沈黙の歌Song of Whisper in Silence
沈黙の歌Song of Whisper in Silence
HomeNovelBlogGalleryToolsProfileContact

1話 現世の交わり(SIDE BL)

小説一覧へ

 新太は己の行いを深く後悔していた。
 そう、マリアナ海溝よりも深く、地球の裏側に突き抜けそうな勢いで、己の不甲斐なさを嘆いていた。

(そうだった、殿下はいつだって積極的で、精力的で……こと色恋に関しては少々強引なところのあるお方だった! いや、前世からひっくるめて全部俺のせいだけどさ!!)

 なるほど後悔先に立たずとはこういうことか! と引き攣った顔で見上げた先にあるのは、目を潤ませ頬をほんのり染めた……生まれたままの姿の神様で。

「一目惚れから11年、夢で思いを遂げて3週間……ヴィナよ、私は十二分に待ったと思うのだ」
「そっ、そうですね!その、お待たせして大変申し訳ございません……でもっ、もうちょっとこちらに落ち着かれてから、あと俺の覚悟が決まってからにしていただけると」
「既に夢では交わったでは無いか、これ以上、お主は何の覚悟を決めるのだ? なに、今日はそこに寝ておるがよい! ……待たせた分はたんと食べさせて貰うぞ?」
「ひいぃムシュカ様が肉食獣に、んむぅっ!?」

 これ以上の言い訳は要らぬとばかりに、いつもより少し乱暴に合わさった唇から、ぬるりと柔らかな舌が差し込まれた。
 ずるりと温かなざらつきとぬめりが絡み、内を撫で上げられれば新太だって男だ、無意識のうちにムシュカの上顎を擦り、肩を震わせる弱いところを撫で上げ、互いの味を交換する。

「ふぅ……ん……っ……んふ……」

 一体どのくらいそうしていただろうか。
(あれ、リアルディープキスってこれが人生初じゃ)と今更ながら気付いた新太の口から柔らかい唇が離れる頃には、互いの息はすっかり湿り気を帯びていて。

「んは……っ……」
「はぁっ……ははっ、ヴィナ、お主も随分艶めかしい顔をする……んっ……」

 ――お主が食べぬと言うなら、私から食べるしかあるまい?
 そんな声が聞こえそうなほどの熱情を瞳に湛え、妖艶に微笑みながら舌なめずりをするかつての主君であり永遠の最推しである神様の姿に(こんなことなら、もっと早く応えておくべきだった!)と新太は鼻息を荒くしつつ心の中で叫ぶのだった。


 ◇◇◇


 ようやく訪れた現実での初夜を、それはそれは華麗なる寝具の介入により阻止されて。
 目が据わった神様と共に新たなベッドと寝具一式を買い揃えたその夜から、ムシュカは毎夜のように「……食べぬのか?」と新太を誘い続けてきた。

 だというのに、やっぱり色恋沙汰となった途端全力で腰が引けてしまう愛し子は「そういうのは神様……じゃない、ムシュカ様が落ち着いてからにしましょう」と幼子のような口付けだけを交わして微笑み、決して小柄では無い神様を抱き締めたまま、すぅと夢の世界に旅立ってしまうのである。

 もちろんムシュカだって、新太が頑なに譲らない理由は理解している。
 彼が最推しと呼んで憚らない神様は、ほんの数日前に気候も食事も……そもそも文明自体が全く異なる異世界に、着の身着のままで放り込まれた身。しかもここに来る直前までは、拷問じみた扱いのせいで精神がほぼ壊れていたときた。
 近所を散歩するのすらおっかなびっくりな推しに、夜まで無茶をさせるわけにはいかない――そう判断するのは新太の、というよりヴィナの性格からしても至極当然であろう。

 だから、ムシュカも一応我慢は試みた。
 正直そんなことはどうでもいいから、あの夢の中で味わっためくるめく快感と熱をこの身に直に打ち込んで欲しい、それで多少疲弊しようが与えられる幸福に比べれば些細なものだと全力で新太を説き伏せたかったけれど、彼が自分を大切に思ってくれていることはひしひしと伝わってきたから。

 それに何より……存外自分は全てを奪われたあの空虚さに恐怖していたのだろう。
 優しい口付けと大きな胸に包み込まれる夜は途方もない安堵をもたらし、あっさりと夢の中へ誘われる日の方がずっと多くて、それどころで無かったというのも事実である。

 ……とはいえ、ムシュカにだって限度というものはあって。
 まして、抱き締め合った下腹部に無意識にであろう押しつけられる凶悪な固さや、神様が寝付いた事を確認するや否やそっとベッドを抜け出し、トイレに向かう新太の真っ赤に染まった耳に何度も気付いていながら、募る熱を帯びた想いをいつまでも押し留めておける筈が無く。

「ちょ、むっ、ムシュカ様!! お願いしますそんなお姿を見せつけないでえぇ! うああ恥ずかし過ぎるぅっ!」
「ふぅっ……んっ……全く、お主が恥ずかしがってどうするのだ……? ほれヴィナよ、直に確かめてみよ。ここもお主が欲しいと……んうっ……ひくついておる……っ」
「うにゃあぁぁ!? 神様そっそんなところに俺の指を持っていかないで、あっ結構柔らかいし熱い、じゃなくて!!」

 ぐちゅぐちゅと卑猥な音と押し込めたような掠れた嬌声が、小さな部屋を満たし新太の脳髄をドロドロに溶かしていく。
 一体いつの間に見つけたのだろうか、ベッドの下に隠してあったはずのオナホ用潤滑剤を指に纏わせたムシュカは、事もあろうにこちらに背を向けたかと思うと、尻のあわいを割開き慎ましやかな蕾を見せつけ、ぬぷぬぷとその細い指を出し入れし始めたでは無いか。

(ひょえぇぇぇ神様のサービスカットがヤバすぎる! あっあっそんな小さな穴を一生懸命広げて、待って中から何か垂れてるっ、モザイク無しは股間に来るぅ!!」)

「んうっ……はぁ…………うむ、もう待てぬな」
「……っ…………殿下ぁ……っ!」

 あまりにも蠱惑的な光景を見せつけられ、新太の下腹部に熱が集まる。
 胸の鼓動はひときわ大きくなり、ぐっと視界が狭まって……もう、麗しの推ししか見えない。

「ふふ……愛いな、ヴィナよ……」

 ひとしきりとんでもない痴態を見せつけた神様は、そろりとこちらを振り返る。
 その瞳には喜色が灯っていて、目を見開いたままはっはっと息を荒げる愛し子の姿に随分ご満悦そうだ。

 ……どうしてそこで、ちろりと濡れた唇を舐めるのか。
 この推しは相変わらず人を無意識に煽るのが上手であらせられる。

「本当は……はぁっ……頭のてっぺんから足の先まで、全てを愛でて食べて貰いたいところだが、な……まあ今日は仕方あるまい。これに懲りたら次は自分から誘うのだぞ、アラタ?」
「ひぇっこのタイミングで本名はずるいです、ってちょ、待って殿下本気で挿れうあああ」
「お主が殿下と呼ぶ限りは、アラタと呼ぶと言ったであろう? ……ほら、お主も先端で感じるであろう? ここは……アラタの熱い滾りを悦んでおるぞ?」
「……!!」

