

「さ、もう片方も開けるわよ。…………もう要領は分かったわよね?ちゃんと見ていなさい」
「んうぅっ…………んふ…………」

 瞳がどろりと欲望に溶ける。
 太ももをつう、とねっとりした液体が伝う感触がした。


 …………


「免許はあるから、基本は麻酔をかけてやるのよ。一般的なピアススタジオとの違いはそこね。ただまあ、ここにくるお客は……というかご主人様は、たいてい麻酔を拒否するけど」

 一度トイレで用を足し、今度は仰向けに拘束される。
 喉に押し込まれたペニスギャグはそのままで、ダラダラと涎を垂らしながらトイレに腰掛ける惨めさに身体がふるりと震える。

「その、麻酔なしでも大丈夫なんですか?クリトリスって……」
「ああ、死ぬほど痛いらしいわよ?でも麻酔なしで開けてる人はそれなりにいるんだし、問題ないんじゃないかしら。あら、また愛液が垂れてくるわ……消毒してもこれじゃ意味がないわよ、変態」
「んうぅ……んむっ…………」

 さっきと同じ革ベルトで、首と腕、胸の下、腰をしっかり固定される。
 足は産婦人科の診察台のように広げられた足台に乗せられ、これまたぴくりとも動かせないよう太ももと足首を固定された。

 消毒液をたっぷり含んだ綿球でぐりぐりとクリトリスを刺激されるだけでも、これから行われる処置への恐怖と期待が混じって甘い声が止まらない。
 キリがないわね、と苦笑しながら塚野は照明と拡大鏡のアームを動かし、あかりから震える肉芽がよく見えるように調整した。

「あかりちゃんのクリトリス、結構大きいわね。勃起したらフードから完全にはみ出ているし、これならピアスをつければずっと剥き出しのままになるけど…………」
「それ、大丈夫なんですか」
「んーまあ下着で擦れていつもお股びしょびしょになるくらい?これだけ濡れやすいとすごいことになりそうね。ま、こんな大きさになるまでクリトリスを弄りまくる淫乱奴隷にはお似合いよ」
「んぐっ!?」
「あーまあ、あかりも結構自慰してたって言ってたっけ……」
「単に自慰で弄ってただけじゃないでしょ、明らかに大きめだし……吸引やってるわねこれ」
「マジか、あかり…………お前どれだけ変態なんだよ」
「んふぅぅぅ……」

(いやあああっ秘密にしてたのにぃ…………なんでばれちゃうの……)

「大きいほうが気持ちいいんじゃ」と好奇心から吸引しては根本をリングで止めて遊んでいたせいで、米粒ほどだったクリトリスが大豆より大きくなってしまったなんて、とてもじゃないが二人には言えない。
 言えなかったのにあっさりとバラされて、流石のあかりも涙目である。

 まあ、塚野の暴露はそれで終わらないのだが。

「とにかく、これならブスッといけるわよ。さ、あかりちゃん、こんなところにピアスをつける変態奴隷になろうね」
「んううっ、んっ」
「ご主人様が与えてくれる痛みよ、ありがたく堪能しなさい」

 言い終わるが否や、今度は焦らすことなく一気に貫かれて。




 ………………一瞬、世界が暗転して。




「んごおぉぉっ!!おぇっ、おげぇっ…………」

 およそ女性とは思えない獣のような低い咆哮が、あかりの口から上がる。
 足の先まで電撃が走るような激痛に、全身にブワッと脂汗が浮くのが分かった。

 痛い。
 そんな言葉で終わらせられないほど、痛い。
 人生で一番痛いかもしれない。

「おごっ、おぇぇっ、んえぇっ!!」
「はいはい落ち着きなさいな、ピアス通すわよ」

 これが落ち着いていられようか。
 あまりの痛みに叫び、喉が刺激されてえずきが止まらない。

「ふふ、無様ね。オエオエ言いながらおしっこちびっちゃって……ほらできたわよ、ご主人様によーく見てもらいなさい」
「んぇっ!?おほっ、んおぉ……」
「本当だ、ちびってら」
「んあぁぁ!!」