 さて、現世での熱をたっぷり味わわせておくれ――
 はぁっと熱い吐息を漏らしたムシュカの右手が、今にも暴発しそうな新太の熱い屹立に触れて、先端を食んでいた秘部がそっと口を開けて飲み込まんと腰を落としていく。

「…………」
「………………っ、ムシュカ、様……?」

 ああ、食われる――
 そうぎゅっと目を閉じた新太は、次の瞬間襲いかかるであろう甘美なる刺激に、せめて情けなく果ててしまわぬようにと気合いを入れる。
 けれども、その瞬間はいつまで経っても訪れず……先端の丸みを中途半端にただ食みつづけるもどかしさにそっと瞼を開ければ、そこには相変わらず熱に浮かされた、しかし少々困った顔をした神様がいた。

「ムシュカ様、大丈夫ですか? その、無理は良くないっすよ」
「うむ。……これは、大丈夫では無いな」
「へっ」

 いつもなら何事にも自信たっぷりに「大丈夫だ、何の問題もない」と笑顔で返してくるはずの彼は……いやいつも通り鷹揚で自信に満ち溢れていたけれど、次の瞬間新太に冷や水を浴びせるような言葉をその色っぽい唇で紡ぐのであった。

「あまりに痛すぎて、これ以上挿れることも抜くことも出来ぬ! ははっ、これは参ったな!!」
「うわああ全っ然だめじゃないですか!! あわわ……こういうときどうすれば」
「ヴィナよ、落ち着くのだ。なに、ここは思い切ってお主が根元まで突っ込めば、事は成し遂げられる」
「それ絶対やっちゃだめなやつです! ほら、抜きますからちょっと我慢して下さい、って痛てててムシュカ様先っぽがもげる! 食いちぎられちゃうぅ力抜いてえぇぇ!!」


 ◇◇◇


「……死ぬほど痛いな。夢では初めてでも全く痛みは無かったのだが」
「当たり前です!! ムシュカ様は人の身体の脆さというものを、もう少し自覚なさってください! ……ほら、軟膏塗りますよ? あーあーがっつり切れちゃってる……」
「ぐぅ……恐ろしくしみるな……ヴィナよ、もうちょっと優しく塗れぬか」
「全力で優しく塗ってもしみると思いますよ、これじゃ……」

 明くる朝。
 以前よりは幾分広くなった丈夫なベッドの上には、うつ伏せになって呻くムシュカと、半泣きになりながら24時間営業のドラッグストアに駆け込み、痔の薬を手に入れた新太の姿があった。
 朝日が差し込む部屋で推しの痛々しい窄まりにそっと軟膏を塗り込めば、あまりの痛みにびくりとまろい尻が跳ねて……こちらまでお尻が痛くなってくる。

「いくら何でも無茶しすぎですよ……受け入れる側は確か、かなり準備を必要とするでしょう? 前世の知識だからあやふやですけど」

 薬を塗り終えた新太は、改めて神様の秘めた蕾をじっと眺める。
 何の穢れも知らない、色の薄いそこは半透明の膏薬に覆われテラテラと光っていて、途端に昨日のムシュカが脳裏に再生されるものだから、実に股間によろしくない。

 大体、こんな可愛らしい穴じゃ自分の体格に見合った元気な息子さんはただの凶器でしかない……と新太はため息と共にしょんぼりと肩を落とす。
 だがそんな愛し子を気遣おうとしたのか「うむ、常々準備はしておったのだ」と呻き声の合間に返事が返ってきて、思わず新太は「はい?」と素っ頓狂な声を上げた。

「つね、づね…………!?」
「お主を正室に指名した以上、いつ何時そういう事態になっても良いように備えるのは当然であろう。あの頃は政務の合間を縫って地道にだな……ヴィナよ、ティッシュは枕元にあるぞ。その様子では先に詰めておいた方が良いのでは無いか?」
「だだだって、推しの脳内妄想エロスチルがまた増えたんですよ! これで反応しないとか最早人間じゃ無いっす!! にしても、前世の俺じゃいくら準備したって無駄だった気が……」
「いいや、恋人と手も繋げないようなもじもじヴィナとはいえ、立派な男なのだ。覚醒する可能性はゼロではない……少なくとも私はずっと信じておったぞ?」
「……ええと、その……前世の俺がすみませんでした…………」
「なに、お主には人より時間が必要だった、それだけのことだ」

 痛みに顔を顰めながら、しかしムシュカは目を輝かせて「これは実に良い学びだった」と何やら頷いている。
 二度も思いを遂げられなかったのだ、流石に意気消沈しているかと心配していた新太は、その意外な反応に少し戸惑いを覚えつつもご機嫌で何よりだとひとまず安堵を覚え、何気なく「学びですか?」と聞き返した。

 ……数十秒後、その判断を全力で後悔するとも知らずに。

「お言葉ですが、学びと言うには随分代償が大きすぎる気が」
「いや、この程度の痛みなど可愛いものよ。どれだけ入念に準備しても1年も放置すれば元通りになると知れたことは、実に大きい。……つまりヴィナよ、私の穴を健やかに保つためにも、これからお主は毎日私を美味しく頂かねばならぬと言うことだな!」
「ちょっと待った、論理の方向性がぶっ飛んでますよ神様!!そもそもそこは、健やかって表現する場所なんですか!?」

 新太のツッコミもお構いなしに、これでお主も誘いやすくなったであろう? と神様は満面の笑みを浮かべる。
 そう、このお方は元王太子なのだ。
 有能で民想いと名高かった彼はいつだって王族らしい威厳と自信に満ち溢れていて……その光はあの頃の「ヴィナ」にはあまりにも眩しかったが、まさか尻に傷を負ってすらその威光が衰えぬとは、想定外にも程があろう。

「なに、準備は入念に行うから案ずるでない。お主は頑張って誘い文句を考えておくのだぞ?」とこんな状況においても懲りない神様に一抹の不安を覚えながら、新太は当面夜の絶対安静を宣告するのであった。


 ◇◇◇


 設定上は高卒の浪人生という扱いになっているとはいえ、ムシュカはこの世界のことをほとんど知らない。
 加えて刺激への過敏さや眠りに落ちるときに生じる不安は未だ健在で、新太がいなければ外出もままならないのが実情だ。

 そのお陰か、昼間一人で過ごす不安を紛らわせるよう新太が渡したスマホを使いこなせるようになるのは、あっという間だった。
「このような小さな板で書庫に眠るような情報を読めるとは、素晴らしい文明であるな」と子供のように興奮しきりなムシュカの笑顔に、新太は一体何度尊死しかけたことだろうか。

 全く、推しと同居というのは実に罪作りな常設イベント揃いだ。一撃必殺をこんなに用意しないで頂きたい。

「ところでヴィナよ、少し頼みがあるのだが」

 ……それから2週間ほど経ったある日。
 神様が「少々買いたいものがあるのだが、この世界の支払いはどうすればよいのだ?」と聞かれた新太は、何の躊躇いも無くカードを手渡す。

「ほう、このような板で買い物をするのか……金貨や銀貨がこの中に詰まっているのか?」
「えっと、お金は銀行ってところに……ってあれも結局データだしな……まあいいや、そんな感じです。この番号を入れれば購入できますんで」
「ふむ……本当にこの世界のからくりには、驚くばかりであるな」

 王太子であった頃には私的な物の購入には随分慎重だったムシュカのことだから、金銭面に関しては特段心配もない。
 何より彼がこちらに来てからと言うもの、おはようからおやすみまで供給が豊富すぎて……そろそろ盛大なる課金をしないと、こちらの申し訳なさが暴発しそうなのだ。

 これは渡りに船だったと、スマホをポチポチ操作する神様を見つめる新太の顔は、緩みっぱなしである。

(いやぁ推しに貢げるなんて幸せ過ぎる……はっ、でもこれで神様の笑顔が魅力的になったら、俺の尊死確率が上がるだけでは!?)

 そんな脳みそが沸いたような思考に百面相を繰り返す新太を、ムシュカは微笑ましげに眺めながらも無事人生初のネットショッピングを完遂したらしい。「これで遠くの街に行かずとも買い物が出来るとは素晴らしいな」と感心しきりである。

 すぐさま新太のスマホにやってきた利用通知も十分想定内で、流石俺の最推しは分かってる! と悦に入っていたのは……確か2日前のことだったか。

 ……そう、金銭的な心配「は」全くなかった。
 だから、すっかり新太は油断していたのだ。

「え、ええと……ムシュカ様これは……?」
「なかなか綺麗であろう? これは初心者向けの『でぃるど』と『あなるぷらぐ』だそうだ!」
「し、初心者、向け……?」
「なに、ようやく尻の調子も良くなったからな、準備は早いほうが良かろうよ。ああ、ちゃんと専用の潤滑剤は購入したし、先日使い込んでしまったお主用の潤滑剤も補充しておいた」
「どうしてこうなった!! ……って、使い込むほど中に入れてたんですか!? どうしよう、推しが尊さと残念さの両面攻撃を仕掛けてくる……!」

 仕事を終えて帰宅した新太に開口一番「ヴィナよ、もう商品が届いたのだ! 実に素晴らしいな、この世界は!!」と抱きついてきたムシュカは、まさに「神」であった。
 これだけで課金額の3倍くらいの尊さは頂いた、なんと推し甲斐のあるお方よ……と新太は感動に打ち震え、思わず目頭を押さえたほどだ。

 しかし夕食後、新太の目の前で小さな小包を丁寧に開けたかと思うと、嬉しそうに色とりどりの、しかし色々と残念な製品を開陳するムシュカの姿に、新太は別の意味で天を仰ぎ、嘆く羽目になる。

 ――ああ、心配すべきは神様の積極性の方だった。
 尻の健康を取り戻した段階で、このお方にストッパーなどある筈が無かったのだ!

「しかし、実に不思議な手触りだな。こちらのは芯はしっかりしておるが表面は柔らかいし、このすべすべした感触もなかなか面白い。我が国の性具よりも身体の負担は少ないかも知れぬな……少し試して」
「ちょっと待ったムシュカ様! そっその、一体どこでこのようなグッズを見つけたんですか?」
「ん? ああ、お主用の潤滑剤が入っていた紙の箱に、何やら紙が入っておってな。使った分は補充せねばと店のあどれすとやらを入れてみたのだ。するとだな、なにやら男性向けの拡張講座なるものが」
「うああああ、推しの道を踏み外させたの、俺じゃん!!」

 きっと神様のことだ、好奇心に駆られてこちらの世界の性事情を調べたのかと思い、危ないサイトもあるから……とやんわり窘めようとしたはずなのに。
 まさか届いた箱を開けて請求書も処分しないまま、アダルトグッズをベッド下に放置していた自分のズボラさが神様の好意を捻じ曲げてしまったとは思いもよらず、新太は床にめり込む勢いで土下座を繰り返し

「おお、これは随分もったりした潤滑剤なのだな……なるほど乾きにくく長時間楽しめる、今の私にはぴったりでは無いか!」
「いやどれだけやる気満々なんですか神様! お願いします今日のリアイベはこのくらいで勘弁して下さいっ、もう墓石が足りません!!」
「……ヴィナよ、お主が私を尊んでくれるのは実にありがたいが、少しは耐性をつけようとは思わぬのか?」

 開封イベに続いて更なる高みを目指そうと下着をいそいそと脱ぐムシュカを、全力で押しとどめるのであった。


 ◇◇◇


「ヴィナよ、今日は3.5センチのぷらぐが入ったのだ! もうすっかり馴染んでしまってな、抜くと少々腹が寂しく」
「ムシュカ様、お願いですから帰宅した瞬間に俺を殺さないで下さい。……ううっ、分かりました、成果は後で伺いますからそんなしょんぼりしないで、ね、ほらご飯にしましょう!」

 それからというもの、ムシュカはその飽くなき探究心を自己開発に全振りし、実に充実した拡張生活を送るようになってしまった。
「まだ準備も出来ていないのに、俺がやる気になったら大変ですから!」と新太の前でえげつない玩具達と尻で戯れるイベントだけは全力で阻止したものの、一人で過ごす暇と不安も相まってか、昼間はせっせといけない遊びに全てを注ぎ込んでいるらしい。

(ま、まぁ、ずっとえっちい事ばっかりしてるわけじゃないし……にしても、まさか神様がここまで家事をこなせるようになるとは思わなかったなぁ……)

 ――生来の飲み込みの早さ故か、ムシュカは一通り使い方を教わった家電を見事に使いこなし、日々洗濯に掃除に炊事にと励む日々を随分楽しんでいる。
 何せ元は王族だったのだ、何一つ経験が無かったからこそ面白いのだと語るその声には、嘘も虚勢も無さそうだ。

 だからこそ、昼間はどれだけ耽溺していても窘めようがないんだよな……と新太は苦笑を漏らしダイニングの椅子に腰掛ける。

 目の前に広がるのは、ほかほかのご飯に具だくさんの味噌汁、そして焼き魚と酢の物だ。
 ほんの一月前まで概念すら知らなかった異世界の料理だというのに、神様ちょっとスペック高すぎない? と思いながら口に運んだ魚は実にふっくらとした絶妙の焼き加減で「そうだよ、これを求めてたんだよ!!」と心の中の食いしん坊がすかさず雄叫びを上げた。

「ほんっと、神様は全知全能すぎて……はぁ、尊さに後光がさしてる……」
「ふふ、ヴィナが幸せなら何よりだな」

 そう、かつての主君はあの頃と変わらず何事においてもそつなくこなす、いわゆるスパダリというやつのままだ。
 ……ちょっと好奇心が旺盛すぎて、知らない世界にも躊躇無く飛び込んでいく柔軟さが全方面にありすぎるのが、玉に瑕ではあるが。