 そんな。
 ちゃんとトイレに行ったのに漏らしてしまうだなんて。

 恥ずかしさと痛みで、涙が止まらない。

「んおっ、んぐぅぅ……ぅぇ…………」
「にしてもすげえインパクトだなこれ。股を閉じたら見えねえ?」
「んー、今は腫れもあるからなんともだけど……まあ下着に擦れて一日中刺激されるし、長い目で見ればもっと大きくなるわよ。本人もデカクリになりたかったみたいだしちょうどいいんじゃない?」

 流石にえずきが止まらないのはまずいと思ったのか、塚野がペニスギャグを外してくれる。
 だがそれ以外の拘束はそのままで、あかりはなすすべもなくキラキラ光る3つの恥ずかしい飾りを3人に見せつけるのだ。

「ひぐっ…………ひぐっ…………」
「ほら、泣いてないでちゃんとご主人様にお礼言いなさい?」
「ひぐぅっ……奏様……幸尚様…………あかりの乳首と、クリトリスに…………ピアスをつけてくれて……ありがとうございますぅぅ……ひぐっ……」
「おう、綺麗だぞ、あかり」
「ううっ、でも、漏らしちゃって……」
「そんなの気にしなくていいよ!」
「尚くん……ぁっ、幸尚様…………」
「『尚くん』でいいよ、もう終わったんだから」

 幸尚は汗でびっしょりしたあかりの頭をその大きな手で優しく撫でる。

「痛かったよね…………ありがとう、頑張ってくれて」
「尚くん…………」
「僕、まだご主人様って言われてもよく分かんないけど。でも、あかりちゃんが僕たちに飼われたくて頑張ったのは分かるから」
「……っ」
「よく頑張ったね、あかりちゃん」
「っ、ひぐっ、なおくんっ……いたかった、こわかったのおぉっ…………でも、わたしこんなので、こうふんしちゃったのぉ…………!!」
「うんうん、辛かったけど楽しかったんだね。いいんだよ、あかりちゃんが感じるままで」
「うっ、うわああああんっ…………!!!」

 限界だったのだろう、泣きじゃくるあかりの頭をを幸尚はずっと「えらいよ」「頑張ったね」と撫で続けていた。

 そして。

「……あんたも褒めたげなさいよ。奴隷が頑張ったらちゃんとフォローとフィードバックは大事!」
「おう、また後でちゃんと褒める。……それよりその、オーナートイレ貸してくんねぇ?もう俺我慢できねぇ」
「はぁ、歪みないわねあんたは…………」

 その後ろで目をギラギラさせた奏はトイレに駆け込むのだった。


 …………


「少し落ち着いた?」
「あ、はい…………うう、痛い……歩ける気がしない……」
「痛み止めが効くのに1時間くらいかかるから、そのまましばらく余韻に浸ってるといいわ。ロングスカートで来てるわよね?下着は履かずに帰りなさい。電車でも立っていたほうがいいわよ、二人にボディガードさせてね」

 拘束を外した後も、痛みにとても動く気になれず、あかりは股を開いたままの姿勢でぼんやりとする。
 股の向こうでは幸尚が消毒セットと痛み止めを受け取っていた。

「今夏休みだっけ?これ、親に隠せるの?痛みが引くまで2-3日はかかると思ったほうがいいけど」
「それは大丈夫、尚んちにお泊まりするから」
「僕ら、夏休みは大抵3人で僕の家に泊まるんです。ご飯は奏やあかりちゃんちに食べに行くけど……」
「尚くんのお父さんとお母さんは、お仕事でたまにしか帰ってこないもんね」
「うん、でも今年は年末年始からGWまでずっといたから長かった方だよ。次帰ってくるのはまた年末だって」
「そりゃまた複雑なご家庭ねえ」

 幸尚の両親は世界的にもちょっと名の知れた学者らしく、幸尚が中学に上がった頃からは海外のフィールドワークにも積極的に出かけるようになり、今では1年の3分の1くらいしか日本にいない。
 多感な年頃の子供を置いてそこまで研究できるのは、開業医の奏の両親と、在宅でデイトレイダーをするあかりの父、そして同じく自宅で居合道場を開くあかりの母による「尚くんは私たちの子供みたいなもんだ」「うちらで面倒は見るから研究頑張っておいで」「うちが大変なときに尚くんちにはお世話になったんだし、お互い様」という全面的な支援があってのことだ。