(にしても今日の神様、ちょっと色っぽいような……)

 ムシュカがこの地に降りたってから、家で過ごす食事の時間は随分色鮮やかになった。
 一人静かに味を噛みしめるひとときもそれはそれで悪くは無かったが、やはり愛しい人と向き合い、同じ時と味を分かち合える瞬間は格別だ。料理の味だけでは無い、なんとも温かく優しいものが胃袋と心をじんわりと満たしてくれるから。

 だがそれにしても。
 髪をかき上げる仕草が、随分扱いに慣れた箸を口に運ぶ所作が、そして味噌汁を口にしてほぅと漏れる温かい吐息が……今日はまるで淡いピンクを帯びた矢のように、新太の胸にプスプスと刺さっている気がする。

「週末には、またあの食材店に行かぬか? お主の好きな麺料理を、何としても再現して……どうした、ヴィナ」
「え? あ、その……今日のムシュカ様、なんだかいつも以上に美しいなって」
「ふふ、そんな惚けるほどの美しさか。お主は表情も反応も素直で、実に愛おしいな」
「んぐっ!? か、神様っその唐突な告白は天に召されますって……んん?」

 不意打ちのせいで魚を喉に詰めかけた新太は、慌ててグラスに注がれた麦茶をあおる。
 そうして何気なしに逸らした視線が捉えたのは……リビングの一角に設けられた、小さな棚だ。

 そこには、ムシュカが買いそろえた大小様々なディルドやプラグが、整然と並べられている。
 どうも完全無欠に見える神様は、恥じらいという概念だけはかの国に置き忘れたまま、この世界にやってきてしまったようだ。
「二人の家なのに、何を隠す必要があるのだ? ましてあれはお主からの贈り物では無いか」と可愛く小首を傾げられては、いや俺は推しに課金しただけでブツを送った覚えは無い! と反論することも出来ず。
 お陰で新太は、インテリアよろしく並んだ破廉恥な道具を眺める度それ来たと暴走する息子さんに、すっかり手を焼いている。

 ――だが、今日の問題はそこではない。

 2段目の右から2つ目。
 明らかに見た覚えの無い謎のフォルムの物体が、鎮座している。
 先が膨らんだ棒状?の部分は何となく使い道も分かるが、根元にはもう一つ……短い突起が付いている。いくら神様が異世界の人とはいえ、男にそれの入る穴はないはずだ。

 そう言えば、数日前にカードの利用通知が来ていたような……と新太がそうっとムシュカの顔を見ればその意図に気付いたのだろう、神様は花のような笑みを零した。

「なかなか面白い形であろう? いや、この世界のからくりは人類の叡智の結晶と呼ぶにふさわしい! ……あれは『めすいきすいっち』なるものを開発する道具でな」
「ちょ、今神様から出てきてはいけない言葉が聞こえたような」
「穴を拡げるのもそれなりに悦くはあるのだが、あやつを使うと腹の中と外から効率的に刺激出来ると書いてあったのでな……ふふっ、本当に勝手に動いて気持ちよくなれるのだぞ! あまりの快感に、気がついたら夕方になっておって」
「それか、そのフェロモンまき散らしまくりトロ顔の原因は!!」

 ちょっと病みつきになりそうだとうっそりした顔でレビューをつれつれと語る神様に、推しの笑顔こそが生きる原動力である新太が何かを言えるはずも無く。
 新太は「お主も少し試してみるか? 日頃の疲れも癒えるかもしれぬ」と善意100%のオーラを纏ってとんでもない爆弾を投げつけてきたムシュカを、必死に押しとどめるのである。


 ◇◇◇


「……今日はいつにも増して元気なようだな」
「ムシュカ様は、ご自分の魅力に気付いてなさ過ぎだと思うんですよね……」

 カーテンの隙間から月明かりが差し込むベッドで、二人はいつものように抱き合い口付けを交わす。

 相変わらず新太は子供のような可愛いキスをするだけで、ちょっと舌で唇を突けば目を白黒させる有様だが、それでもたった一月でムシュカが何も言わずとも、自ら唇を触れ合わせられるようになった。
 これは革命的進歩だと内心感動している神様は、特段それ以上を急かすことも無く、愛し子の穏やかで優しい愛を受け止めている。

(まぁ、こちらは全く優しく無さそうだったがな……服の上からでも立派だとは思っていたが、ここまでとは)

 時折謝りながらも擦り付けられる剛直は、確かに新太の体格を思えば当然の大きさであった。
 在りし日には何も考えず自分の大きさを目安に準備をしていたのだが、今思えばヴィナが超絶奥手で良かったかも知れぬと、ムシュカは内心安堵している。

 ――今の新太だから、半泣きで軟膏をてんこ盛りにされるだけですんだのだ。
 これがあの頃のヴィナのままなら、初めての秘め事を終えた瞬間、責任を感じて自害を試みたに違いない。

「……もう少しだけな、待っておれよ」
「んぅ……ちょ、ムシュカ様……」

 ムシュカの細い指が、服越しの雄にするりと絡む。
 思わずびくりと腰を跳ねさせ息を詰めた新太の耳に「……分かっておるのだ」と少し掠れて不安を帯びた声が流し込まれた。

「ここは平和な世界で、恐ろしい業火も存在しなければ、お主が戦いに出る必要も無い」
「ええ。……その節は盛大な勘違いをさせてしまって、すみませんでした……」
「よい、私が早とちりしただけだ。……それでもな、不安は消えぬ」

 またこの温もりが、理不尽に奪われてしまうのでは無いか。
 冷たい寝台の上で枕を濡らすだけの日々に、戻ってしまうのでは無いか。
 ――刻み込まれた喪失は、再会と同居を経てもなお、ムシュカの心に小さな棘を刺したままだ。

「だから私は、お主にうんとよりをかけて食事を振る舞うし、一刻も早くその熱を受け入れたいと願う。夢では無く、この世界で、な」
「ムシュカ様……」
「これはな、今日が最期であっても悔いは無いと、自分に言い聞かせたいだけの我が儘に過ぎぬのだ。……やつれ果てたお主のために必死で神を演じてきたが、私はただの人だぞ、ヴィナ」

 推してくれるのは実にありがたいが、どうか一人の恋人であることも忘れないでくれ……
 そう呟きながら眠りに落ちるムシュカを抱き締める手に、ぐっと力が入った。

「……大丈夫です、ムシュカ様。俺はもう絶対に、あなた様を置いてどこにも行きません。それに」

 神であろうが人であろうが、俺にとってムシュカ様は、生涯を共にする唯一の人ですから――

すうすうと寝息を立てる麗しき人の頬にそっと口付けを落として、新太は改めて誓いを立てるのだった。

「にしても……神様、流石にそこを握ったまま眠るのはちょっと……うう、どうしようこれ……」

 ……参ったなぁともどかしそうに腰を揺する新太の胸の中で、最推しの神様がふっと微笑んだことには気づかずに。


 ◇◇◇


「ただいまー……あ、この香りはもしかして」
「うむ、久々に故郷の味を楽しむもよかろう? すーぱーのご婦人が良き肉を見繕ってくれてな。この世界でこれほど立派な骨付き肉は、なかなか手に入らないと聞いたが」
「そう言われれば、スーパーでも普段はあまり見かけない気が……あーお腹が鳴っちゃう」
「ふふっ、地響きは起こすでないぞ?」

 ようやく蝉の鳴き声も収まってきた、ある日のこと。
 玄関を開けた瞬間にふわりと鼻をくすぐるどこか懐かしい香りに、新太の顔がぱぁと明るくなる。
 いそいそと着替えて向かったダイニングには、夢での逢瀬を思い出させるような料理がでんと鎮座していた。

「お主が先週連れて行ってくれた、あの食材店は実に良いな。向こうの味にかなり近いものが再現出来る」
「あーやっぱり、クラマ王国の食事はエスニック系なんですね……あそこは、ここから海を隔ててずっと南にある国で使われている食材の店なんです。もしかしたら同じような料理もあるのかな」
「ふむ、それはい是非訪れてみたいものよ」

 丸いプレートに盛られたのは、お椀をひっくり返したような形にこんもり盛られたご飯だ。
 この国で食べ慣れた粘りと甘さを誇る米では無く、少し長くてぱらぱらした米を炊いたご飯は、赤と黄色と白が混ざっていて目にも美しい。

 その向こうには、クリスマスでも無いとお目にかからないような骨付きもも肉のフライドチキンが添えられている。
 これほど大きな肉にしっかり火を通すのは大変なんだよな……と感心しながら大口で遠慮なくかぶりつけば、柔らかい肉にシンプルな塩味と溢れんばかりの肉汁とが混ざり合って思わず頬がゆるんでしまった。

「エビとこっちの肉は、少し辛みを抑えてみたのだが」
「うん、このくらいなら……いや辛いな! あ、でも美味しい……ひぃ辛い……もうちょっと……」

 添えられた殻付きのエビは、玉ねぎと共に真っ赤なソースで炒めてある。
 ちょっとドキドキしながら舐めたソースは相変わらず新太には激辛レベルで、ただ焼けるような辛さの中に混じった甘味と酸味が後を引く美味さを主張してくるものだから、水を飲みながらでもつい手が止まらなくなるのだ。

「でも、ムシュカ様には少々刺激が少ないのでは? これ、多分前世の俺なら辛くないって一蹴するレベルですよね」
「まあそうなのだが……今日はこのくらいの方が具合が良いのだ」
「?」

 これまたスパイスとココナッツの風味が香しい、甘辛く煮込まれた牛肉を頬張りながら、新太は首を傾げ、そして今更ながら気付く。
 ……今夜のムシュカの前にあるのは、エビを炒めたソースを絡めたわずかなご飯、そしてキノコのポタージュだけだということに。

 ちなみに新太はと言えば、既にプレートのお替わり3皿目だ。
 つい数ヶ月までは、あの銀色のパウチ一つで生き延びていたなど、振り返れば自分でも奇跡にしか思えない。

「もしかして体調が良くないっすか? あれかな、慣れない気候と疲れが溜まったのかも」
「いやそうではない。見てみよこの肌艶を、どこに不調の欠片がある?」
「神様はいつも光り輝いてるから、見た目じゃ分からないんですよ!」
「お主の推し概念は、恋より盲目であるな……」
「え、ちょ」

 お替わりのエビをつまもうとした新太の手を、そっとムシュカは掴む。
 突然のことにぽかんとする愛し子の間抜け面すら愛おしいと言わんばかりに微笑んで、その手を引き寄せて、ソースに汚れた指が行き着く先は

 くちゅっ……

 柔らかくて、温かくて、ぬるりとした……愛しい人の口の中。

「~~~~!?」
「のう、ヴィナよ。……ようやく準備ができたのだ」
「なっ、えっ、あっじゅっじゅんび、じゅんびね!! って準備いぃ!!?」
「食事が終われば先に湯浴みをしてくると良い。……私はしっかり洗わねばならぬからな」
「…………!」

(きた)

 どくん、と新太の心臓がひときわ大きな音を立てる。
 何の準備だなんて、もはや問うまでも無い。

 この世界に降りたって二ヶ月。
 この麗しい神様は、とうとう己が想いを遂げると愛し子に向かって高らかに宣告されたのだ――!

「…………ムシュカ、様」

 しばしの沈黙の後、ようやっと口から溢れた言葉は、思った以上に掠れていて……情欲を含んでいて。
 ああ、この瞬間を待っていたのは神様だけでは無いのだと、否が応でも思い知らされる。

「その……今回は無理してないですよね?」
「うむ、お主のサイズ感は把握済みだしな」
「把握、っていつの間に」
「あそこに飾っている桃色のでぃるどが、4.5センチでな。元気なときのお主より一回り大きいであろう? あのくらいなら余裕で入るし、何なら同じ大きさのぷらぐを朝から入れっぱなしで」
「ちょっと待って、今さらりととんでもないこと言ってませんか!?」
「時々腰が砕けそうになるがな、慣れれば家事くらい造作ないものよ」
「うあああ神様がどんどんいけない世界に嵌まっていくうぅ!!」

 叫びながらもムシュカのごちそうを平らげ、二人仲良く片付けをしながら、ムシュカはこれまでの苦闘(?)を楽しく語っている。
 神様にしては珍しく饒舌で、多分それはようやく訪れた日への興奮だけでは無く、どうにも恋には臆病な新太の緊張をほぐすためだろう。

(……そう、いつだって俺は、殿下に助けて貰ってばかりだ)

「ムシュカ様、お風呂どうぞ」
「うむ。……楽しみにしておるぞ、ヴィナよ」
「はっ、はい!」

 バスルームから聞こえる水音が、やけに耳に響く。
 心臓の鼓動が外から見えそうなほどの緊張の中、新太はベッドに腰掛けてじっと右手を見つめた。

 この手を神様に握りしめられ戻った記憶は、時を経て少しずつ鮮明になってくる。
 その中には、あの瞬間も――赤に染まった視界の中で初めて聞いた己が主君の悲痛な叫びも混じっていて、不意に思い出しては新太の胸をぎゅっと締め付けるのだ。

 かつてこの手は、愛しい人を守り抜けず涙に染まり、王となるべき人の道を踏み外させてしまった。
 あれから、ムシュカにとっては1年あまりの時が過ぎた。
 けれど……自分は27年分の成長を遂げた、はずである。

 ――だからもう、決してあなたを不安になどさせませんから、殿下。

「……覚悟を決めろ、新太」

 俺は今日、本当の意味であの方の伴侶になる――

 新太はぱん! と寝室に小気味よい音を響かせ、頬に気合いを入れる。
 夢の中では上手くできたのだ、三次元だって人生初であろうが何とかなる! と何度も心の中で繰り返し