「じゃあそれまで、あんた達は爛れた生活をしたい放題と」
「ひでえな、ちゃんと勉強だってしてるからな!…………まあ、ほぼ毎日プレイもしてるけど」
「それを爛れてるっていうの。全く、若いって怖いわねえ。自慰と絶頂の管理だけとはいえ、強制自慰もやってるんでしょ?奴隷がお尻でよがっているのを眺めながら恋人とセックスを楽しむなんて、なかなかパンチが効いてるわよ」
「…………え?」
「…………え、どうしたの?」

 塚野の言葉に、奏と幸尚が固まる。
「いや、俺らあかりには乳首とクリトリスしか触らせねえよ?」と奏がポカンとした顔で答えれば、今度は塚野が「嘘でしょ!?」と素っ頓狂な声を上げた。

「え、こんなにアナル開発してるのに、放置なの!?」
「…………開発?」
「あわわわ塚野さんっ!そのっ、それ以上はあぁぁ!!」
「…………あー……」

 ヤバいこの人、なんでそんなに分かっちゃうのかなぁと涙目で止めるも、すでに遅し。
 慌てるあかりにニヤリと悪い顔になった塚野は「奏、少しあかりちゃんのアナル触っていい?」と手袋とジェルを取り出した。

「お、おう…………いや、アナルも弄っているだろうなとは思ってたけど……」
「だいぶ使い込んでるわよ。ほら」
「ひぃぃっ!!」

 塚野の細い指がつぷりとアナルの中に消えていく。
 グニグニと上下左右に動かして確信を得た様子で「ほら、ゆるゆるよ」と塚野は二人を呼び寄せた。

 二人の息が、股間にかかる。
 逃げ出したいのに……もう拘束は解かれていて逃げられるはずなのに、身体が動かない。
 ピアスを穿たれて二人の所有物だと後戻りできない形で宣言されてしまったせいかもしれない、なんてどこか冷静な頭はぼんやり考えている。

「遊び慣れているとね、すぐに柔らかくなるのよ。それに肛門周囲も少し色素沈着してるしね。うん、これは指3本は余裕ねぇ……ほら、入った」
「んあぁんっ!!」
「ふふ、気持ちいいのね?処女なのにお尻から子宮開発しちゃってるだなんて、いいわあ淫乱で」
「マジで3本入ってるじゃん、つまり」
「…………ち、ちんちんが入る……」
「よなあ?尚もいつも3本入るまで広げてから挿れてるし」
「うう…………突っ込まないでぇ…………」
「チンコは突っ込まねえから安心しろ。で?あかり、ここに何を入れて遊んでんだ?」

 小さな声で「……その、おちんちんの形のディルド…………」と呟けばすかさず「大きさは?」とツッコミが入る。
 幸尚は財布の中身を確認しているようだ。

「オーナーありがと、次からはアナルも使わせる」
「うん、お役に立てたようで良かったしお買い上げありがとう。でも傷が塞がるまではプレイは禁止よ、長めに1ヶ月は見ておきなさい」

 ずる、と抜かれた指の感触に「んああっ」と思わず声が漏れ、腰がつい動いてしまう。
「欲張りさんね、でもこれでおしまい。続きは傷が治ってからご主人様におねだりしなさい」
「っ、はぃ…………」

 ああもう、穴があったら入りたい、今まで穴に入れられていたけど。
 あかりちゃんも随分一人で遊んでたのね、なんて言われたらもう二人の顔を見られない。

「あかりちゃん、頭いいでしょ?……頭のいい子ってね、好奇心も強いのよ、こっち方向にも」
「あー…………うん、いわゆる天才肌ってやつだから」
「うん、だからあかりちゃん泣かないで、仕方ないんだよ」
「うぅっ、それ全然慰めになってないの……」
「俺たちは気にしねえって。ちゃんとあかりが俺たちの前で存分にオナれるように道具も買うから、な?」
「そこで触ってあげる、ってならないのが信じられないんだけど。二人とも生粋のゲイって訳じゃないのよね?」
「違います。好きになった相手が男だっただけで……女の子も、そのっ見れば興奮は」
「してるもんね、その股間」

 二人曰く「あかりちゃんに触るのは浮気しているみたいで気が引ける」「当面性器は触らない。そもそも触らないって約束で始まった関係だし」らしい。

「当面って事はいずれは触ると」
「んー、あかりが土下座して触ってくださいって言い出したら考えるけど…………」
「うん、あかりちゃんから許可が出るまでは僕は触らない」
「……ううん…………二人に、その、エッチなところを触られるのはちょっと怖いかな……」
「だろ?俺ら恋人でもねーんだし、それはあかりが受け入れられるまで待つ。奴隷だけど、俺らは対等だから」

 そこで命令して触ることを選ばない辺りが彼らの関係を表しているようで、塚野は少し安堵する。

「ま、夏休みは禁欲生活頑張りな。……むしろ学校が始まってからの方が大変だろうけどね」
「脅すなよ……あかりが喜ぶじゃん」
「奏、そうじゃない」

 やっとのことで歩けるようになったあかりを支え軽口を飛ばしながら、3人は仲良く店を後にしたのだった。


 …………


「にしても」

 幸尚の家についた途端「もう無理……痛いよう…………」と呻くあかりをなんとか宥めてシャワーを浴びさせる。
 時々風呂場から悲鳴が聞こえるが、こればかりは仕方ない。

「……まさか奏までピアスを開けるとは思わなかったよ」

 奏のシャツの裾から覗く臍を貫いた真新しいピアスに、幸尚は「また何で開けたの?」と尋ねる。
「だって」とそっぽをむく奏の耳は真っ赤になっていた。

「…………尚と、お揃いだから」
「えっ」
「あーもう、お揃いってなんかいいなって思ったんだよ!!流石に指輪は無理だし、でも俺らだけが知ってるお揃いが欲しくて……」
「っ、奏……!!」
「ぐえええっ!!ちょ、幸尚潰れる、死ぬぅっ!!」

 感極まった幸尚の、手加減なしのハグは少々刺激が強い。
 いやマジで、息ができなくてついでに背骨が折れそう。

「愛してるっ!はあぁもう奏可愛い…………食べちゃいたい……」
「おい早速約束を破る気かよ!!」
「だって奏が誘ったんじゃん!!」
「俺は誘ってねーぞ!!」

 あかりが風呂に立った後、二人は約束をする。
 あかりのピアスの傷が塞がるまでは、セックスはしないでおこうと。

「ほら、僕らがセックスしたら、あかりちゃん間違いなく興奮するし」
「だなあ、腐女子目線でも眼福だって鼻息荒くなってるもんな……」
「完全にオカズにされてるよね……興奮したら痛みそうだし、何よりスイッチが入ってプレイに突入しかねないよ」
「それは流石に……あ、だめだ。あかりは我慢させられるのもご馳走だった」
「ね、だから流石に我慢しよう?1ヶ月…………うう、我慢できるかな」
「いきなり弱気になるなよ、言い出しっぺが」

 そんな約束をして10分でこれだ。
 こいつ本当に1ヶ月も我慢できるのか、チンコ爆発するんじゃねーか?と奏もちょっと心配になる。

「うう……パンツ履けないぃ…………」

 べそをかきながらよろよろと部屋に戻ってきたあかりに「ほら尚、あかりの消毒!!」と奏は今にも奏を脱がそうとしている幸尚を無理やり引き剥がす。
 幸尚も流石にあかりの前では正気に戻るようで、少し不満そうな表情ながらもいそいそと消毒の用意を始めた。

「……ネグリジェでよかったな、パンツ履けないんじゃズボンとか論外だろ」
「あかりちゃん、乳首もガードしておいた方が良くない?寝返り打って悶絶する未来が見える」
「う、スポブラつける……」
「ついでにガーゼで保護しとくか、ちっとはマシじゃね?」

 顔を顰めながら疲れた様子のあかりだが、どこか嬉しそうだ。
「あかりちゃん、なんかご機嫌だね」と幸尚が尋ねれば「だって」とうっとりした顔で胸を、その下を見つめる。

「……ここと、ここ。……二人のモノになったって印が、嬉しくて」
「あかりちゃん……」
「奴隷になるって、こんなに幸せだったんだなって……普通じゃなくなるのがあんなに怖かったのに、不思議だね。二人がいいよって言ってくれるだけで……いいんだって安心する」
「ん…………そうだな」

 奏様、幸尚様、とあかりは小さな声で呟く。
 まるで大切な宝物を愛でるように。

(まだあかりの心が解き放たれた訳じゃないけど……一歩進んだな)

 そんなあかりに奏と幸尚は、改めてこのすっ飛んだ、それでいて心の内をやっと自分たちに曝け出せた幼馴染を大切にしようと誓うのだった。

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