「むむむムシュカ様っ、おっ俺初めてだけど精一杯頑張りますからっ! どっどうか俺とえっちいことをして下さいっ!!」
「……やはりそうなるのか、全く……ふふっ、お主はそこだけはヴィナのまんまだな!」

 湯上がりでほんのり色づいた肢体を大判のバスタオルで包んだ神様が現れた途端、その場に土下座し頭が床にめり込む勢いで額ずいて「お誘い」をかけたのだった。


 ◇◇◇


「……少しは落ち着いたか、ヴィナよ」
「は、はい……あの、別の意味で全然落ち着きませんが」
「それはむしろ好都合であろう? 何せお主には『ヴィナ』の魂が入っておるのだ、此度はあの頃のような獰猛さを、もう一度見せつけてほしいのだがな」
「ひょえぇ、そんなっ神様を襲うだなんて畏れ多い! お願い死なせて!!」

 あの後。
「やった……俺はやりきった……!」と土下座したまま放心状態となってしまった新太を叱咤しつつベッドに誘い、神様が大柄な身体をその胸に抱き留め、ぽんぽんとその背を叩くこと十数分。
 流石のムシュカもこれには呆れ果てたようで「何も始まる前から終わってどうする」と至極真っ当な説教に、新太はすっかりしょぼくれていた。

 ……しょぼくれているのは顔だけで、息子さんは元気いっぱいどころか、今にも暴発しそうなのだが。

「誘って欲しいってムシュカ様が仰るから、頑張って考えたんですけど……結局どうやったらいいか分からなくて、その」
「うむ、お主がおぼこいのは今に限った話では無い。そうだな、この世界では閨事に誘うときには相手を壁に追い詰め、どんと手を壁に打ち付けると書いておった」
「か、かべ……どん……?」
「いやしかし、ヴィナの力では壁をぶち破ってしまうか……そうだ、もう少し野性的に……私を壁に押しつけてだな、そのご立派な陽物を尻のあわいに押しつけてアピールするのはどうだ? たしかそう言うのも好まれると」
「はい!?」

 そんな新太に発破をかけようと、神様はこの世界で仕入れた情報を愛し子に授けてくれる。
 どうもムシュカは「まぐわいは攻めから誘うのが様式美」だと、固く信じておられるようだ。
 確かにかの国ではそう言う風潮があったのは事実だし、その心遣いはありがたく頂きたいところだが、これは問いただしておかねばならないと新太の頭のどこかがすっと冷えた。

「…………ムシュカ様、落ち着いて下さい。一体そんな情報をどこで手に入れたんですか? いや聞くまでも無いな、絶対ネットでエロ漫画でも見たんでしょう! あああ、俺の神様が変な俗世に染まってしまう……!」
「私は至って落ち着いておるぞ、ヴィナよ。ああ、もう少し私の色気が増した方が誘いやすくなるか? ちょうど昨日『せくしーらんじぇりー』なるものを手に入れたのだ。どれ少々待っておれ、直ぐに着替えて」
「そっそのままで十分ムシュカ様はお美しいです! お願いですから、これ以上堕天しないでえぇ!!」

 ……だめだこれは。
 俺が適宜突っ込みを入れないと、この愛し子を愛でたくて仕方の無い神様は、いつか歩く年齢制限コンテンツになってしまう!

「んおっ」

 ベッドを降りようとしたムシュカを新太はぐっと引き留め、そのまま上に覆い被さる。
 ……腕の中に閉じ込めた神様は、相変わらず輝くような美しさで、血色の良い唇は夢の中よりずっと、ずっと美味しそうで……

「…………いただきます、神様」
「ん、ムシュカと呼べと…………んぅっ……」

 そっと額に落とした唇を、そのまま頬に、そして甘い唇に。
 ほんのり開いた隙間から分厚い舌を滑り込ませれば、待っていたとばかりにムシュカが絡みついてくる。

 ぐちゅ……ちゅぱ……くちゅり……

「ん……ふっ…………はぁっ、んふ……」

 突然始まった情交に目を丸くしていたムシュカであったが、直ぐにその頭は蕩けるような刺激で満たされる。
 そっと瞳を閉じれば、新太の熱がもっと近くに感じられて、それだけで胎がずくりと甘い痺れに襲われた。

(んっ……ああ、やはり食べられる方が、私には悦い)

 おずおずと腔内を探る舌をそっと誘い、じんと快楽が走る度に切なく鼻を鳴らして。
 どうやらムシュカの意図に気付いたのだろう、その動きは段々と大胆に、そして神様の反応の良いところを執拗にすりすりと撫で上げ始めた。

「んむぅぅ……っ……! んっ、ぷはっ、はぁっ……ははっヴィナよ、上手いでは無いか……」
「はぁっはぁっ……ムシュカ様っ……ああ、いい匂いがする…………」
「ん……んぁっ……!」

 存分に愛でられた口の中は、どこもかしこも敏感になって、喘ぐ息すら快楽の泡を弾けさせる。
 ほわほわとした心地よさに揺蕩っていれば、首筋に落とされたぬめる熱さに思わず高い声が漏れ、ムシュカの身体がビクンと跳ねた。

「はぁ……っ……ヴィナ……あっ……んぅ、ヴィナっ……」
「…………はい、俺はちゃんとここにいます」

 耳の裏から、首筋へ。そして、鎖骨へ。
 片方は荒い息と温かな舌が、もう片方は分厚い手が、まるでガラス細工を扱うかのようにそうっと往復を繰り返す。
 時折耳を食まれ、その内側をねぶられれば、ぐちゅぐちゅとどこか卑猥な音が脳髄を揺らして、目の前がチカチカするような快楽を訴える。

 普段より少し高く、自分でも驚くほど甘い呼び声は、愛し子にはどう映ったのだろう。
 所在なさげに空を切る手は新太によってそっと包み込まれ、落とされた口付けにすら、この身体は熱を覚えるのだ。

「どうしましょう、ムシュカ様……夢より、ずっと美味しい……」
「んっ……全くだな……お主の触れたところが、全部……ふぅっ……気持ちよくて、たまらぬ……」

 ひたすらに首元を愛で続ける新太に、ムシュカは思わず腰を擦り付ける。
 巻いていたバスタオルはとうの昔にはだけ、腹に付く程にそそり立った雄芯からはつぅと透明な雫が零れていて、まるで歓喜の涙を零しているようだ。

「ふふ……愛いな、私のヴィナは……はっ……ほれ、こちらも愛でぬか」
「あ、すみません……って、うわぁ…………神様ってこんな所まで綺麗なんだ……」
「お主、私の裸は何度見ておるであろう? 今更では無いか」

 こちら、と突き出すのは淡い桃色の、小さな胸の飾りだ。
 震える指がそっと先端をなぞれば、ふふっと小さな笑い声が漏れる。
 その声色にはどことなく余裕が感じられて、こんな時でも殿下は殿下のままだなとぼんやり思いながら、新太はちゅぅとその頂きに吸い付いた。

……愛しい人は、こんなところまで、甘い。
あまりにも甘くて、絡みついて、蕩かされ……理性はもう、かけらしか残っていなさそうだ。

「ん……くすぐったい…………ふふ……」
「う、すみません……気持ちよくないですか……?」
「……そう落ち込むでない。男の胸は、最初から感じるものではないのだ」
「そういうものですか……」
「今回は穴にかかりきりで、こちらまでは手が回らなかったからな……ヴィナよ、ここはこれからお主好みに育てるが良い」
「ちょ、神様どこでそんな言い回しを覚えたんですか! ああもうっ!!」
「んあっ!!」

 ぐちゅりと湿った音と共に、ムシュカの中心がひときわ質量を増す。
 大きな掌に握り込まれたのは、己と……愛し子の欲情の徴だ。

「あっあひっ、あちゅいっ……ヴィナっ、んうぅっ、それは出てしまうっ……!」
「ふっ……んっ、出して……ムシュカ様……っ」

 二人の雫を纏った手がぐちぐちと音を立て、ぞわぞわした熱がどこまでも膨れ上がり、ずんと下腹部が重さを増す。

(何という気持ちよさよ……これほどまでに人の手は温かく心地よいのか)
(やばっ、一緒に扱くって絵面の攻撃力が高すぎ……! 一人でするのと全然違うじゃん!)

 ああ、愛しい人の奏でる音が、脳髄を揺らす匂いが、そして火傷をしそうな程直截な熱が、これほど色鮮やかに際立っているだなんて、現実とはなんと素晴らしいものなのだろうか――

「だ、めっ……ヴィナ、出る……んあぁっ!」
「ムシュカ様っ、ムシュカ様ぁっ……!」

 新太の指が、ひときわ悦いところをぐっと抉った瞬間、二人は甘やかな悲鳴と共に熱い迸りを互いの腹の間に放ったのだった。


 ◇◇◇


「…………ぁ……ヴィナ……?」
「あ、気付かれましたかムシュカ様。大丈夫ですか? 無理、してないですか?」

 ふわりと意識が引き戻されたかと思えば、目の前には心配そうに顔を覗き込む愛し子の姿があった。
 暫くぼんやりした後、自分が気を失っていたのだと気付いたムシュカは「なに……大丈夫だ……っ」と息を荒げながら、も余裕の笑みを湛えた。

 ……多分、笑みを作れていると思う。
 何せ、おどおどと推し神様を気遣う新太は、しかしその下で

「んひっ! あっあっあんっ……それ、いいっ……ヴィナ、ぁ……っ!」
「あーやっぱり、これがムシュカ様のイイトコロなんですね。ぷっくり腫れて主張してるから、直ぐ分かりましたよ! ほら、一杯頑張って下さったからもう」
「んあぁっ!!」
「……三本、余裕で動かせます」

 ゴツゴツしたその指に互いのぬめりを纏わせ、寂しそうに口をひくつかせる蕾の中へと押し入り、丹念に泥濘とその膨らみを愛でているのだから。

「すごい……ムシュカ様、お美しい……」と感じ入った掠れ声を漏らしながら、その指はぐっ、ぐっとリズミカルに良いところを押し込み、その度にムシュカの頭の中では火花が弾け、目がぐるんと上を向く。
 熱は延々と送り込まれ、既に屹立は復活して快楽に咽び泣いているというのに出口を知らず、思わず腰を逃がそうとしても、がっちり腰を抱え込んだ腕がそれを許さない。

(これはまずい、こんな快楽は、知らない……っ!)

 なるほど夢はやはり夢であったかと、ムシュカは思い知る。
 あの甘やかな熱は、喜悦の限りをもたらしてくれたと今でも思っているけれど、それでも直に触れられ、送り込まれる熱の鋭さには……この身体を満たす狂おしいほどの熱情には、到底及びやしない。

「あっ、んっ、んぁっ、ヴィナ、ヴィナぁっ……!」
「……はぁ…………っ……乱れたお姿は、格別美しい……もっと見たいと願ってもいいですか、殿下……?」
「…………!」

(……そうだ、そのお主にも逢いたかった)

 言葉にならない喘ぎ声を上げながら、潤んだ瞳で見上げた愛し子の顔は相変わらずどこか遠慮がちで。
 けれどその眼光は……ああ、私の胸を撃ち抜いた、どこまでも勇ましく街を荒らす獣よりも獰猛な……騎士ヴィナの魂を帯びていて。

 ぞわり、と背中を駆け上がる痺れは、歓喜と畏怖と……期待に他ならない。

「ムシュカと呼べと言ったであろう、アラタ。…………お主のために仕上げた穴だ、存分に楽しむが良い」
「っ……!」

 自ら持ち上げた足の間に、熊のような巨体が滑り込む。
 舌なめずりをしながら、指に残る柔らかな感触を思い出しているのだろう。鼻息は荒く、けれどその中心を握り込む手は緊張にブルブルと震えていて、上手く当てられなさそうだ。

「ほら、ここだ。……案ずるでない、十分ほぐれていただろう?」
「…………ムシュカ様」
「ん?」

 俺、絶対優しくなれませんから――
 熱に浮かされた声が耳に注ぎ込まれるのと、奥の奥に衝撃を感じるのはほぼ同時だった。

 ずん、っ…………!

「か……は…………っ……」

 ぐぽり、と決してしてはいけない音が、胎の底から聞こえた気がする。
 長大な質量が、隘路をかき分けて一気にその内側を満たし、秘めた熱で焼き尽くし……入口に触れるふわふわした叢の感触が、愛し子の全てを受け入れたことをムシュカに告げていた。

「ぁ…………っ……!!」
「くぅ、っ……すご……先っぽなんか引っかかって……柔らかいし、きゅって締まって……はぁっ、俺っ今ムシュカ様に抱き締められてる……!」

 声が、出せない。息も、出来ない。
 一瞬にして高みに持ち上げられた――いや、これは叩き付けられるというのだ――ムシュカの見開かれた瞳からは大粒の涙がこぼれ落ち、喜びで天を突く己が象徴はいつの間にか再び白濁をまき散らしている。

(なん、と……重く、鋭く、熱いものよ……!!)

 繋がる、溶け合う、一つになれる至福の時――
 これまで交合にまつわる噂はいくつも耳にしたし、確かに夢の中での交わりはその評判に違わぬひとときであった。
 けれど、現実はそんな生易しいものではないと、白くなった世界の片隅でムシュカは呟く。

(溶ける、など……とんでもない。これは『焼き尽くされる』だ……!)

 丹念に時間をかけて熟成させ、いざ炉に放り込まれれば炎が全てを味わい尽くすまでその身を燃やし、きっと互いに灰となって混ざり合う……そんな未来に身を震わせたムシュカの腰を握る手に、ぐっと力が入った。

「……ぁ……ヴィ、ナ……」
「…………動きます。すみません、後からいっぱい土下座しますし、なんなら切腹しますから……」
「…………命をかけるなと言ったであろう……遠慮はするな、全部……お主のものだ」
「っ、ムシュカ様……っ!」

 ――お主の全ても、ここに貰ったからな?

 いくら準備をしたと言っても、やはり本番は勝手が違うのだろう。
 短い息を繰り返し、涙で潤んだ瞳と紅に染まった眦を細めてうっそりと微笑む神様は、この後に及んで「ここが、いっぱいだ」と薄い腹をどこまでも愛おしそうに撫でて。

「はぁっ、もう神様は俺を野獣にしたいんですか、それとも尊死させたいんですか!」
「ぐぁ……っ……!!」

 史上最大級の煽りは、見事に新太のわずかに残った理性を刈り取ったのである。


 ◇◇◇


 ぱん、ぱんっ、ぐちゅり、ぱん……

「おごっ……おっ、おほっ、う゛ぁっ……う゛ぃ、なっ、ヴィナっ……!!」
「ん、また出ます……ほら、いっぱい飲んで……」

 激しい律動に合わせて、ムシュカの口からは濁った喘ぎ声が勝手に漏れる。
 これほど熱い滾りを延々と味わっているのに、何故か内側に注ぎ込まれる新太の情欲は更なる熱を感じさせて、そろそろ「熱い」の概念が崩壊しそうだ。

 目の前に、星が散る。
 思考の泡は快楽に塗りつぶされ、言葉は抽送ですり潰され、中途半端に開かれた口から溢れるのは、意味をなさない音と……愛し子の名前だけ。

「ああ……かわいい……んー神様にかわいいなんて失礼……でもっ、これは可愛いだよな……はぁ、また新たな萌えポイントが出来てしまった……」

 見上げれば雄の情欲を露わにした猛獣が、なんとも無邪気に笑っている。
 さっきから何かを言っているようだが、残念ながら惚けた頭には届かない。ただ……きっと彼なりの愛を語っているに違いないから。

「……あ……あは…………」
「…………神様?」
「……足りぬぞ、アラタよ…………もっと、もっと熱をこの身に……」
「ちょ、そんなグズグズなのにまだ煽るんですか! 明日どうなっても知りませんからね!!」

(二度と消えない熱で、満たしてくれ)

 無意識に放たれた言葉に、新太は珍しく舌打ちをし、ぐっと腰を抱えなおして

(そうすればきっと……失う不安とも、共にいられるから)

 ぐぽっ、ぐちゅっ、ぐぽっ……

 湿った音を響かせ、激しく深い抽送を繰り返す。

 その度にムシュカの瞳からは、そしてくたりと力を失った中心からは、熱い雫が零れ出し、互いの境目があやふやになって。

(ああ、これほどの馳走はきっと、二度と味わえまい)

 全てが光で、塗りつぶされる――

「いっ……ぐ…………ぁ……っ!!」

 幾度目かの絶頂に意識を遠のかせるムシュカの表情は、新太が一瞬見惚れて動きを止めるほどの幸福と安堵に満たされていた。


 ◇◇◇


「……う゛ぃ……な……えほっえほっ……ぬぅ、のどが……」
「…………ムシュカ様……無理して声出しちゃだめですって……痛てて……」

 一体いつまでまぐわっていたのか、全く記憶が無い。
 ただとにかく目の前の推しが愛しくて、熱くて、気持ちよくて……だから全てをぶつけきったそのままでベッドに倒れ込み、意識を失ったのだろうと思う。

 辛うじて息子さんは愛しい人の中から引き抜かれていて、本当に良かったと新太は心底胸をなで下ろす。
 しかし案の定というかなんというか、二人は朝の光で目を覚ました瞬間から、現実という惨状を突きつけられていた。

 ぐちゃぐちゃになったベッドは、きっとパッドからまるまる洗濯が必要であろう。
 しかし今の二人に、布を剥がすだけの余力は残っていなさそうだ。

「…………これが、初夜か……確かに忘れられぬ夜よ……」
「いや、多分一般的な初夜はもうちょっとどころでなく穏やかだと……ダメだ、まだ頭がボーッとして……」
「ヴィナよ、今朝のお主はあの極悪な雇われ方をしていたときと、変わらぬ顔をしておるぞ。何故交合ごときで、そのような事態に」
「むしろムシュカ様は、何で腰と声以外はそんなに元気なんですか……お肌つやっつやじゃないですか!」

 流石にこの身体を受け止めた負担はすこぶる大きかったのだろう、今日の神様が新太の支えなしに起き上がることは叶わなさそうだ。
 だというのに「ならば今日は、何か精のつくものでも作らねばならぬな」とベッドから降りようとするムシュカを新太は慌てて押しとどめ、炊飯器で粥を作り始めた。

 その目の下にはくっきりと隈が刻まれ、くすんだ頬は心なしか……いや気のせいでは無いレベルで、げっそりとやつれている。

「神様はやっぱり神様だ……いやむしろ夜はサキュバスなんじゃ……絶対全部食べられたの、俺の方じゃん……」

 力の入らない身体を支え、腰を庇いながらそうっと屈み込み冷凍庫を開ければ、そこには下ごしらえ済みの味付きそぼろ肉。流石神様、作り置きも抜かりない。
 温泉卵も作っているし、後はネギとピーナッツを添えてごま油を少し垂らせば十分だろうと、いつだか分からない朧気な味の記憶を掘り起こしながら、新太はそぼろ肉を電子レンジに放り込んだ。

 ――そして一時間後。

「良い匂いだな……うむ、折角の機会だ。ヴィナが『あーん』するか?」
「だっ、だめですムシュカ様! 今日はこれ以上の供給は禁止!! 俺が倒れたら、ムシュカ様お一人で動けないんですよ!」

 熱々の粥をレンゲで掬い、ふうふうと息を吹きかけて口に含んだムシュカが、目を丸くする。
 そうしてふにゃりと相貌を崩し「……これは、美味いな」と呟いた姿の神々しさに「だめだ、何もしなくてもムシュカ様は供給過多だった……」と敬虔なる伴侶はその場に崩れ落ちるのだった。

 ――新太は気付いていない。
 思いつきで作った粥の味は、かつて騎士であったヴィナが病に倒れたときにムシュカが振る舞ったものと、ほぼ同じであることに。

「俺、マジで身体鍛えないとダメかも……どこかで格闘技でも習おうかな、このままじゃいつか神様の養分になって、しなしなに枯れ果てちゃう……」
「ほう、とうとう『魔熊殺し』のヴィナ復活か! ふふ、あの勇士が再び夜以外にも見られるとは楽しみだな。して、今夜はどうする?」
「ムシュカ様は、もう少しご自分の状況を正確に把握して下さい!! んもう、そりゃ俺だって悦かったですけど……あーだめだめ! これ以上思い出したらまた息子さんが暴れてしまいますっ!!」

 残暑を感じさせる鮮烈な太陽が、遠慮がちに穏やかな空間を照らす。
 そんな部屋の壁に飾られた二つの東雲の織物は、今日も願いを叶え気怠さの中で軽口を交わす二人を静かに見守るのであった。

© 2025 ·沈黙の歌 Song of Whisper in Silence